エルーダ迷宮暴走中(無翼竜・クヌム・メルセゲル編)10
「王様?」
「助けてくれって」
「ナーナ、ナ」
どうやら牢にいたのはクヌムの王だったらしい。
クヌムの町を蹂躙した僕らに何を頼んでいるのやら。
それにしても……
「勝手にイベント始めるなよ。というより、なぜこんなところにイベントがあることを知ってたんだよ?」
「本人が叫んでいたのが聞こえたのです。鍵をくれるというので貰いに来たです」
呆れ顔のロメオ君とロザリアと目が合った。アイシャさんは気付いてたようだな。
「それで、その王様の奥さんの墓に用を足しに行ったらどうなるわけ?」
「奥さんがお礼をくれると言ってたのです」
「具体的には?」
「……」
報酬も未定か。
リオナたちは耳がよすぎてこのフロアーに来たときから牢のなかの声が聞こえていたらしい。持ち前の好奇心がルートを無視してここまで僕たちを運んできたわけだが、何を好きこのんで。
「こんな辛気臭いクエストを……」
「面白そうじゃないですか。行ってみましょうよ」
ロザリアが言った。
「ここでやめたら結末が気になんのよ! どうせ今回は下見なんだから構わないでしょ」
ナガレがロザリア側に付いた。
「第一、このままだとこの骸骨が浮かばれないよね」
ロメオ君、君もか。
「屍になってさえ、亡き妻を思う。殊勝なことではないか。ここは付き合うのも一興じゃぞ。ナガレの言う通り急いでおるわけではなかろう?」
アイシャさんまで。
「どうせこの地図じゃ、すぐには出口に辿り着けないしさ」
確かにこのフロアーの地図は階層構造のせいでわかりづらくなっていた。
紙代をケチっているのか、作為的なのかは知らないが、どこにどこが繋がっているのか、今一よく分からなかった。そのせいでまんまとリオナたちに誘導されてここまで付いてきてしまったわけだが。
「まあ、冒険者の本質は道なき道を行くことだからな」
ああ、そういうことか。
このフロアーの試金石。自ら道を切り開く力。それを試していたんだ。
そもそも攻略に絶対なんていうルートはないんだ。
「道がなければ作るまで」
わざと柵に扉を設けず、行き止まりの先に道を作る。立ち止まるもよし、強引に行くもよし。
「…… いつもやってることじゃないか」
よし!
「マップの再確認。ルートを探すぞ」
それから僕たちは見づらい地図とにらめっこしながら、ある程度の道筋を立てた。
どうせ地図通りには繋がってなどいないのだと半分諦めながら。
大体立体構造を平面に起こすのは紙面を割かなきゃ難しいのに。紙面をケチって無理矢理平面に起こすなんてことするから。
牢屋の番兵の蛇頭が石に変わった。残念ながら土の魔石(中)であった。
あの団体冒険者たちの懐はメルセゲルでは満たされないことが判明した。装備品は錫杖だが、これも値打ち物とは言えない。唯一装備品のローブはいい生地を使っているようだったが、まさか女の身ぐるみを剥がすというのは…… 魔石になってくれて助かった。
「蛇相手に何を赤くなっている?」
アイシャさんが僕をからかうように豊満な肉体を寄せてくる。
「がーっ!」
僕はアイシャさんの腕のなかからすり抜ける。
「先を行きますから」
「相変わらず初じゃの」
そういいながらローブを回収するとリュックに仕舞い込んだ。
ロメオ君の顔を覗くと絶対からかわれるのでここは目を合わせないようにする。
先頭を行こうとすると、ヘモジが僕の横に付いてきて、たまにこっちを見上げながらにやにやしていた。
「ナーナーナ」
「何が『隅に置けませんな』だよ。おっさんかお前は!」
ケタケタ笑い出した。
「そんなにおかしいか?」
「ナーナナ」
「『弱点発見』だって」
オクタヴィアが肩に乗ってきた。
「やっぱりアイシャは危険なのです」
コラ、自分の胸と見比べるな。まだ十一だろうが!
「彼女が本気ならとっくに餌食になってますよ」
ロザリアが凄いこと言った。でもみんな正論だと感心した。
「お前ら、妾をなんだと思っておる」
そうこうしている間に大きな扉のある階段の踊り場に辿り着いた。
リオナが鍵を合わせようとしたがちと背が足りなかった。アイシャさんが鍵を受け取ると、わざとリオナの頭の上に手を置いて鍵を回した。
リオナはむくれた。
外の世界は晴れやかだろうと思いきや、余りの鈍重さに息を飲んだ。
なんだこのどんよりとした景色は……
嵐でも来るのか?
灰色の分厚い雲は何処までも低く、重く大地に蓋をしていた。高台を抜ける風もヒューヒューと悲しい音を奏でた。
「さすが死者の町だ……」
見渡す限り廃墟のようだった。
遠くで戦闘を繰り広げる音が聞こえてくる。
ほとんどの敵も城門に固まっていた。
残っているのは定位置を監視する見張りだけだ。
「一番の高台ね」
振り向くと高い丘に巨大な宮殿が建っていた。
「宮殿はあるけど、その割りには反応が少ないわね」
ナガレが言った。
「恐らく、あれは霊廟なのだろうな。探している相手はあのなかかもしれんぞ」
「確かに一番高い場所となればあそこだろう」
僕たちは歩き始めた。
見張りを仕留めた。仕留めたメルセゲルは下のフロアーに落ちた。
どうやらクヌム程の射程はなさそうであった。盲目というのも掛かる様子がない。毒の効果が盲目なのだろうか? だとしたら戦闘は大分楽になるのだが。
石とローブを回収する。
このローブは本当に肌触りがいい。
また行き止まりだ。
オクタヴィアが行く手を阻む塀を乗り越えて上の様子を見に行く。
「続いてる」
僕はゲートを出して上の階に皆を誘う。
窓から侵入したり、天井を乗り越えたりしながら道なき道をひたすら突き進むと高台の墓地に辿り着いた。
「アンデットが出ないだけでもよしとするか」
「出てきてもおかしくない雰囲気だけどね」
巡回兵が数名歩いているが、真っ直ぐ霊廟へ。代わる代わる攻撃を担当しながら先を行く。
「うわぁあ」
オクタヴィアが僕の肩の上でのけ反った。盲目が発動したらしい。
すぐに万能薬を舐めさせた。
「治った……」
目をぱちぱちさせていた。
毒には侵されていない様子だった。毒とはやはり別系統か。
「余り離れないようにして行こう」
遂に霊廟の入り口の前に辿り着いた。
明かりもない薄暗い霊廟だった。なかに豪華な装飾の棺桶が並んでいる。棺桶の蓋には生前の姿だろう石膏でかたどった全身像があたかもその場で寝ているかのように横たわっていた。
「探そう。多分このなかにあるはずだ」
どれもメルセゲルの一族の墓らしかった。一族の墓のなかにあって一つだけはぐれた場所に棺桶があった。その棺桶だけ、無残にも像が破壊されていた。
僕たちは全員その棺桶の周りに集まった。
「ヘケトの墓……」
僕たちはお棺の蓋をずらした。そして預かった髪飾りを棺に収めた。
「おっさんも亡くなったのです。一緒に安らかに眠るのです」
闇のなかにほのかな明かりが差したのはそのときだった。




