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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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西方遠征3

「坊ちゃんでしたか」

 砦の責任者が顔を出した。親戚のバッカス隊長であった。

「ご無沙汰してます」

「あれが噂の飛空艇ですか。それに」

 僕のボードを見た。

「これから親父に見せびらかしに行くところです」

「わたしも一度乗ってみたいものですね」

「乗れるんじゃないですか。親父も三隻購入するらしいですから」

「西の案件が落ち着くまではお預けでしょうな。山の向こうで大きな音がしましたが?」

「地獄門です。一番高い峰の麓にでかい穴を開けてました」

 原因を知り、取りあえず安心したようだ。

 偵察といえどもここでは命がけだ。出ないで済むなら出ない方がいい。

「やはり一隻こちらにも欲しいですな」

「親父に伝えときます」

「頼みます」

「それで?」

「ああ、伝言と補給を頼みたかったんですよ。恐らくここのところの大雪のせいだと思うんですがね。今朝からの物資が届かないらしくて。目下、麓の町共々孤立無援というわけでして。まだ、備蓄はありますが、リバタニアに出した知らせの返事もまだ来ないようなので」

「確認に手間取っているのかな? ゴリアテまでは振り子列車があるから、何かあってもそこまでは大丈夫だと思うんですけど。分かりました。帰りに、もう一度寄りますよ」

「頼みます」


 船に戻ると、少し遠回りになるが街道に沿って飛ぶようにテトに頼んだ。

 熱いお茶が胸に染みる。

「ナーオ」

 オクタヴィアはまだ泣いていた。

 後で死ぬほどターキー食わせてやるよ。

『若様、来て下さい』

 暖まって一息ついたときだった。テトから呼び出された。


「あれ見て」

 テトが進行方向の先を指差した。

 ゴリアテまであと僅かというところで、さほど広くない川幅に掛けられた木造の橋が跡形もなく落ちていた。残っているのは川岸に向かって伸びる行き止まりの道が二本。

「参ったな…… 橋が落ちたのか」

 物資が届かなかったのはこのせいか。

「夜の間に落ちたのかな」

 ミカミ側の雪道にはまだ馬車の轍はなかった。

 一方、ゴリアテ側の岸には人が大勢集まっていた。

「物資輸送の派遣を要請しても、橋を架け替えてからとなると時間がかかりそうだな」

 原因をリバタニア側から逆走して確認しているとなると、ここまで来るのにまだ大分時間がかかりそうだ。ゴリアテからの知らせの方が早いか?

「どうしたもんかな」

「取りあえずは橋を架けるです」

 リオナが言った。

「でもな、素人が架けた橋じゃ二次災害が起こるかもしれないし」

「工事をするにも足場がいるだろ? 街道の脇にでも人が通れる程度の橋を架けておけば、取りあえずはいいんじゃないか」

 棟梁がそう言うので、僕はもう一度外套を着て出て行く羽目になった。やっと暖まったのに。

 アイシャさんが替わってくれてもいいんだけどな。


「さて」

 誰もいないミカミ側に降り立って、周囲の雪を溶かして地面を露出させた。対岸にいる野次馬も察して距離を開けてくれた。彼らは飛空艇を見上げて呆然としながらも、こちらへの興味を忘れない様子。

「どういう橋がいいかな」

 橋台部分が根こそぎなくなっているので、原因は濁流とか、増水したせいだと思うんだけど。そうなると単純に架け替えればいいというわけにはいかないからな。やはり玄人の護岸工事が必要になるだろう。

 取りあえず橋台は川岸から離して、長めの橋を架けることにしよう。仮設なので基礎工事までやる気はない。

 でもそうなると、ただ丸太を渡したような単純な構造とはいかない。まず対岸まで届かないし、橋桁もないので中折れするに違いない。

 思いついたのはアーチ型の橋だ。

 どうせ一体成形だし、強度計算なんて僕には無理だから、見よう見まねでやるしかない。

 ドワーフに頼めば後で立派な橋を作ってくれるさ。

 僕はいつかどこかで見かけたような、それでいて細部をはしょった橋をイメージし、岸の両側から土を盛りながら中央に伸ばしていった。そしてほぼ中央で接合させると、形を固定していき、一枚岩の思ったよりごつくて、でかい橋を作り上げた。

 しまった。つい橋の長さにあった橋を想像したら、馬車が通れるほど広い橋ができあがってしまった。重量制限大丈夫かな。

「なんで、こっちに造らねーんだ?」

 通せん坊されて苛ついていた一部の野次馬から野次が飛んできた。

「馬鹿かおめえ。それでも魔法使いか!」

「できんならもっとさっさとやれよ!」

 何、酔い覚ましに凍りたいの?

