武闘大会(予選前)4
それからの二週間はあっという間だった。朝から晩まで道場に入り浸りだ。ヴァレンティーナ様を筆頭に、エンリエッタさんやサリーさん、ルチアさんやマギーさんまで、入れ替わり立ち替わり手を貸してくれた。オズローや守備隊の強者までもが噂を聞きつけ、僕と手合わせをして行った。
僕の腕はうなぎ登りに上達していった。
皆、一線級の騎士であり、実戦を潜り抜けてきた猛者ばかりだった。
殴られながら、それぞれの武器の扱い方、あしらい方を懇切丁寧に教えられた。
「例の装備いらないんじゃないかの?」
トレド爺さんにそう言わしめるまでには成長できた。らしい。
エンリエッタ戦、二十三回戦、僕は初めて一本を取った。二十二敗一勝。奇跡の勝利だった。
道場は静まりかえった。騎士団の連中は絶句した。過去十年遡ってもエンリエッタさんに土を付けた相手はいない。唯一ヴァレンティーナ様が負けなかっただけで、勝った人間などいなかったのだ。
もっともその後十連敗して、みんなに「感動を返せ」と突かれるのだが。やはり、エンリエッタさんは天才だった。まぐれはもう一生ない気がする。
サリーさんには勝てるようになった。八回に一回ぐらいだが。
ヴァレンティーナ様には今までだって勝てたためしがないのに、エンリエッタさんに勝ってからはハードルが上がって、容赦がなくなった。余程僕に先を越されたことが悔しかったと見える。
でも、手加減なしの撃ち合いを領主自らしてくれたのは有り難かった。誰よりも変幻自在でトリッキーな剣はいつも新たな発見をさせてくれた。
三十連敗して、僕のと同じ装備品を揃える約束をさせられた。まったく抜け目がないんだから。
リオナとも対戦した。素では翻弄されたが、装備を着けると互角以上の戦いができた。身体能力の差は如何ともし難かったというわけだ。あいつのスピードは完全に常軌を逸していた。
ヴァレンティーナ様やエンリエッタさんから試合形式ではなかったとはいえ、一本取ったのには驚きだ。この町のナンバーワン剣士はお子様ということになる。
因みにリオナは爺さんに勝てたためしがない。僕にとってのサリーさんのようで、相性がすこぶる悪い。
強さとは何なのか思わず考え込んでしまう結果になった。
兎に角、僕の目標はヴァレンティーナ様から一本取ることだ。そしてエンリエッタさんから二本目を取ること。ほとんど不可能なチャレンジのように思えるが、やりがいのある目標だ。
相手がいないときは爺さんと剣を交えた。交えては問題点と対処法を論じ合い、また剣を交わした。
そうして僕たちは試合当日を迎えた。
「ここで持ち物の検査と試合に使う鎧を受け取ることになっている」
爺さんが付き添いに付いてくれたのは有り難かった。三十年のブランクがあるとはいえ、経験者が側にいてくれるのは心強かった。付き添いは規定で一人まで連れていいことになっている。主に荷物の番などをする役だが。
体格に合わせて鎧を選んで貰うと、ゼッケンとこのあとの予定表を渡される。
「開会式には別に出なくてもいいのか」
「随分チャラチャラしておるな」
声の方を見上げるとアールハイト王家三男のガウディーノ・カヴァリーニが見下ろしていた。
「お休みですか? 殿下」
僕はゼンキチ爺さんに王子を紹介した。爺さんは驚くことなく一礼する。
「無理矢理休んだ。今日みたいな日に働く奴はアホだ」
すぐ側で働いている職員がいるんですけどね。その辺の配慮のなさが第三王子なんだろうけど。嫌われても知らんぞ。
「それにしても、装備が多すぎやしないかね? 狙われるぞ」
「魔法使いの出としてはこれくらいしないと安心できないんですよ」
「はははっ、謙遜しなさんな。以前会ったときより数段、余裕がありそうだぞ」
「はったりですよ」
「王家にとっても白亜城は宝だからな。怪しい連中にくれてやるわけにはいかぬ。だから親父も子飼いを何人も参加せているぞ。因みに俺はお前を一点買いだけどな。父上も兄上たちも見ているから、半端な戦いはするなよ」
「了解です」
「大会中困ったことがあったら言ってくれ」
「ご配慮ありがとうございます」
僕は素直に頭を下げた。
「気にするな。お前は俺の義弟だからな」
そう言って去って行った。護衛も付けずに暢気なものだが、あの王子も父親譲りの才能を持ち合わせていることは分かる。少なくとも『断絶』レベルのユニークを持ってることは間違いない。
