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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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指名依頼と魔法少年5

「あの…… 僕にも魔法が使えるようになるんでしょうか?」

 土を盛り上げ、毛布を敷き詰めただけのベッドに横たわりながら少年は言った。

 姉さんは隣りの部屋で既に熟睡中だ。

 パスカル少年に魔力はある。リオナに比べれば充分すぎる量の魔力が眠っている。

「基礎を学べば大概の人は使えるようになるよ」

 少年はじっと僕の顔を見つめる。思っていることが丸わかりだ。

「教えてやろうか?」

 少年はベッドから飛び起きた。

「はい! お願いします」


 僕に恩師と呼べる人はいない。教師が付く前に諦められてしまったから。

 敢えて言うなら姉さんだが。してもらったことと言えば、幼い頃できもしないのに嫌と言うほど基本を叩き込まれたことだろうか?

『牢獄』で魔法を習得してまだ一年にも満たない。急成長ぶりには我ながら呆れるばかりだが、人に教える自信なんてない。ロメオ君の方が何倍も教えるのは上手だ。

「魔法に必要なものは二つ。論理的なプロセスとイメージだ。まず、基本の術式。これは今は暗記するしかない」

 僕は火の玉の術式を床に書いて見せた。

「そして、術式を入れる入れ子」

 僕は一番単調な魔法陣を描いた。

「これに魔力を注ぎ込むと形になる。慣れるといきなり魔法陣を思い浮かべられるから、詠唱を省略できるようになるわけだ」

 少年は食い入るように見つめる。

「まず、術式。どのような魔法をどのように撃ちだして命中させるかを一つの文章にする。君のステッキの魔法の場合、『火の魔法』を『なんメルテ先』のポイントに『命中させる』かをまず考えて言葉にする。僕の友達はなんメルテ先じゃなくて、もっと細かく想定できる人がいるよ。何十分の一メルテ、もしかするともっと細かいかも」

「ほえー」

「兎に角、暗記だね。全部エルフ語だよ。場合によってはもっと細かく想定するけど今はいいだろう。『何秒後』にとか、『影響範囲』とかはね」

「面倒臭いんですね」

「魔法使いって派手に見えるけど、やってることは結構地味なんだよ」

「口に出して呪文を唱えるだけじゃ駄目なんですか?」

「その場合強烈なイメージが必要になるんだ。君の場合、既にそのステッキのおかげで火の玉のイメージは焼き付いているかも知れないけど、目標に当てるイメージはその都度しなければいけないんだ。何よりエルフ語を正しく発音しないといけない。そういう面倒なことを省くために自動である程度やってくれるのが魔法陣なんだよ」

「なんだか大変そう」

「反復練習あるのみだね。どっちがいいかは人それぞれだけど、どっちもメリットとデメリットがあるからね」

 地面にエルフ語を描いて見せた。

「はー」

 少年が術式と魔法陣を見比べている。

「で、メリットとデメリットだけど」

 夜は魔法談義で更けていった。

 僕もこんな話ができるのはロメオ君以外にいないから、熱が入りすぎてしまったかも知れない。


 翌朝、僕たちは寝坊した。

 姉さんが温かいスープを作ってくれていた。

 朝早くに雪兎を一羽仕留めてきたようだ。

「美味しい……」

 姉さんの手料理なんて何年ぶりだろう。

「敵がこの先の平原に集結している」

「何偵察してきたの?」

「上に上がったらちょうど見えたんでな」

「ちょっとした勢力だぞ」

「いよいよクライマックスだね」

「余裕を持ってあと一時間経ったら出発しようと思う。特にこちらが何かする必要はないだろう」

「計画通りなわけだ」

「領主は間抜けだが、兵士はこの国の民だからな。さすがに殲滅は避けたい」


 予定通り一時間後に僕たちは出立した。丘の上から見下ろす景色は壮観であった。

「おかしな方向に包囲網が展開してるな?」

「情報攪乱だな。わたしたちは今あの山にでもいることになってるんだろう」

 てことは僕たち以外の別働隊が動いてる?

