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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない

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武闘大会(五回戦)10

 いよいよ、四人に絞られた。

 第五回戦、準決勝が始まった。

 第一試合は手練れと僕との戦いである。

『セルジョ・バルトロッツィ。中肉中背。盾、片手斧持ち。前大会四位入賞者。オッズ一番人気――』

「前回四位? オッズ一位?」

「ほお」

 爺さんが感心した。

 つまり、爺さんみたいな手練れが次の相手ということか。

「いきなりハードルが上がった気がする」

「やることは一緒じゃ」

「どうしようかな」


 中肉中背とはどこまでを言うのだろうか。対面してみて分かるこの威圧感。体格が何倍も大きく見える。巨人族の間違いじゃないのか?

 前の試合で新人君がラッシュをかけたのも頷ける。この圧倒的な威圧感に飲まれたのだろう。

 とは言え、ドラゴンと比べるべくもない。気のせいに付き合っている暇はない。

 王の子飼いの可能性も捨てきれないが、どちらかと言えば、単に昨年の雪辱を果たしに来ただけの人物のように思える。

 どちらが冷静でいられるかで勝敗が決する気がする。


 開始の合図がなされた。

 セルジョが消えた! 

 しまった! 裏をかかれた!

 戦闘スタイルを変えてきた。

 装備アイテムを換えただけなのか、これが本来の姿なのか!

 油断したッ!

 結界に一撃を食らった!

 どうやら、先の戦いで僕の対戦者が『結界砕き』を使った理由が分からなかったようだ。それとも僕のような色物新人は眼中になかったか?

 僕は横に大きく剣を薙いだ。

 仕切り直し――

「!」

 間髪入れずに次の一撃を畳み掛けてきた。

 強烈な一撃だった。

 結界がなかったら、沈んでいてもおかしくない一撃だった。だとすると装備付与をしている可能性大だ!

 僕は『装備破壊』を乗せた『雷神撃』を次の一撃に合わせた。

 セルジョは咄嗟に避けたが間に合わなかった。

 切っ先が当たった。

 セルジョはうめき声を上げた。

 相当痺れたようだ。

 だが、攻撃は止まない。

 だから僕も『装備破壊』の乗った一撃を当てにいく。

 二撃目、三撃目と交錯する。

 明らかにセルジョの力が落ちてきている。

 こちらが容易く攻撃を切り返すようになると、セルジョはこちらの意図にようやく気付いた。

 そして苦虫を噛みしめるような顔をした。その顔にもはや威厳はない。

 しくじったという思いが強くにじみ出ていた。

 平静を装うべきだった。が、今の彼にはできなかった。

 心の内を読まれては、隙を突かれることになる。今度はこちらの攻撃だ。力の乗った一撃を盾にぶちかます。

「うがぁあ」

 支える腕が折れたようだ。僕は二撃目を叩き込む。

「参った!」

「え?」

 突然終った。

 わけも分からず勝者の名乗りを受けた。

 どうやら先の戦いでどこか負傷していたようだった。彼の持ち込んだ回復薬では回復しきれなかったらしい。余程の重症だったのか?

 開始直後のラッシュで方が付けられなければ降参するつもりでいたらしい。

 あの苦虫を噛みしめた顔は、今日一日の終わりを悟ったものだったのだ。

 去る者に掛ける言葉はない。

 僕は最後の戦いに備えて控え室に戻った。


 戻って早々、控え室の移動である。面倒だが仕方が無い。

 入れ違いに次の試合の選手が階段を上る。

 ゾンビ騎士……

 盾に長剣を携え、ゆらゆらと光のなかに消えていった。

 試合を見ておきたかったが、控え室の移動が先だ。

 僕たちは急いで通路を移動した。長い通路が恨めしかった。

 どんな戦い方をするのか、しっかり見ておきたかったのに。

 反対側の控え室に到着すると、僕は急いで階段を駆け登った。

 勝負はまだ付いていなかった。

 ベテラン選手が善戦していたと言った方がいいか? 完全に試合の流れはゾンビ戦士に傾いていた。

「なんなんだ、あいつの強さは?」

 相手の攻撃など意に介していないようだった。ベテラン選手の体力ばかりが疲弊していくようだった。何度も会心の一撃だと思える攻撃がヒットしていたにも関わらず、次の瞬間には態勢を立て直していた。

