エルーダ迷宮暴走中(コアゴーレム・オーガ・無翼竜編)1
いつもよりかなり遅めだが、リオナと約束通り、迷宮探索に出かけた。
棟梁に土産を渡したり、船の改造の要望を出したりと、事後処理を済ませるのに結局昼まで掛かってしまった。
もれなくヘモジとナガレも付いてくるかと思ったら、子供たちと意気投合したヘモジは欠席、待ちくたびれたナガレも不参加となった。
「召喚獣としての自覚が足りないのです」とリオナは言った。
うちの召喚獣はどうにもフレキシブル過ぎるからな。普通召喚主と距離が離れてやっていけるわけないんだけど、あの祠のせいだろう、町中での活動はかなり自由になっている。ナガレは兎も角、ヘモジまで恩恵を受けているのがよく分からないが、取りあえずそういうものだと理解しておく。
後であの祠の術式を細かく調べた方がいいかもしれない。
僕たちは振り子列車の客車のなかで昼食を取ることにした。
本日の狩り場は、地下三十一階。
かつて僕とリオナがゲート広場で乱暴なプレートメイル男に突き飛ばされ、巻き込まれて転移した先がこの階だった。
「あのときは苦労したよな」
「門番さんと頑張ったのです」
というわけでいつか見た景色である。このフロアーの罠は毒矢だったか? 敵はコアゴーレムとオーガ、無翼竜である。
構造は典型的な地下道迷宮。トラップ部屋の罠は知る限り『増援』だ。
『エルーダ迷宮洞窟マップ・下巻』で出口までのルートを確認する。
当時はどこに何がいるか、すべてリオナ任せだったが、今ならどこにどんな魔物がいるか僕にも分かる。
…… 魔物じゃないものも見えたりする……
先客だ。それも知ってる奴だ。
ファビオラ、ロザリアの元同級生の一団だ。
「ルートが被るな。向こうにばれないように大回りするか?」
最短距離は諦めて、西から攻めることにした。
オーガとコアゴーレム、どちらの相手をするかという選択肢になったので、面倒のないオーガのコースを選んだ。オーガには『威圧』攻撃があるが、コアゴーレムのコア探しに比べれば楽だと判断した。
無翼竜はどのコースでもそう違いはないので、勘定に入れないことにする。
最初の角を前回とは逆に折れる。
目の前の壁にゴーレムが人形のように突っ立っていた。ああ、起動していないのもいるわけね。
リオナが接近戦を仕掛けた。
一度ゴーレムをその手で切り刻みたかったらしい。
本日はそのためにわざわざ『霞の剣』を持参してきていた。
双剣の方は『障壁貫通』はあるが、ゴーレムの堅さは障壁ではないので意味がない。魔法攻撃力付与の『霞の剣』の出番である。
まず両足を切断した。上半身が崩れ落ちてきた。
切り裂いたときに出た土塊が上半身の方に吸い込まれた。
コアは足の方にはない。初めて対戦した相手は足の裏だったけどな。
続けて腕を切り落とし、そこにもないことを確認した。残りは頭と胴体だが、分離した足がくっつき始めた。
リオナは双剣の片割れで銃弾をお見舞いして、合流を阻止。続け様、頭を吹き飛ばした。
どうやら正解だったようだ。
リオナは頭を切り刻み隠れていたコアを突き刺した。
ゴーレムの身体は崩れて砂山に還った。
「ふふ、楽しいのです」
砂山が消えると石が残った。なんの石だ? 手に取るとそれはただの鉄屑だった。
壁の明かりが少し暗い。ここを通り抜ける人は少ないのか。
オーガのいるコースを選んだのに、二戦目もゴーレムだった。
面倒臭いので『一撃必殺』を発動。コアの位置を特定する。
「左の肩だ」
「……」
何? なぜ攻撃しない? もう飽きたのか?
「エルリンの番なのです。修行なのです」
え? あれと接近戦やるの?
