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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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指名依頼と魔法少年9

 見るからに巨大な氷像だった。翼を広げ獲物を食いちぎらんとするその一瞬。

 我ながら感心するできだった。

 間違いなく、あのとき空の上でやり合ったあいつがいた。

 威厳と恐怖が入り交じった手負いの化け物。

 見てるかい? パスカル君。

 これが僕の知ってる最強の魔物だよ。この世界にはこんなでかい奴がいるんだよ。怖い奴がいるんだよ。

 でも、魔法はこんな大きな敵にだって勝てるんだ。

 がんばれ! がんばれ、パスカル君!

 君に魔法の可能性を見せてあげるよ。

 時間ギリギリまで僕はドラゴンと対峙する。

 皆がこれから起こることを見逃すまいと息を止める。

 僕は魔力を溜める。そしてイメージする。

 まだ、誰も見たことのない魔法。ハイエルフの風の上級魔法。ボナの城壁を一瞬で破壊した……

衝撃波(ショックウェイブ)ッ!」

 衝撃が波となって突き抜ける!

 一瞬の静寂。

 遅れて沸き上がる破壊の衝動!

 巨大なアイスドラゴンの氷像が一瞬で砕け散った。そしてその先にある障壁をも貫通する。そして置かれているコアが跡形もなく消えた。

 ポロッ……

「あ……」

 コアの後ろの防壁に亀裂が入った。

 氷像をクッションにして威力を弱めたつもりだったんだけど…… もっと固く凍らせないといけなかったか。

 ボロボロボロ…… 

「壁がぁああ……」

 崩れた。

 僕は姉さんを見た。

 苦笑いしていたが、怒ってはいなかった。むしろ笑っているようだった。

 パスカル君を見た。

 こちらはヘモジを抱きしめたまま呆然と立ち尽くしていた。

 他の観客たちも同様であった。

「何、今の?」

「何が起こったの?」

「風の魔法?」

「あれって、上級魔法?」

「あいつ、詠唱してなかったぜ」

「氷の像を作っていた時もだ」

「何者だ?」

「てか、なんなの、あの魔力量? 普通じゃないよね?」

「先生、今の魔法なんですか?」

「いや、わたしも初めて見たんだ……」

「すっげ…… 防壁まで壊しちまった」

 僕はパスカル少年に笑顔を向けた。

 パスカル少年はようやく我に返った。その顔には満面の笑みがあった。

「凄かった……」

 感動がまだ消化し切れていない様子であった。

「壊すなといったろ」

 姉さんが笑いながらやって来た。

「何をするのかと思ったら、まさか上級魔法とはな。しかも指向性を持たせて一方向にだけ展開させるとは」

 老人が言った。

「え? こういうものじゃないの?」

 アイシャさんがやっている通りに再現したんだが…… と言うよりこのお爺さんはこの魔法を知ってるのか?

「本来は術者を中心に放射状に展開するものじゃ。なんじゃ知らんかったのか?」

 逆に老人に突っ込まれた。

 なんだ、これってアイシャさんの応用魔法だったのか。こないだも風の刃で一点集中攻撃してたしな。自由奔放すぎでオリジナルが分からなくなりそうだな。

 いや、そもそも決まった形などないのかも知れない。術式の公式やら、魔法陣やらでいつの間にか定型ができあがってしまっただけなのかも知れない。

 自由なのかも知れない。本来、魔法というものは。

 夕暮れどきの空にスターダストが降り注ぐ。美しくもなんともない。冷たいだけだ。

「あれって修理費どのくらい?」

 姉さんに尋ねると「気にするな。いいものを見せてもろうた」、と老人が髭を撫でる。

「さすが学長。助かるわ」

 姉さんが老人に抱きつく。

「じゃじゃ馬はお前で慣れとる」

 学長だったの?

「ほっほっほっ」

「さあ、まだまだ見る物があるぞ」

 僕たちは取り巻きをそのままに学内の見学を再開した。

 生徒がいなくなった教室を見た。全校生を収容できる学食や講堂を覗いた。肥料造りをしている実験棟にも案内して貰った。

 ここで学べたら、きっと楽しかったに違いない。

 同じ年頃の子供たちと一緒に学ぶ日々。つらいことも楽しいことも分かち合える日々。

 僕にも友達ができただろうか?

 ヘモジが大きな欠伸をした。

 日も暮れてきたので僕たちはお暇することにした。


 住宅地に戻って、一件だけしかない商店に顔を出す。

 パスカル少年といきなり別れるのも嫌なので、今夜は寮に泊まることにした。

 生徒たちや使用人たちで店はごった返していた。

 そんななかに姉さんが飛び込むと群衆が一斉に散っていった。

「こりゃ便利だ」

 心なしか僕の周囲にも壁ができあがっているような。

「パスカル君、何食べたい?」

 いきなり聞かれても動揺するだろ?