意外な人の応援のせいで周囲の視線を集め、警戒のハードルを一気に上げることになった。今更気にしちゃいないが、できれば予選が終るまで大人しくしていたかった。
「面倒なことになったな」
「予選の袋だたきだけは避けたかったんだけど。なんとかサボって見せますよ」
「はははっ、心配などしておらんよ。そなたが無理をしてやり過ぎないか心配なだけじゃ」
一回戦前に予選が行なわれる。三百人以上の参加者から、六十四人まで絞られるのである。
予選は一組三十名による集団戦。予選通過は一組に付き五名である。最終組だけ二十四名による四名抽出。これにより六十四名にまで絞られる。
その後は人数を半分に分けて、二ブロックのトーナメントが組まれるのだ。組み分けは公開くじ引きで公正に決められる。
初日の今日は予選だけが行なわれる。明日の決闘スタイルより、今日の混戦を目的に見に来る者も多いと聞く。ある意味、ここを突破できない騎士は実戦でも役に立たないということだろうから、参加者の気合いの入れようも尋常ではない。
もちろん事前に手を組むのもありだが、どこまで連携が取れるかはやはり時の運である。少なくとも安心を担保するものではない。敵味方の線引きをしたせいで却って切っ先が鈍る結果になることもある。痛し痒しである。
因みに爺さんはアサシンだったので完全にやり過ごしたそうだ。
僕も楽する方向で調整しているが、人相手に使ったことはないからな、どんな結果になるか予想が付かない。いざとなったら結界で押し切る用意はあるが、どんなスキル持ちがいるか分からない以上、無闇に敵を作るべきではないと考える。
僕はリオナたちと合流すべく、観客席を探した。どうやらヴァレンティーナ様が貴賓席の一角を取ってくれていたようで、エンリエッタさんたちと一緒に屯しているのが見えた。
「みんなが一緒なら安心ですね」
「そうじゃの」
「エルリン戻って来たのです」
「お帰りなさいませ」
エミリーもアンジェラさんも今日は見学だ。
魔法を使うわけにはいかないのでヘモジだけはいないのだが、なんでもナガレの用意した水晶球であちら側から見られるようにするとかで、渋々我慢して貰った。その水晶球は既にテントにぶら下げられていた。
一体あっちの世界はどうなってるんだろうな?
「何番だ?」
姉さんが尋ねてきた。
「九十四番かな」
「四戦目か。ちょうどいいな。早いと気ばかり焦るし、遅くなるとだれるからな」
「余り無茶はしないことね」
「ここで目立っても仕方ないからな」
ヴァレンティーナ様とサリーさんだ。
「普段通りやれば負けませんから。落ち着いて」
エンリエッタさんは優しい。
「スプレコーンからも結構観覧に来ているみたいですよ」
下の方を見ると見慣れた爺さん婆さんが守備隊の面々と一緒に陣地を取っていた。
「休暇ですか?」
「有給だそうだ。明日は三十人ほど申請が出ている」
「皆お前と手合わせした連中だ。心配なんだろう」
思わず目頭が熱くなる。
「勝てばいいのさ。それで我らの面目が立つ」
「リオナも大会に出たかったのです」
「参加資格は十四からだと何度言わせる」
「さば読むのです」
「父上たち相手にどうやってさば読むのよ。バレバレじゃないの」
「無念なのです」
「護衛が大変だからうろちょろしないでね」
「お、陛下が動いた。そろそろ開会だぞ」
僕は控え室に向かおうと踵を返した。
「エルネスト、貰った鎧の確認をしておけ」
「してくれてるでしょ?」
「戦う本人ほどには真剣にはせんだろう。ベルトや金具のチェックも入念にな」
「悪意がないとも言えんしの」
爺さんと通路を下り、控えの間に入る。いつぞや来たときは広く感じたが、今はぎゅうぎゅうにすし詰め状態だった。廊下にまで人が溢れている。
僕たちは控えの間を出て、適当な椅子を探すとそこに座って、装備の確認を行なった。
装備は幸い、しっかり手入れされた物のようで、みんなの懸念は無駄になった。
僕の選んだ兜はフルフェイスではなく、ただのヘルメットである。顎のベルトの確認だけは入念に行なった。
「思ったよりしっくりくる」
既製品だから、どうかと思ったが、意外に着やすくできていた。これなら普段通りの戦いができるだろう。
そうこうしているうちに第一試合の面子が呼ばれて、会場に出ていった。
探知スキルで戦闘の様子は手に取るように分かった。
「なるほど芋洗い状態はステージに上がっても一緒か」
どういう展開になるのか興味津々である。




