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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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エルーダ迷宮暴走中(ピザ製作)31

 翌日は休暇である。

 さすがにあの人数で城を落とすのは無理があった。

「面白かった」

 一番楽をしていたオクタヴィアが朝食のテーブルに着いた人の膝の上に乗ってきて言った。

 相棒の召喚獣は…… チビコタツにすっぽり埋まってまだ寝息を立てていた。

 リオナ以外は昨日の疲れでまだベッドのなかだ。

 一方、リオナはいつも通り朝の散歩に出ていた。

 僕も時計で起きているので、いつも通りである。

 確かにきのうは面白かった。あの規模の城なんて滅多に拝めるものじゃないからな。ああいう造りになってたんだな。実家もヴァレンティーナ様の館も城というより邸宅だからな。感じが違うよな。

 金塊も金庫に収めたことだし、今日は何するかな。

「チーズクッキー頼んで」

 オクタヴィアが僕の肩まで乗ってきて耳打ちした。

「自分で言えばいいのに」

 僕はエミリーに言った。

「食べ過ぎたこと、怒られたのよね。アンジェラさんに」

オクタヴィアがテーブルの下に逃げた。

 エミリーはチーズを混ぜるだけだからと、快諾してくれた。

 落ち着いたところで温かい朝食が運ばれてきた。

「あんた、チーズ料理知らないかい?」

 アンジェラさんが尋ねてきた。

「あたしゃ、チーズ料理は簡単なフォンデュぐらいしか知らなくてね。あんなにいいチーズがあっても宝の持ち腐れだよ」

 この辺りでは乳製品は希少だ。

 放牧が自由にできる地域というのは魔物のいない地域ということだから、当然といえば当然だ。しかも大概バターにされてしまうから、なおさら手に入らない。チーズを大盤振る舞いできる料理店なんてこの辺境にはないのである。

 アンジェラさんが知らないのも無理はない。フォンデュを知っていただけでも奇跡だ。大概削って調味料として使うか、スライスして数切れ、ワインのお供として小皿に載って出てくるかだけだ。

 今日のやるべきことが決まった。

 確か『異世界召喚物語』のなかにあったはずだ。

 僕は朝食もそこそこに書庫に籠もって調べ物を始めた。

「あった! これだ」


 サエキさんに『ビアンコ商会』まで行って貰ってモルタルや道具類を購入してきて貰った。

 その間に僕は外に出て、土魔法で煉瓦を作り、火の魔法で焼き固めた。

 僕は中庭の厨房に近い場所に陣取って、地面を平らにならすと、煉瓦を組み始めた。

 全部魔法でやってもいいのだけれど、味気ないし、暇つぶしにならない。

 目敏い子供たちがやって来る。

「何作ってるんだ、兄ちゃん?」

「これなーに?」

 ピノとチコが珍しそうに煉瓦を突く。

「窯だよ」

「窯なら台所にあるよ?」

「これはピザ窯だ」

「ピザ窯?」

 僕は適当にひょいひょい煉瓦を組んでいった。火をくべる土台を作ると、天板を乗せ、ドームを作るために土魔法でお椀型の型を作る。

 型に合わせて慎重に煉瓦を組んでいき、終ったら型を外して魔法で微調整をする。

 最後に火を入れて思いっきり焼いてみる。焼きながら割れたひびを魔法で修正していく。

 今日のところはこれでよしとするか。

 ドーム型ピザ窯の完成である。

「パン屋のオーブンに匹敵するな」

「パン屋の窯はもっと大きいよ」

 ピオトが言った。

「マジに取るなよ。冗談だろうが」

 一旦火力を落とす。

 パンの窯と違うところはパン窯は余熱で長時間加熱するから断熱層を厚くしなければならないが、ピザ窯は直火と余熱なので、断熱層は薄くていいのだ。しかも火加減を見ながら常に位置を変えるので扉もいらないらしい。

 実際どうすればいいのかはこれから経験で身に着けなければいけないが、これはただの家庭料理だしな。店を開くわけじゃない。

 きのう火の魔石を残しておけばよかったと後悔しつつ、窯の温度を維持する分だけ薪を放り込む。

 楽しいけど、子供たち、うるさい。なんで既に食わせることになってんだよ。

 また何か始めたぞってなもんで、あっという間に野次馬の壁ができた。

「何作ってんだ?」

「ピザ窯だ」

「ピザ窯ってなんだ?」

 何度同じことを言わせる気だ!

「お前ら仕事はどうした!」

「若様は何してんだ?」

「ピザ作りだ。見りゃ分かるだろ!」

「分からねぇよ。窯作ってんだろ? それがピザなのか? ピザってなんだ?」

 だめだこりゃ。


 さて厨房では既にアンジェラさんに買い込んで貰った材料で、生地と具材を作り始めている。

 厨房に逃げ込むと、生地を指の上でくるくる回す曲芸集団を見ることができた。

「面白いのです」

「ナーナ」

「難しいですね」

「なんでわたしまで」

 ナガレまで巻き込んで粉だらけになっていた。

 参考にメモ書きは渡したが何も必ずそうしろとは言ってないぞ。普通に伸ばせばいいんじゃないのか?

 面白いという理由で、厚さもばらばらで歪な生地が既に何十枚もできあがっていた。

 既に大盤振る舞いすることは決定事項のようだ。

 普通振る舞うかどうかは味見してから決めるもんじゃないのか?

 黒猫が一匹、粉まみれで白猫になってるし。

「窯できたよ」

「はい。じゃあ、こちらも用意しますね」

 エミリーが円盤遊びを止めて台所に駆け込んだ。

「分量が分からないから加減しながらお出ししますね。味見用ですから、食べちゃわないでくださいね」

 エミリーの言葉にはっとするリオナとヘモジとオクタヴィア。

「ここは我慢なのです。最高に美味しくなったところを頂くのです」

「ナーナ」

「味見する!」

「おおーっ」

「ナー」

 オクタヴィアの答えに感心するふたり。

 みんな揃って腹出して倒れてる姿が目に浮かぶ。


 具材はトマトソースとチーズに『バジル』。トマトソースはこの世界にも当たり前にある。問題は『バジル』だ。

 僕は『楽園』からサンプルを持ってきてアンジェラさんに手渡した。一番いいのはピザそのものを提出できればいいのだが、さすがにそれは不味かろう。

 アンジェラさんはリオナを連れてハーブを探しに市場に出かけようとしたが、リオナは一嗅ぎしただけで薬草畑にあったと言って、地下の保管庫にアンジェラさんと降りて行った。魔法の塔の薬剤官が管理してる物のなかにあるようで、棚のなかから名前だけ調べてすぐ戻って来た。

 名前はバジリコ。効能は根が頭痛、種子が眼病、地上部が産後の血行改善だったらしい。

 名前が分かったら後はふたりでハーブ屋巡りである。幸いアルガス商店街の店の一軒で見つけたようだ。リオナが気前のいいことを言ってまた結構な量を買ってきたが、結果的に丁度いい量を購入したようだ。

 そんな苦労を知ってか知らずか「葉っぱいらない」と真白な黒猫が言った。

 よっぽとアンジェラさんを怒らせたいらしい。自分が歩き回ったせいで床が今どういう状況になっているか、よく見て考えてから発言した方がいいぞ。

「その内アンジェラさんに素揚げにされるぞ」

 僕の冗談が耳に届いたようで、オクタヴィアはびくりとして背中を丸めた。

 ヘモジは? 

 リオナとそそくさと皿を並べて試食の準備をしていた。

 具材が載せ終った生地が用意できたようなので、僕はそれを持ち出して窯のなかに投入した。


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