「狙撃すれば一発なのに?」
「またいじめられるのです」
こないだのヴァレンティーナ様たちとの立ち会いのことか? 確かにこんなときじゃないと剣は振れないが。何もこんな面倒な相手のときにやらなくても。
ゴーレムの方が待ってくれなかった。
ゴーレムが僕目掛けて突っ込んでくる。文字通り岩のような拳を振り下ろしてくる。
僕は剣を抜くと腕を切り落とした。そのまま、欠けた腕の側に回り込んで足を切り落とす。倒れ込んだところで肩のコアがありそうな位置を切り裂いた。
「なんで負けたですか?」
ゴーレムを容易く葬る僕がなぜヴァレンティーナ様たちに負けたかって? 普通分かるだろ? ゴーレムよりあの女たちが強いんだよ。それも桁違いにな。
「リオナは姉ちゃんたちに勝てるのか?」
リオナは頷いた。
「お姉ちゃんには三回に一回は勝てるのです。サリーには二回に一回、エンリエッタには一回も勝てない。あれは化け物なのです」
「その歳でヴァレンティーナ様相手に勝てるのか」
凹むな。
僕の苦手なサリーさんに二回に一回って。反射神経とたぐいまれな身体能力のなせる技だろうけど。
お前どれだけ強くなるつもりなんだよ。
「同列に並べと言われてもな」
雲泥の差だよな。
「修行は楽しいのです」
身体を動かすことが楽しいんだろ? 日頃こいつの相手してる爺さんやアイシャさんの苦労が忍ばれる。
そう考えると僕はやはり魔法使いなんだろうな。魔法あっての剣士。生粋の剣士には勝てんか。
いや、努力あるのみだ。リオナも努力して強くなった。十歳児に、もとい十一歳児に負けて堪るか!
ようやくオーガを見つけた。
「よーい」
「ドン!」
僕たちは駆け出した。
『咆哮』を上げるべく息を深く吸い込んでいるところを左右から切りかかる。身体を縦に三枚にスライスだ。
「遅いのです」
リオナが格好付けて剣を鞘にしまう。
アイテムあさりで小休止する。
「あ、さっきのゴーレム、何落とした?」
リオナがポケットから出したのは青い宝石だった。
「取りあえず魔石代は出そうだな」
僕がそう言うとリオナは笑った。
「デートは楽しいのです」
「ん?」
デート? これが?
そういやふたりきりになることなんて蛙以来か。でもあのときはヘモジもいたしな。
そう考えるといつ以来だろう?
「うん、楽しいな」
リオナの尻尾が擦り寄ってくる。
「んん?」
お菓子の匂いがする。
「あ……」
見慣れたクッキー缶が……
「くすねてきたです」
「オクタヴィア泣くぞ」
「非常食がなかったです」
「干し肉は?」
「子供たちに全部食われたです」
非常食だと言うのなら今食べてちゃいけないんじゃないだろうか?
オクタヴィアすまん。
「帰りにホタテ買って行ってやるか……」
「ホタテは在庫があるのです。スルメがいいのです」
それはお前の希望だろ!
オーガを二匹発見する。
どっちが先にやるか、勝負だ。
「よーい」
「ドン!」
リオナが先行する。
リオナの相手は斧持ち、僕の相手は槌持ちだ。
僕の相手が先行するリオナにターゲットを定めた。二対一の状況を作ろうと動き始めた。
僕は『千変万化』を使って一気に距離を詰める。
武器を振り上げた両腕と首を一刀両断する。
「お前の相手は僕だ」
槌が転がった。
「負けたです」
振り返るとリオナが敵に容赦なくとどめを刺していた。
「脅かすなよ」
リオナが負けたと思うだろ!
「エルリンに負けたです」
「一匹ずつだからおあいこだろ?」
「いいとこ見せるとこだったです」
そのときだ。
通路の奥から悲鳴を聞いた。聞きたくなかったが、聞こえてしまった。
またか? またなのか?
なんで懲りないんだ? サンダーバードで懲りたはずだろ?
ファビオラ…… なんでそんなところにいるんだ?
彼女たちのパーティーはいつぞや罠にはまっていた連中と同じ、トラップ部屋にいた。




