エルーダ迷宮暴走中(創世王クエスト編)22
オクタヴィアの舌足らずな解説によると、ふたりの息子ヘカは両親に会いたくて、冥府の門を叩いたそうだ。そして交渉相手のヘルと口約束してしまったらしい。
「両親に合わせてやるから、未来永劫我に忠誠を」というわけだ。
もっともヘルの方が約束を果たさなかったわけだから、ヘカが責任を負う必要はない。
無理矢理手を出してきたヘルをこっちが殲滅しても道義上問題ないわけだ。
そしてヘカ少年は両親と再会できたことで、冥府に落ちずに済んだ。それだけだ。
「だからなんなのよって話ね」
ナガレが言った。
あれほどうるうるしていた癖に。
「そうじゃな、十三番目の種族が冥府の軍勢にならずに済んだという話じゃな」
ガタン!
アイシャさんの言葉に反応して、ロザリアはグングニルを落とした。
「十三番目の種族? 冥府の軍勢?」
この世界には魔族なんてものはいない。魔物のデーモン種がそうだという学説もあるが、古い種族たちの記録にも魔族は出てこない。
ただこの世界にあまたある英雄譚には度々出てくることから、異世界の、或いは空想上の存在なのではないかと言われている。
「つまりわたしたちは魔族に手を貸したと言うこと?」
ロザリアは青ざめた。
教会の教えでは、十三番目の種族が冥府の神の先兵となり、地上の神と争ったことになっている。聖典ではそれを魔族と呼称しているわけだ。
「それは違うのです。十三種族が魔族にならずに済んだって話なのです」
「ナーナ」
「つまり、魔族になるのを回避したってことだよね」
「神に貢献したということじゃないの?」
みんなのフォローが生暖かい。
「そういうことじゃな」
ハイエルフも呆れ気味だ。
この手の話を信じている人間は実は教会のなかにも余りいない。あくまで子供たちの読む寓話のレベルの話だからだ。
だっていないことは明白なんだから。
人族の有史は若い。人が信仰する神世の話など、ハイエルフやドワーフたちにとっては「最近見かけないけど、ひい婆ちゃんたちどうしてる?」程度の話しに過ぎないのだ。
もっとも、狂信者というのもいて、自分たちの祖先は魔族のいた異世界から来たから信仰はすべて真実だという言い張る連中もいる。だが、これも歴史の生き証人が多すぎて却下されているのが現状だ。
兎に角、今回の話はそんな寓話がモデルになったに過ぎない。そこに信仰がどうとか、異端がどうとか言う面倒臭い話は介在しない。そもそも迷宮を開発することこそが教会の主たる目的なのだから、どういう結果になったところで神は許して下さるに違いない。でなければこんな迷宮造った奴が悪いということになる。
少なくともこんなところに踏み絵はないよ。
「質問なんだけど?」
僕はアイシャさんに尋ねた。
「創世王って何?」
一瞬の間があった。
「あんた知らずに今まで話聞いてたの?」
ナガレが馬鹿にした。
「創世王だろうとなんだろうと、ヘカ少年はヘカ少年だろ?」
「まあ、たいしたことではないが。教えてやろう。創世王とはそれぞれの種族を生み出した最初の祖のことを言う。主に今は亡き伝説の十三種族の始祖について現わす言葉じゃ。元々おらんのだがな。獣人や我らエルフの祖に対して使うときは侮蔑的な意味合いが含まれておるので、そのときは容赦なく切り捨てるがよい!」
「切り捨てるです!」
「リオナに変なこと教えないでくださいよ」
「妾は容赦せんぞ」
「で、今回の報酬は?」
「そうだ! あっちの獲物は?」
「『闇の信徒』! 忘れてた!」
結果的にいつも儲けさせて貰っている、『闇の信徒』の方に僕とロメオ君とヘモジが走り出した。
クエスト報酬の方は残りの面子が当たった。クエスト報酬の方はどうやら最初の霊廟のなかにあるらしい。
僕たちは死神の遺体を漁った? 金目の物はでかい指に嵌められていた指輪だけだった。
それでも宝箱ぐらいの量にはなった。金と銀。赤い宝石、青い宝石等々……
「さすがにミスリルはもうないか」
装備は布きれ一枚。全身はただの骨だった。
「ナーナ!」
ヘモジが鎌を指差す。鎌が急激に錆びて崩れ始めた。
「え? 崩壊にはまだ早いよ! 遺体の方はまだ残っているのに」
装備品の方が早く消滅することはない。ということはこの鎌は死神自らが作り出した魔法武器だと言うことだ。魔法で武器生成か。確か召喚系の魔法系列だったかな?