「腕は大したことはないな」

 遅れてきた爺さんが言った。

「あの打たれ強さはなんなんですかね?」

 みんなが集めてくれた情報メモに目を通す。

『ガスパール・カジーニ。中肉中背、盾、長剣持ち。要注意。回復スキル持ち?』

 メモに消した後があった。姉さんの字だった。何かを書いて上から塗りつぶしたようだ。

 気になったのでよくよく見てみると『神薬』の文字があった。

 僕の頭のなかの霧が晴れた。

 そうだ。もし彼が『神薬』を使っていたとしたら、すべての効果が合致する!

 圧倒的な打たれ強さのわけ。対戦相手にあきらめの心を植え付けるほどのスタミナと体力。

「神薬……」

 さすがの爺さんも沈黙した。

「どうやって薬を手に入れたんだ?」

 あれはほんのわずかサンプルとして魔法の塔にあるのみだ。

「まさか実戦投入するなんて……」

 誰だ! こんなマネをしたのは? 外部に薬の情報が流れたら、毒薬のレベルじゃ済まない騒ぎになるぞ。魔法の塔の誰かだ。それは間違いない。

 僕は観客席を見上げて、姉さんを探したが、テントのなかにはいなかった。何がどうなっているんだ?

 薬の効能は調査中で、まだ僕もはっきり聞かされてはいない。特に効果時間の情報はまだ入ってきていなかった。一定時間万能薬の効力を持続し続ける薬としか……

「どう戦う?」

「会場の検査をどうやって潜り抜けたのかも気になるけど」

 会場入りする前に飲んだものか? 

 それとも監視側に共犯者がいるのか?

 これは王の企みか? 否、王は薬のことは知らないはずだ。薬の情報は魔法の塔のトップシークレットのはず。魔法の塔のなかでも中枢の一部しか知らない秘中の秘だ。

 目的はなんだ? 魔法の塔が白亜城を取りに来ているというのか?

 爺ちゃんの命令ではないはずだ。だとすると次官のジーノさんか? いや、彼はこんな馬鹿なことはしない。情報が外部に漏れてしまうようなまねは。

「恐怖を植え付けろ」

 爺さんが呟いた。

「恐怖?」

「いくら神薬でも瞬間の痛みまでは取り除けまい? すぐ治ると高を括っているなら、延々と与え続けられる痛みは恐怖になる」

「ギブアップするまで、切り刻めと」

「勝つ気があるなら、同じ土俵に乗る以外あるまい」

「せっかくの決勝だったのに」

「仕組んだ奴を恨むことだ。取り敢えず片棒を担いだ奴は目の前におる」

 僕は外すことに決めていたイヤリングを嵌め直した。


 そうこうしている間に勝負があった。やはりベテランが負けた。何をやっても敵の回復を上回ることができなかったのだ。


 連戦になるのでインターバルが三十分儲けられた。その間、爺さんには姉さんを探して貰ったが、姉さんは捕まらなかった。代わりにヴァレンティーナ様からメモを預かってきた。

『魔法の塔で不手際。現在調査中。試合に専念されたし』

 落ち着け。落ち着け。

 決勝だというのに、不安ばかりが頭をよぎる。

 自分の作った薬に負けるなんてごめんだ。

 やらないと駄目なのか…… やらないと止められないのか?

 時間はあっという間に過ぎていく。

「時間です!」

 係の者が呼びに来た。

「がんばってください」

 彼のせっかくの応援も空しく響いた。

 鬼になるしかないのか? 薬の効果を無効化する方法は…… 『楽園』に行っている時間はない。毒薬を浄化する魔法では駄目か? 更に上位の浄化魔法。教会ご禁制の高等光魔法じゃ、僕には扱えない。水の魔法で代替できる魔法がないか? 駄目だ! 魔法は使えないんだ!

 どうすればいい。

 手数がなさ過ぎる。『雷神撃』でどこまでやれる? どうやって戦闘不能に追い込めばいい?

「恐怖を叩き込む……」

 身体が無敵なら、心を砕くしかない。

 薬を生み出したのは僕だ。やらなくては……


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