「僕、料理できないんで、暖かいものならなんでも」

「エルネスト」

「ああ、僕も普段通りでいいかな。スープは僕が作ろうか?」

「そうじゃなくて、ヘモジ」

「ヘモジ?」

 そう言えばどこに消えた?

 僕とパスカル君はキョロキョロ周囲を見渡した。

「いた!」

 パスカル君が指差した。

「ナナナ、ナーナ。ナナナナ」

 店員と買い物バトルしていた。

 店員はたじたじになっていた。それを女の子たちが取り囲んでいる。

「何、あれ? かわいい」

「小人? 小人だよね?」

「うちにも欲しー。どこで手に入るのかしら?」

「やっほー、小人さーん。こっち向いてー」

「ナーナ?」

「可愛いーっ!」

 なんだろうね。あそこだけ照明の色が違う気がするよ。

「頼んでいい?」

「あ、はい」

 ヘモジの救出をパスカル少年に任せた。

「あんたも意外に策士ね」

 姉さんが試食品のたれの付いた肉を摘まみながら言った。

「友達作って欲しいから」

 僕たちは明日になったらもういない。

 パスカル君は慣れない環境で一人きりになってしまう。

 案の定パスカル君は質問攻めにあっている。ヘモジのこと、姉さんとの関係等々、いろいろ聞かれて、たじたじになっていた。

「ナナ、ナーナナ」

 人混みをかいくぐってヘモジだけが戻って来た。

「なんだって?」

 野菜はその日のうちに売り切るべきだから値下げしたほうがいい?

「それで店員とやり合ってたのか?」

 そういうことは店長に言わないと。

「相変わらず、野菜命だな」

「ナナ!」

「はいはい、果物もね」

 ヘモジは文句を言いながらも、野菜を目一杯抱えて持ってきた。と言っても少量にしかならないのだが。

「ナーナ」

 野菜ジュースにしたいらしい。

「だったら、蜂蜜もいるな。ポポラの実も」

 ヘモジが飛んでいった。

 すぐにヘモジが満足した顔で戻ってくる。どうやらいい物が手に入ったらしい。

「カロータ……」

 ニンジンだった…… カロータで作るのか?

「ポポラの実はどした?」

「ナナ、ナーナ」

 悲しいお知らせ?

「ナーナ」

 売り切れかよ! 

 僕たちは精算するためにカウンターに並ぶ。ヘモジはパスカル君の肩の上で愛嬌を振りまいて、パスカル君を目一杯困らせている。

 精算が済むと僕たちには荷物持ちの仕事が回ってきた。

 道中、ヘモジの頭の上にも肉のブロックの包みが載っかった。


 ヴィオネッティー家の寮というか、一軒家はこぢんまりとした物だった。

 庭は程々に広かったが、そのなかの建屋は小さな木造の平屋であった。

 玄関を開けるとそこはもうリビングである。

 目の前にもう絨毯の縁があった。土禁のようだ。

 壁一面が本棚に覆われていた。奥の一角にキッチンやベッドルームが備え付けられていて、ベッドの上にはロフトも付いていた。

 なんだか居心地がいい空間だと思ったら、そこは心なしか見覚えのある景色だった。

 そうだ。『楽園』のあの部屋に似てるんだ。この部屋にもっとゴテゴテとソファーやらクッションやらを揃えて、壁と本棚をもっと高くして…… 足の踏み場もないほど書籍で埋め尽くせば……

「昔のままね」

 姉さんが感慨一入であった。

 僕は暖炉に魔石を放り込んだ。姉さんは明かりを灯し、家を維持するために掛けていた魔法陣をいろいろ解除していった。

 窓を開けると冷たい風が吹き込んできた。

 外はもうすっかり暗くなっていて、寒さが一段と増していた。

 姉さんは風魔法で家中の埃を払った。

 僕たちはその後、拭き掃除に取り掛かった。狭い部屋で助かった。

 手分けしたので十分ほどで作業は終った。

 幼かった姉さんが過ごした空間。女っ気の欠片もない空間。あるのは残していった大量の書籍群だけ。

 僕たちは床にへたり込んで足を伸ばした。

 ようやく一息つける。

 パスカル君とふたり揃って大の字になった。ヘモジはそんな僕たちのそばに座ってカロータのスティックをポリポリかじっていた。

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