「何か光ってる」
ロメオ君が指し示したのは、持ち手の棒に施されていた術式だった。
僕たちは頷いて、術式の記録を取ることにした。刃先と柄尻に別れて、光る術式を記録し始めた。
「こっちは在り来たりな文言だよ」
ロメオ君が途中経過を語った。
「こっちもだ」
僕も返した。
「ここからだ!」
僕たちは未開の部分の術式を見つけた。見たこともない単語が並んでいる! これは!
「あったよ! 大発見だ!」
ロメオ君が叫んだ。
「こっちもあった」
僕たちは術式を必死に記録した。が、光が弱まると共に術式も端から消えていった。
「嗚呼、待って!」
僕とロメオ君が柄の中央で頭突きし合って、転んだ。
「痛ったーっ」
ふたり揃って、額を撫でながら起き上がる。
ヘモジが笑っている。
メモを比べて、記録が間に合ったことを確認し合う。
「なんの術式だろうね?」
「空間を引き裂く呪文だったりしないかな。『次元断絶・無双撃』とか」
「それって姫様の必殺スキルでしょ。そんなの世に広めたら駄目だよ、きっと」
「取りあえず、メモはこのまま半分にして持っていた方がいいね。解析はアイシャさんを交えて後でしよう」
「物騒なものじゃなきゃいいよね。みんなに役立つ術式だったら」
そんなものがこんな物騒な奴の武器に宿ってるはずがないことはロメオ君にも分かっている。未開の魔法に手を染めるというのは、時としてコインの裏側も覗くということだ。まともな神経の持ち主には負担なのである。あえてこうでも言わなきゃ、やってられないのだ。
リオナが呼んでいる。
『蛙の着ぐるみ』『使役の角笛』と来て今度はなんだ?
「今回攻略したこのフロアーの地図と、これだったです」
「専用アイテムじゃなかったんだ?」
目の前に出されたのは一冊の本だった。
「『アンデットを追い払う完全回復薬への道』……」
僕とロメオ君は言葉を失った。
「どっちもいらないよね?」
ロメオ君が言った。
ほんといらないわ。
「あっ! 今回も薬使うの忘れてた!」
「そこでその反応は間違いなのです」
「ナーナ」
リオナとヘモジが駄目出ししてきた。
オクタヴィアは何してるのかと思ったら、背中が痒いらしく、地面に擦り付けていた。
「完全に不発だよ。無駄だった」
「蔵書は増えたがな」
アイシャさんも呆れ顔だ。
「先に読ませて頂いても?」
「どうぞ、ご随意に」
ロザリアが本を手に取った。
光の魔法使いとしてはアンデット対策の手数は多いに越したことはないからな。
「じゃ、みんな、出口を探そう」
「地図に載ってるです」
リオナは地図をひらひらと見せつける。
「役に立ったです」
みんな笑って、地図の指し示す出口に向かった。
結構入り組んだ場所にあって、みんなこの地図に感謝することになった。
僕たちは出口手前で丘陵を振り返った。
霊廟がポツリと立っている。
もうあの家族と会うことはないだろう。迷惑な連中だったが、今となっては寂しい気持ちで一杯だ。蛇顔にもようやく慣れてきたのに。
またこの地に踏みいることがあるのだろうか? あの地図が再び役立つときがくるのだろうか?
「帰るのです」
そうだな。帰ろう。帰って、メモの解析をしないとな。
僕は脱出ゲートを潜った。




