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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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エルーダ迷宮暴走中(創世王クエスト編)19

「オルトロス、首一本増えた!」

「ケルベロスじゃ」

 オクタヴィアにアイシャさんが突っ込みを入れる。

「足早いぞ。気を付け――」

 戦闘が開始された。

 ナガレの一撃が、ロメオ君の雷撃が、リオナとロザリアの銃弾が飛び交った。とどめはアイシャさんの氷の槍だ。結界の手前ギリギリで氷付けにした。それをヘモジが粉砕した。

「……」

 あれ? こんなに強かったかな? ケルベロスって?

 全員の攻撃でやっと押さえ込めた感じだった。

「最初に凍らせないと不味いな」

 アイシャさんが言った。

「エルリン昨日これとひとりでやったですか?」

 リオナが聞いてきたので「一匹だけな」と答えた。

「どうやって倒したか見せて欲しいのです」

 意外なリクエストだが、隠す必要はない。リオナに導かれるまま、ケルベロスを探す。

 道中、メルセゲルのゾンビを「臭い!」と言って燃やし、ゴーストを「目障り」と言って浄化して回り、ようやく反応に辿り着く。


『ケルベロス オス、レベル五十五』 


 昨日と同じ敵だ。特段強くなった様子はない。

「結界の後ろに下がって」

 僕は注意を促すと戦闘を開始する。それより先に向こうに気付かれた。

 猛烈な突進が来る!

 僕は昨日と同じ『無刃剣』を通路に撒き散らした。

 氷の槍は昨日避けられたのでカットだ。その分、高速で射出する水の針を三割増しで放つ。

 恐らく弾丸のように見えるだろう。否、正確には目では追えない。だがそれは細くするほどに恐ろしく切れ味を増すナイフだ。

 皮膚を紙のように切り裂き、貫通する。威力を落として体内に残せば、内側で暴れ、一瞬で内臓を破壊する。

 ガンッ。勢いのまま結界にぶち当たる。が、それ以上動くことはなかった。

 魔力の消費も三割増しだということを忘れてた。疲労感に襲われた。

「はーっ」と溜め息を付いて万能薬を舐める。

 みんなが唖然としていた。

 僕が何かを撃ちだしたことは分かったようだが、その後何が起きたか見えなかったようだ。

「何が起こったですか?」

 全員が遺体の検分を始めた。

「きれいに裂かれてる」

「こんなに硬い皮膚なのに……」

「ぷにょぷにょ」

「内側が破壊されてるわね」

「死因はこれね」

 腹が出血で膨らんでいる。アイシャさんは解体用のナイフで腹を切り裂くと破壊された組織がごっそり血の海に混じって出てきた。

「水の流れを高速で射出しただけだよ」

 僕はゆるい水流を水芸のようにピュピュトと上に打ち上げた。そして速度を増して行き、壁を穿った。

 原理は分かったようだ。だが開いた口は塞がらなかった。

「よく思いついたわね」

「飛空艇で飛ばされたとき獲物を解体してね、そのとき思いついた」

 僕は切り口を大きくして、コアを抜き出した。

「なるほど」

 そう言ってアイシャさんは水滴を飛ばした。

 ドンッ! 壁に穴が開いた。

「これをもっと細く、早くしていけばいいのだな」

 さすがハイエルフ。見よう見まねでもうパクられた。

「後で術式を教えてやろう」

 ロメオ君とロザリアにそう言った。

 ちょっと、拡散しないでよ! 僕の必殺技なのに!