「お、おいっ! 黙れ! あれは親方様の印だぞ」

「ここは親方様の領地だ。兵隊ならみんな親方の印だろうが」

 仮に兵士だったとしても、喧嘩売っちゃ不味いんじゃないだろうか?

「いかん、こんなことしてる場合じゃなかった」

 僕はボードに乗った。

 この橋が崩れようが、崩れまいがもう知ったことではない。人の善意が解せない者は勝手に落ちて死ぬがいい。

 捨て台詞を心のなかで吐いて飛び立った。

「あくまで仮設ですから気を付けて」

 善良な人々には警告を発しておく。後は自己責任でどうぞ。


 キャビンに戻ると耳のいい奴らがみんな憮然としていた。

「酔っ払いの言ったことだから気にするな」

 僕はピノやリオナの頭を撫でた。

 しらふに戻ったとき青ざめてくれればいいから。

「ダメ人間!」

 チコちゃんまで……

「ナーナナ、ナーナ!」

 ヘモジがハンマーを窓から落とすか聞いてくる。

 ここにいては駄目だ。

「先を急ごう。待ち合わせに遅れる」

 

 ゴリアテには寄らずにそのまま街道を下る。

 実り豊かな穀倉地帯も今は雪の下。モチモチパンの原料はこの広大な畑で取れる芳醇な麦だ。

 雪の平原を進んでいたら、突然船が止まった。

「どうした?」

 窓から外を見た。

「道がない」

「なくなってる」

 以前リオナとふたり、馬車で通った街道が雪の下に埋もれていた。

 街道はうねりながらもほぼ真西に向かっていたはずだ。

「このまま前進だ」

 一面の雪景色では方角も定まらず、太陽の位置を見て方角を決めるしかない。

 獣人なら町の匂いを嗅ぎつけられるかも知れないが。

 兎に角前進あるのみである。

「通行を再開させるのも大変だな」

 行けども行けども街道は現れない。こうも雪が深くちゃ馬は使えないし、砦の補給はやはり振り子列車でゴリアテ経由しかなさそうだ。


 果てしない雪野原を進むとやがてよく見慣れた城壁が遠くに現れた。

「リバタニアだ」

 町の城門まで進むと、既に迎えが出ていて、城門手前の広場が空けられていた。


「来たな」

 親父と母さんが直々にお出迎えだ。

 船の係留もまだだというのに、子供たちが次々飛び降りる。

 警護で付いてきた兵士たちがざわめく。

 そりゃそうだ。誰も飛空艇のスタッフが獣人の子供たちだとは思うまい。

「まあまあ、よく来たわね。寒かったでしょ」

 子供たちを母さんが出迎える。野次馬のおばちゃん連中からも黄色い喚声が。そりゃうちの子たちは誘拐されるほど可愛い子ばかりですからね。

 続いてリオナを先頭に、年長組が降りてくる。今度は男連中がざわめく。

 僕は忘れないうちに親父に伝言と街道の様子を伝えた。

「伝令から聞いておる。そこでだな、頼みたいことがあるんだが」

 多分そうなるだろうと思っていた。試乗と称して実際に砦まで物資の搬送をすることになった。

 砦への返事を遅らせていたのは、僕との交渉次第だったからだそうだ。

 棟梁もコンテナの試験ができるとあって上機嫌だ。

 もうすぐ酒が飲めるという期待のせいかもしれないが。

 補給物資をコンテナに積み込むまで、一時間ほど時間ができた。家に帰るのも時間が勿体ないということで、まだ空いてる近場の食堂を借り切った。

 船の番には、コンテナの積み込み作業もあるので、棟梁に残って貰った。

 その分高い酒を買って帰ることを約束させられた。


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