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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第二章 カレイドスコープ
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初めての共同作業

 手前の木に登っていたリオナが僕に止まるように手で合図した。

『止まれ。前方。数、二』

 僕は木の麓まで進み、リオナが指す方向を見た。

 茂みから出てきた角兎が二匹、落ちた木の実をついばんでいた。

 僕は一匹ずつ同時に狙おうと合図した。

 僕たちは同時に弓を引いた。

「……」

「……」

 両手が塞がっているので、お互い次の合図が出せない。

 リオナが「どうしよう」という顔で僕を見る。

 弦を緩めて、僕はリオナに降りてくるように合図した。そして降りてきた彼女に小声で言った。

「声で合図する。三、二、一、ゼロのタイミングで射よう」

 リオナはうなずいて茂みのなかに入っていった。

「そんなに離れてて聞こえるのか?」

 僕が尋ねると、手でOKの合図をした。

 角兎ほどではないが、さすが獣人のハーフ、耳はいいらしい。

「三…… 二…… 一…… 」

 角兎はまだこちらに気づいていない。

「ゼロ!」

 僕は『一撃必殺』スキルを使って矢を放った。

 リオナは『必中の矢』を使った。リオナの射た矢はとっさに逃げようとする角兎をまっすぐ射貫いた。

 一方、僕の射た矢は放物線を描いて飛んでいった。角兎の方から落下地点に突っ込んできてこちらも見事命中した。

 僕たちはそろって獲物を回収に向かった。周囲を警戒しつつ、血抜きをして袋に詰めると担いで次の標的を目指した。その際、姉に教わったばかりの消臭の魔法をかけ、血の臭いを消した。

 リオナが執拗に尻尾をスリスリしてくる。

「リオナ、くすぐったい」

 僕がよけると彼女は悪ぶって言った。

「フフフッ、エルリンにリオナの臭いを付けているのです。他の女が近づかないようにしてるのです。フフフフフッ」

「一緒に消臭してんだから、リオナの臭いも消えてるだろ? やるだけ無駄だろ」

 リオナははっとなって固まった。

 そしてほっぺたを大きく膨らませて僕に抗議した。

 からかったのはそっちが先だろ?

 本当にかわいいやつである。



「今度はたくさんいるのです」

 リオナが小声で警告した。僕は茂みの隙間から奥をのぞいた。そこには角兎の団体がざっと十匹はいた。

 小躍りしたのも束の間、どうやって一網打尽にするか悩むことになった。

 魔法なら一網打尽にできるが、僕の魔法ではこっそり撃つには射程が足りなかった。発動も遅い。向かってくる相手なら仕留められるが、逃げ足が速い角兎には姿をさらした時点で逃げられてしまう。銃は弓と同じで単発だし、どちらにしろ逃げ足の速い獲物には探知圏外からの狙撃しかなさそうだ。

 が、リオナは矢を三本引き抜いて同時に弦につがえた。

 ち、ちょっと! リオナさん。その矢一本いくらか知ってますよね? 金貨一枚ですよ。イ、チ、マ、イ。それ全部で金貨三枚ですからね。依頼内容わかってますね? 報酬は銀貨二五枚ですよ。矢をなくしたら赤字ですよ。大赤字。

 リオナはやる気満々である。

 失敗を恐れぬとはいい度胸だ。さすがに僕にはできないので、矢を二本出して、一本を弦に番えた。『一撃必殺』スキルを連続使用するしかないだろう。

 先ほどと同じように合図する。うまくいけば五、六匹やれるはずだ。

 僕は声を潜めて合図する。三…… 二…… 一…… 

 リオナは三本の矢を射た。僕は最初の一匹目に矢を射た。命中する確信があった。僕は急いで次を狙うべく矢を番えたが、すでに逃げた後だった。

 リオナがふんふんふんと腰を振りながら獲物に近づいていく。

 やったのか? と言うことは獲物は四匹か? 我ながら不甲斐ないと自分の獲物に寄っていくと、リオナが遠くから叫んだ。

「エルリン、矢がどっか行っちゃったです。一緒に探してーッ」

 金貨三枚ッ!

 僕は走った。一本だけ回収した矢を持ちながらリオナは「ごめんなさい」と頭を掻いていた。

「たぶんこの辺」

 なるほど二兎を追う者は一兎も得られなかったわけだな。三兎を追えばなおさらか。

 嗅覚を最大限に生かしてリオナはやがて二本目を見つけた。僕も『認識』スキルを発動して藪のなかから三本目を見つけ出した。

「ああ、よかった」

 僕がほっとしているとリオナが言った。

「エルリンの獲物は?」

 忘れるところだった。大急ぎで一匹回収すると血抜きをして袋に放り込んだ。

 僕たちは顔を見合わせ大きなため息をついた。

「ダメダメだな」

 僕たちは吹き出した。

 あれほどいたのに。獲物はたったの一匹?

 おかしくなって笑った。ふたり声を出して笑った。

「みんなには見せられないのです」

 想像以上にひどすぎて笑いころげるしかなかった。



 それからの狩りはやけに肩の力が抜けて、スムーズだった。

 互いに獲物を見つけてはどちらともなく弓を引いた。

 矢はおもしろいように当たり、気がつけばノルマの二倍ほど獲物を回収していた。

「夕飯は兎の肉にしてもらおうか?」

 重くなった袋を背負子(しよいこ)に担いで僕たちは街への帰路に就いた。


 僕たちコンビの初めての依頼はこうして幕を閉じた。

「記念に」と言って、リオナはどこにでもある木の枝を一本折って家に持ち帰った。

 なるほど、あれが積もり積もってゴミになっていくのか……


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 微笑ましさのために必中の矢がなぜかはずれるという矛盾をつくった。
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