「こうか」

 今度はナガレが成功させた。さすがは水竜の化身。水の扱いはお手のものだ。

 ついでに血だまりもきれいに流し去った。

 門外漢のリオナとオクタヴィアがつまらなそうにしている。ヘモジがクッキー缶を開けて差し出したことで、オクタヴィアとまた騒ぎ始めた。

「あ、さっきの亡骸送っちゃった?」

「送ったわよ。どうかした?」

「ケルベロスって四十階のボスらしくて、一日に一体しか沸かないみたいなんだ」

「それって、二体送ると問題になる?」

「ここのクエストが周知ならいいんだけど、誰も知らないとなると、騒ぎになるかも。もう手遅れだけどね」

「まだ一体しか送ってないけど?」

「今朝、昨日狩った一体を送ったんだ」

「なんで持ってんのよ」

「隠しておいたの!」

「だったらこれも隠しておく?」

「送っちゃいなさいよ。気にすることないわよ」

 ナガレが言った

「秘密の開示は危険がない限り、強制ではないんだから。何でもかんでも協力する必要はないわよ」

 ロザリアが賛同する。

「そうだね。クエストの一環だって言っておけば、追求されないと思うよ」

 ロメオ君も賛同した。

「そうなの?」

「父さんに聞いたんだ。クエストってのは本来、内容を聞き出してもギルド側は開示しないものなんだって」

「そうなの?」

「その辺は冒険者なら自分で探せってことらしいよ。何せお宝アイテムが手に入る可能性があるからね」

「僕の苦労は一体……」

「だめだめなのです」

「ナーナ……」

「もう手遅れなんでしょ。これもさっさと送っちゃったら?」

 解体屋もさぞ驚くことだろう。

 でも、ボロ儲けのチャーンス!

「ナーナ」

「『変な顔してる』て言ってるわよ」

 ナガレが通訳してくれた。悪かったな。

「さあ、先を行くわよ」

 ナガレが先導した。

 リオナが大人しい。何か考えているようだ。いつもならリオナも「必殺技が欲しい」とか言い出すんだが。そういや重戦士とやり合って手も足も出なかった段階で何か言ってきそうなものだが。物事には限界があると悟ったか? 大人になったか? まさかな。

 なーんか、あの顔は違う気がする。尻尾の揺れ具合から何かをやらかす気でいることは見て取れる。

 そして目の前に現れたのはメルセゲルゾンビ。

 リオナが、珍しくゾンビ相手に前に出た。

「『風斬り』ッ!」

 間合いより数歩手前で振り下ろした剣がゾンビを両断した。

 リオナが満面の笑みを浮かべて、僕を見た。

 尻尾が元気に揺れている。

「凄いな。リオナ。新しいスキル覚えたんだな。かっこよかったぞ」

「凄い、凄い」

「ナーナ」

「さすがはわたしの主だけあるわ」

 急に場が明るくなった。

「でもこれ一回撃つと疲れるのです」

 そりゃそうだ。スタミナがごっそり持って行かれてる。もうちょっと撃てそうだがな。『ソニックショット』のときもそうだったが、身体の方が慣れるまでは注意が必要だな。

 スタミナ重視の装備編成に移行する時期かも知れないな。

 僕も必殺技を取られてしまったからな。次を考えないといけなくなった。アイシャさんの衝撃波をパクっておいて言う台詞ではないのだが。

 でも、僕たちはこうやって成長していくんだ。

「何にやけてんのよ。気味の悪い」

 ナガレに注意された。リオナに入れ知恵したのお前だろ?

 次のゴーストもリオナが消した。これで『風斬り』が属性攻撃だと判明した。

 マッピングの作業待ちである。

 恐らく二度と来ないのであるから、いらない気もしないでもないのだが、記録を取っておいて損はない。全員でやれば、ひとりでやるより容易く完成する。

 その無駄が功を奏したと感じたのはそれから一時間後のことであった。

 完全に迷ったのである。というより、出口が見つからないのである。

 マップの壁を再点検していく。壁と壁の間に隙間がありそうな場所は念を入れて探す。天井や床にも注意する。

 進展があったのはそれからまた一時間ほど経ってからだ。今思えばフロアー内のモンスターを殲滅したことがトリガーだったのだと気付く。

「こんな罠もあったのね」

 ロザリアの台詞はみんなの感想でもあった。

 目の前に、石造りの大きな門が出現していた。

 その先には地の底まで伸びる長い階段があった。


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