エルーダ迷宮暴走中(オーガ・無翼竜・クヌム編)8
翌日は快晴。全員意気揚々と出立した。
先日脱出したポイントまではほぼ流れ作業で。オーガも無翼竜も相手になどせず先を急いだ。
そして、無翼竜の巣を容赦なく蹴散らして、目的の隠し扉を探した。
地下に降りると僕たちは先を急いだ。通路のなかも変わりなく敵は人っ子一人いなかった。
やがて反応があった。接近戦が想定されたので、リオナとヘモジが先行した。
敵がこちらを発見して動き出した。
裏口から敵が頭を出した。
「羊発見!」
「ナーナー」
ここで水流など放たれたら、逃げ場がない。窒息する気はないのでふたりを追い掛けるように結界の範囲を広げる。
狭い通路には小柄のリオナとヘモジに分があった。全力のふたりに敵は呆気なく倒された。
続け様、地下の控え室に乱入、そこにいた連中を殲滅。上にいる奴らに気付かれるも、上階への扉は凍らせたので、降りては来られない。
回収作業を終えると、上階に目を向ける。ロザリアに頑張って貰うことにする。
『氷結爆裂』が上階、詰め所一杯に炸裂する。
僕たちは凍った扉を溶かして扉を空けると、詰め所は見事に凍った氷柱の餌食になっていた。
虫の息の数体にとどめを刺して、宝箱の探索である。
詰め所の入り口を警戒しつつ、中身を調べる。
なかからは昨日と同様、金銀財宝が唸るほど出てきた。が、予定していた地図はなかった。恐らくもう一つの詰め所の方だろう。道順は違うが構造に変わりはない。
僕たちは窓から見える敵を一掃した。誘導されてくる敵も遭わせて殲滅した。周囲を粗方きれいにできたのを確認すると、扉から外へ出た。隠れていた連中が特攻を掛けてくるが、結界に捕まった。
リオナたちは元より、ロメオ君やロザリアの魔法も炸裂した。どうやら今回は探索魔法が功を奏し、敵を追えているようだった。
四方から攻められないだけでも楽だった。詰め所への道は一本道だ。
予習が功を奏して迎撃ポイントを確保した僕たちは、徐々に範囲を広げながら上層階を手中に入れていった。下の階の通路を巡回する敵を、一方的に蹂躙しアイテムを回収する。
「立場が変わるとすっごい快適」
こちら側の敵を一掃すると、今度は反対側である。
まず中庭周辺を殲滅する。反対側の敵が通路を越えてやって来るが、散発的であった。
そのまま、僕たちは前進。アイシャさんとロメオ君は、中庭下階で息絶えた敵の亡骸からお宝回収である。
全員が遠距離対応で敵を殲滅していく。
詰め所を包囲するのに時間はかからなかった。
『魔弾』で正面扉を破壊。内部に爆炎を放り込む。
焼かれた羊頭が次々飛び出してくる。
銃弾の餌食になって全員が果てた。
索敵をする。周囲に敵の反応はなくなった。
「ふう」
みんながほっと胸を撫で下ろす。
「うまくいったね」
神経の磨り減る戦いだった。一度戦闘が始まると休む間がない。戦闘に次ぐ戦闘だ。
焼けた詰め所のなかに入る。
宝箱を発見する。
予想通り、次のエリアの地図が入っていた。それと鍵である。
「どこの鍵だ?」
僕たちは足元の部屋に降りた。
前回同様、留置所があった。だが今回は空気が流れていた。淀んではいなかった。
鍵を牢屋の錠に合わせるが合わなかった。
探索が始まった。
どこかにこの鍵にあう扉があるはずだ。
探し回ったが結局こちら側にはなかった。
困った僕たちは、このエリアの三枚の地図を合わせて考察した。
僕たちはショートカットが必ずあると考えた。このフロアーを問題視する噂をこれまで聞いたことがなかったからだ。地下通路の出口から近い場所に新たな道があるはずだと睨んだ。
反対側の詰め所まで、再び戻ってくるとようやく見つけた。
地下の控え室のその更に下に扉があったのだ。
「でもさ、この鍵がないと扉が開かないってことはさ」
ロメオ君が言った。
「…… ギルドのアイテム販売所か」
思わず溜め息が出る。
恐らく、この鍵は売っているものと思われる。
後で調べたら実際に売られていた。
『地下三十二階。ショートカット、第三エリア入り口用、床扉の鍵。金貨五枚』
なかなかいい値段であった。戦闘を最小限に抑えるには妥当な値段か。否、長期戦を回避できるのだから破格の安さだろう。
冒険者的正しいルート発見である。
僕たちは笑った。
扉を開け、更に下に降りると、また手彫りの空洞が何処までも続いていた。
僕たちは慣れた様子で先を行く。
「食事どうする?」
そろそろ昼の時間だった。当然、地上に戻ることはできない。
「見晴らしのいいところで食べるです」
次のエリア攻略が済んでからということか。次のエリア攻略したらフロアー攻略完了だけどな。
戦闘はほぼ同じことの繰り返しだった。宝箱は一つには財宝が、もう一つにはフロアー出口の扉の鍵があった。
なるほど、こっちにも鍵が必要だったか。
『地下三十二階。第三エリア出口用、門扉の鍵。金貨五枚』
合わせて十枚か。通過するだけなら、高く感じるかもな。宝箱も開けないわけだしね。
どうでもいいけど『エルーダ迷宮洞窟マップ・下巻』にこの手の情報は書いておいて欲しい。
商売っ気がないのか、横の連携が取れていないのか知らないが、一言言っておいた方がいいだろう。その前に……
僕たちは昼食に有り付くことにした。
腹が減っては何とやらだ。
報酬もきのうに続いて大商い間違いなし。自然と財布の紐が緩む。
リオナの胃袋もいつもより元気そうで、焼き肉定食二人前をぺろりと平らげた。
窓口のマリーさんが言った。
「宝箱開けた?」
僕たちは頷いた。
「ならわかるでしょ? それが理由よ。近くの敵さえ仕留めれば誰でも開けられる、ある意味難易度ゼロの宝箱。一時流行ったのよね。でも、釣られて返り討ちに遭うにわかパーティーが多くてね。悲惨だったらしいわよ。それでギルドとしては、脇目も振らずにショートカットしてくれることをお薦めしてるわけ。攻略はレベルを上げてからでもできるわけだし、ここは先に進んで貰いましょうと」
「ためにならん話だ」
アイシャさんが呆れる。
「三十三階も相当厄介でね。大概の冒険者はこの辺りが限界だと薄々感じ始めるのよ。こちらとしては人生の転換点を前に無駄死にして欲しくないわけ。却って危険だという人もいるけど、実際犠牲は減ってるわけだしね」
「立て看板は伊達じゃなかったか」
「三十三階はスタートからつまずくでしょうから、否応なく進めなくなるでしょね」
「そんなにやばいの?」
「やばくはないわよ。だからショートカットさせてるわけだし。でも越えられない壁があるのよ」
意味深である。換金の手続きをすると僕たちは、地下三十三階を覗くことにした。越えられない壁とは何か?
新たな敵はメルセゲル。蛇頭の女だ。首から下は女の姿をしているらしい。消えるのはオーガである。
洞窟に転移した僕たちが見た物は確かに『越えられない壁』だった。
それはまさに巨大な要塞の城壁だったのだ。




