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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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エルーダ迷宮暴走中(コアゴーレム・オーガ・無翼竜編)3

 三度目の地下三十一階である。もうさっさと通過することにする。

 また何かに巻き込まれては面倒だ。

 ふたりでクリアーできるエリアを全員で移動するのも退屈だが、誰も出口まで辿り着いていない以上、止むを得まい。

 僕がゴーレムを、ロメオ君とナガレがオーガの相手。残りが無翼竜担当だが、ここでロザリアが魔法の実習をしたいと提案。

 断る理由もないので皆が了解した。

 退屈凌ぎにはいいだろうとリオナと考えていたが、これが大誤算だった。


 そもそもロザリアは光の魔法専攻の魔法使いである。

 教会の中枢にあって、生まれたときから光の魔法ばかり訓練し続けてきた聖少女である。魔力量は幻獣召喚を使うせいで普通の魔法使いよりも数段優れていたが、如何せん言語体系が時代遅れの化石状態だった。

 伝統やら教義やら、奇跡の技やら秘術やら、様々な理由が付けられ、特権化され、秘伝化され続けたせいで教会の魔法体系はすっかり形式重視の隠蔽体質に染まっていた。当然、改革、改善などは行なわれず、後生大事に生まれた頃のままの古い術式が幅を利かせていた。そのせいで僕たちの言うところの魔法体系からは著しく遅れてしまっていたのである。

 それ故、習得しづらく、覚えるのが難しいという専門性が担保できたとも言えるが、他の魔法を平行して使うとなると大きな問題になる。

 元々傷ついて動けない相手を安全な場所で相手にしていればよかったのだから、それでも構わなかったのだが、前線に出るとなるとすべてが足枷に変わるのだ。

 ロザリアが今日まで実戦でなかなか魔法を使わなかったのは、否、使えなかったのは発動の遅さや命中やら誘導の制御能力のなさが原因だった。

 つまり彼女はスピード重視の実戦魔法というものから最も遠い位置にあったのだ。

 回復魔法が何より予測性が大事などとまことしやかに言われるのはそういう理由からであり、彼女が実戦などと今更なことを言い出す理由でもあった。

 しかもうちの魔法使いは揃って優秀で発動速度も、制御も彼女はおろか、名うての魔法使いの遙か先を行っている。

 ハイエルフの存在がすべてのレベルを大幅に底上げしているのだが…… 苦しかったと思う。素地はあったと言ってもたった一年で、過去学んできたものを捨てて、新たな術式を使いこなせるようになるのは並大抵のことではなかったと思う。常に後塵を拝しながらもひがむでなく、諦めるでなく、ただひたすら淡々と。魔法が使えなかった僕にはよく分かる。悔しかっただろう、つらかっただろう。

 いきなり無翼竜というのもどうかと思ったが、隣りには最高の指導員がいる。魔法使いにとって優秀な師を得ることがどれ程難しいことか。僕にとって姉さんがいたように、ロザリアにはアイシャさんがいる。


 戦闘は始まったが無翼竜はなかなか出てこなかった。壁に張り付いたゴーレムと目的もなくふらついているオーガばかりだった。

 どうやら無翼竜は各ルートの合流地点ぐらいにしかいないようだ。

 そしてようやく現れる無翼竜を前にロザリアが戦闘を開始する。

 みんな手が出せないとなると口が出る。

「ほらそこだ!」

「そこは溜めて、相手が正面を向いてから!」

「一気に畳み掛けるのです!」

「ナーナナ!」

「そこはガツンと一撃入れるのよ!」

 どんな強敵と戦っているのかと、もし周りに別のパーティーがいたら思うに違いない。

 なんのことはない。魔法使いが氷の魔法を三発ぶち込んだだけだ。後は勝手にボロボロ崩れるのを待つだけである。

 それでも仲間の注文は尽きない。

「ロザリア、別の意味で頑張れ」

 僕の言葉にロザリアも苦笑いした。

 きっと「後ろでじっとしていた方がよかったかな」とか思っているに違いない。

 僕も応援しかできないが、口に出すのはやめておこう。

 アイシャさんも黙って見ているだけ。たまにロザリアと視線が合っても笑顔を返すだけだ。

 その分猫が騒いでいたのでヘモジに黙らせるように言ったら、僕のリュックからクッキー缶を取り出して、中身を食べ始めた。

 慌てるオクタヴィアと追いかけっこが始まった。

 数分後、オクタヴィアは口もきけないほど疲れ果てて黙り込んだ。

「ナーナー」

 完璧だ。クッキー缶を僕のリュックにしまって、何事もなかったかのように僕の肩の上に収まった。


「エルネスト」

 突然アイシャさんが僕を呼び止めた。

「コアゴーレム、貰うぞ」

 無翼竜ではなく、コアゴーレムとやりたいらしい。

「いいけど」

「試したいことがあってな。間を持たせてくれ」

 それは僕がやるんだ。

 僕は結界を張ってコアゴーレムと対峙する。何をするわけでもなくただ力比べをする。

 一旦受けて押し返す。ゴーレムは向きになって更に押し返そうとする。

 力がピークになったかなと思ったところで受け流してやる。ゴーレムはバランスを崩して前のめりに倒れ込む。

 後は足を切り刻んでいれば時間はできるのだが、もういいと言われたのでそのまま放置した。

 ロザリアの詠唱が終ったらしい。長い詠唱だった。

氷結爆裂(フリーズブラスト)ッ!」

「げっ!」

 僕は自分に張った結界を強化した。

 次の瞬間ゴーレムは真っ白になった。

 ゴーレムだけでなく通路全体が白く凍った。ゴーレムを中心に爆発が起きて無数の氷柱が針山のように、周囲に広がった。それは巨大な……

「ウニ!」

「毬栗なのです!」

 …… そんな感じだ。ゴーレムは無数の氷柱に貫かれて、コアも凍らされて絶命していた。

 結界がなかったら僕も針山が刺さっていたのだが。

「何これ?」

「必殺技じゃ。日頃の努力には報いてやらんとな」

「術式から作ったんですか?」

「まだ無駄が多そうじゃが、うまくいったな。ロザリアの想像力の賜じゃ」

「爆炎の氷バージョンだね」

 ロメオ君も感心しきりだ。

 オクタヴィアが氷柱の山を器用に登っている下で、ヘモジはハンマーを持ち出し氷を砕いて遊び始めた。

「何やってんだか」

 取りあえず、おめでとう。

 やった本人が一番驚いていた。

「あぎゃ!」

 ヘモジが氷柱の根元を破壊したせいでオクタヴィアが上から落ちてきた。

 オクタヴィアの抗議に、ヘモジも言い返す。

「ナーナ、ナーナナ!」

「『オクタヴィアが氷に乗ったから折れた』と言ってる」

 ナガレが通訳しながら呆れている。

 そもそもふたりは何してるんだ? 暇を潰しているのは分かるが……

 そうこうしているとゴーレムは石に変わった。

 どうせはずれだろうと思っていたら、金塊が出てきた。

「…… 出るんだ」

「出たね……」


「早い者勝ちなのです!」

 リオナが駆け出した。僕も追い駆ける。

 一匹のオーガに向かって全員が全力で仕掛ける。

 が、リオナが切りつける前にヘモジのハンマーが命中した。

「ナーナ!」

 あれほどだれていたみんなが急にやる気になった。

 ロザリアの大成はみんなにやる気を与えたようだ。

「必殺技なのです!」

「僕も必殺の魔法を考えよう」

「ナーナー」

 若干方向性は間違っているが、まあいいだろう。


 結局終始、敵を圧倒してこのフロアーを完走することができた。


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