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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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エルーダ迷宮暴走中(オーガ・無翼竜・クヌム編)7

 階段を降りるとまた長い洞窟が現れた。恐らく次のエリアに続いているものと推察される。 僕たちは次回攻略をここから再開することにして、撤収を決めた。

 その場で、売り物とそうでないものをより分ける作業に入った。

 水の魔石(大)はすべてナガレのために持ち帰ることにしてリュックに詰め込んだ。

 有効な付与の付いた物は除き、それ以外はすべて鑑定に出してから決めることにした。


 地上に出ると商業ギルドの買い取り窓口を訪れる。

「大商いですね」

 いつもの担当者が笑う。

 この人ともすっかり顔なじみだな。

 売り手がホクホクなら買い取る側もホクホク顔だ。

 石はどれもいい物だった。杖に付いていたいらない石でも金貨三枚は下らないらしい。鑑定に二日ほしいというので任せることにした。


 後日、四分の一を持ち帰り、残りはすべて売り払った。

 締めて金貨二千五百枚。一人頭五百枚だ。全員のカンパで果樹園の木の苗を購入して、スプレコーンに送って貰うことにした。全国の商業ギルドから選りすぐりの木の苗が送られてくることになった。

 今回の購入で、ほぼ畑は埋まる公算である。

 長老たちに集めて貰っていたが、元々門外漢で、まとまった数が手に入らなかったのだ。

 当初予定していた数の三倍以上の量を、冬のこの時期に、しかも期限一ヶ月で発注していたのだから当然だった。供給側も急な発注に数を揃えるだけで苦慮していたのだった。

 足りない分は、追々追加する方向で考えていたのだが、今回の移民で優秀な人材が多く集まったというので方針転換。できるだけやり慣れた仕事に就かせてあげたいという思いも希望もあって、みんなで考えていたのだった。

 そのためにはまず苗木を揃えないことには始まらないのである。

 植える苗木はポポラとウーヴァだ。ユニコーンの力でどれ程成長が早まるのか見物である。

 普通は実がなるまでポポラなら三年、ウーヴァなら二年は見ないといけないらしいが、ウーヴァ辺りは一年目からいけてしまうかもしれない。否、あいつらのポポラへの執着を見る限り、初年度からやるかも知れない。まあ、その辺は栽培人と相談して好きにやって貰いたい。

 とりあえず足りない苗木は全国から集めて貰うことにした。少々お高く付いたが、この時期に無理を言っているのはこちらだし、よろしくお願いしておいた。


 ゆったりとした夜を過ごしていた。

 次のエリアの地図を開きながら、みんなで攻略を練った。ほぼ変わらぬ構造をしていたので大方の予想はできた。次の攻略は詰め所から潰していくことになるだろう。上から攻められることはなくなるだろうが、混戦が予想される。

 弾丸を揃えておくことにする。倍の量を持っていけば、フロアーの攻略は可能と判断した。リオナと一緒に地下に降りて弾丸を多めに準備する。

 それから荷車代わりの携帯『浮遊魔法陣』をリュックに仕舞い込んだ。

 地下から戻ると甘い匂いが漂ってきた。

 食後に何をしていたのかと思ったら、クッキーを焼いていたようだ。

「オクタヴィアも万全。お砂糖味多めに持っていく」

 髭にクッキーのカスを付けて嬉しそうである。

 僕はオクタヴィアの顔を拭いてやり、頭を撫でてやった。


 夜更けになって姉さんが僕の部屋に顔を出した。

「どうしたの? こんな時間に」

「ユニコーンに急な依頼をされてな」

「なんだって?」

 ユニコーン? 南の国境に行ってたんじゃないのか?

「温室が欲しいらしくてな」

 それでなんで僕の部屋に来るんだ?

 僕は姉さんを招き入れて、照明と暖炉に火を入れた。

「里の話? 作ってあげたんじゃなかった?」

「いや、温室はまだだ。お前の所の温泉みたいに併設する温室が欲しいらしい」

 無茶を言う。あの巨体が大勢でくつろげる場所なんてそうそう作れるわけがない。産屋だってあの大きさなのに……

 僕はやかんを魔法で沸かし、お茶を入れた。

「場所を変えればいくらでも穴を掘ってやるんだがな。今の温泉の位置は変えたくないと言い張ってな」

 できるんだ……

「なんで掘れないの?」

「里というのが山岳の横穴のなかにあってな。地下にこれ以上大きな空洞を空けるわけにはいかないんだ。何せ駆け回るのがあの巨体だからな」

「温泉は横穴のなかじゃないよね?」

「洞窟のなかに広い吹き抜けがあってな。そこに作ったんだが」

「すぐ洞窟だったら寒くないんじゃ」

「雨風を凌げるだけだ。外気の温度とさして変わらん。お前の所のように獣人が身体を拭き上げてくれるわけではないからな。濡れたままではせっかく暖まっても寒かろう」

「どうする気?」

「すぐそばに温泉が来てるから温室を作るのは難しくないんだが、上物がな」

「洞窟を暖めちゃうわけにはいかないの?」

「夏が困るだろ? 問題は『冷える前にすぐそばに』欲しいということだ」

「我が儘だな」

「実際濡れたままでは寒かろう? 壁や屋根を造るには材料を結局掘らないといけないしな。運び込むにも人の出入りは認められんし。あいつらが荷車でも引っ張ってくれれば問題解決なんだが」

 プライドが許さんだろ。

「魔法で創造するのはなし?」

「神じゃあるまいし。限界があるだろ。増してやあいつらの巨体に耐える構造にしないといけないんだぞ」

「巨大陸亀の甲羅なんてどうかな?」

「んなもんどうやって運ぶんだ。洞窟の入り口すら通らんだろうが」

 言うべきか、言わざるべきか、でも姉さんも『牢獄』使いだからな。話しちゃいけないってことはないよな。

「できたとしてどうなのかな?」

「あれば楽勝だな。基礎の上に甲羅を置いて、周囲を固めれば……」

 姉さんが僕を値踏みするような目で見た。

「甲羅を運べるなら、大量の物資も運べそうだな」

 ニヤリと笑った。

「持つべきは優秀な弟だな」

 しまった…… 藪蛇だった。

 甲羅を処分したいばかりに余計なことを。

「姉さんがやったらいいのに」

「生憎、したくてもできん。知っての通り、いろいろ準備を整えてやっと一回だ」

 そうだった。姉さんの『牢獄』は僕と『楽園』ほど相性がよくないんだった。フル装備でブーストしてやっとだったんだ。悪いこと言っちゃったかな。

「明日は狩りにいくのか?」

「まあね」

「じゃあ、帰ったらにしよう。恩は売れるときに売らんとな。それまでにいろいろ準備しておこう」

 そう言うとお茶を飲み干して玄関に向かった。

「泊まったら?」

「ヴァレンティーナが王都に出ていてな。館を留守にはできん」

 姉さんは見慣れた外套を羽織ると館に帰っていった。

「お休み、姉さん」

「お休み、エルネスト」


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