「高みの見物だな。この丘を選んだのは正解だった」

「あの…… 何が起こるんですか?」

 それは僕も聞きたい。自力で脱出するんじゃなかったのか?

「あの軍勢が敗北するんだ」

 え?

「あんなにいるのに?」

 パスカル少年も驚きを隠せない。

「あんなにいても、負けるものは負ける」

 事態は突然、急を告げる。

 巨大な魔力が一斉に軍勢を取り囲んだのだ。

「あれって?」

「王宮近衛第一師団の精鋭だ」

「どうやって現れたの?」

「伏兵だ。宰相殿はとっくにこの地に当たりを付けていたらしい」

「その通り」

 振り返ると魔法の塔の次官のジーノ・エゼキエーレ氏が立っていた。

「ジーノさん?」

「やあ、久しぶり、弟君。報酬はうちと王家に薬を大瓶一つずつでいいからね」

「仕事の依頼を受けたのこっちなんですけど」

「あいつらを食わせなきゃならんのでな。協力してくれると有り難い」

 背の高い近衛の鎧を着た軍人が僕にのしかかってきた。

「デメトリオ・カヴァリーニ殿下だ。アールハイト王家第二王子であらせられる」

「ああ、あのとき遠征で会えなかった」

「親父殿に一発入れたそうだな。今度俺とも手合わせしてもらいたいものだな」

「お初にお目に掛かります殿下……」

 兄さんと同じ人種だ。ガントレットで頭を撫でるな…… とは言えない…… イダダダダ。

「あれはあんたの部隊なの?」

「おお、久しいなレジーナ。妹は元気にしてるか?」

「息災ですよ。王宮に戻られていないので?」

「あそこは窮屈で堪らん。元気なら何よりだ」

 パスカル少年は青ざめていた。

 王家の次男と聞いて固まってしまっている。

「彼がパスカル・ザクレス…… になるかも知れない少年だ」

 姉さんが紹介した。

「わたしはジーノ・エゼキエーレ。魔法の塔の次官をしている。魔法学校の生徒はわたしの領分だ。よろしく、少年」

 ジーノさんがパスカル少年の肩を優しく叩く。

「よ、よろしくお願いします。先生」

 パスカル少年は頭を深々と下げる。先生じゃないんだけどな。相当テンパっている。

「ナーナ」

 ヘモジがジーノ氏に手を差し出した。どうやら挨拶のつもりらしい。

「ありゃ、なんだ?」

「すいません、僕の召喚獣です」

「はっ、お前ほんとに魔法使いだったんだな」

「ええ、まあ」

「なおさら面白い。うちの連中が騒ぐわけだ。おっ、向こうもどうやら終ったようだな」

 第一師団の精鋭による包囲作戦は敵軍の投降で呆気なく幕を閉じた。

「馬車は貰っていくぞ。重要な証拠物件だ」

「穏便に頼む」と姉さんが言うと、「お前が言うかよ」とデメトリオ殿下が返した。

 ふたりは僕たちの馬車を配下の者に持っていかせると部隊のいる方に去っていった。


「怖ーっ、何あの人?」

 僕は息を吐いた。

「ほー、デメトリオの怖さが分かるか?」

 姉さんがこっちをにたにたしながら見つめる。

「隙がまるでなかった」

「武の才能は兄弟随一だからな。それを取ったら何も残らん男だが。気さくで部下思いのいい奴だ」

 それにしても、呆気ない幕切れだ。

「アポリアーニ家はどうなるんでしょうか?」

 少年が青ざめながら尋ねた。

「王宮魔法騎士団の紋章に矢を射ちゃ駄目だろ?」

「取り潰し?」

「あそこの兵隊と一緒に前線送りだろうな」

「結構いますよ?」

「あの兵隊を養うだけでも大した出費になるだろうな。更に領地の守備隊を雇うとなると…… 荷担した連中にもいい薬になるだろう。まあ、第三軍の一翼を担えるのだから悪い話ばかりではないだろう」

「これからどうするわけ?」

「やることは変わらない。パスカル少年を魔法学校に届けるまでが仕事だ」

 また馬車を拾わないとな。

「騎士団のゲートを借りよう。近場のポータルに繋がっているだろうからな」


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