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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第二章 カレイドスコープ
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リオナと追いかけっこ

 やる気が失せたので家に戻ると、女たちはみんなで風呂に入っていた。どうやら浴室の改造が済んだらしい。いくら広い浴室だと言っても、全員で入るには狭くないか?

 それに警備が手薄に――

 姉さんの結界を突破してくるやつはそうはいないか。

「昼間から贅沢なものだな」

 外套を脱いでコート掛けにかける。

「あのぉ」

 リオナが恥ずかしそうにモジモジしている。

「何?」

「先ほどのしゃべりはいかがでしたでしょうか? ち、ちょっとだけがんばってみたのですが」

 そういえばいつもより子供らしかったというか、はしゃいでいたというか……

「家の外では普通の女の子のふりをしようかとがんばってみたのですが」

 なるほど、いつものおすましやさんは封印しようとがんばってたのか。あまりうまくいっていなかったようだが。

「うん、よかったよ。ああいうリオナもかわいかった」

 本人にどういう意図があるのかわからなかったので、とりあえずそう答えておく。

「あ、ありがとうございます。これからもがんばりまふ」

 あ、舌噛んだ。

 リオナは茹で蛸のように真っ赤になった。真っ赤になって尻尾を抱えて固まってしまった。

 普通の女の子のふりね……

 冒険者の婚約者として身の丈を合わせようとしたのだろうか?

 純粋に王女であることを隠すため?

 違う気がする。もっと切実な……

 十歳の子供が救いを求めるような目で僕を見上げる。

 おすましやさんが台無しである。


 はて? 普通のリオナとはなんだ? いつものリオナは普通じゃないのか?

 ふと疑問が沸いた。


 そして、嗚呼、そういうことかと芋ずる式に答えが出てしまった。

 王女様だと意識して構えていたのは僕の方だったんだと。

 だから僕が素っ気ない態度をとるのは、自分のせいなんじゃないかとリオナは思い込んでしまったんだ。

 打ち解けたかっただけなんじゃ……

 おすましやさんなんかじゃなかったんだ。

 この子はじっとひとりで耐えていたんだ。家族と離れ、知らない大人たちに混じって、ひとりぼっちだったんだ。そりゃそうだよな。十歳だもんな。命狙われてるなんて言われたら。

 それがお前の本当の素顔なんだな。おどおどして、心細げで、周りに気を遣って、それでいて泣き言も言わず、前向きで。将来の夫のために背伸びして。

 これじゃ、僕の方が将来の夫失格だよ。

 ごめんな、気づいてやれなくて。

 僕は彼女に抱きついた。思いきり頭をぐりぐり撫でてやった。

 そうだ。僕の方から打ち解けていかなきゃいけなかったんだ。これからずっと一緒なんだから。小さな子がこんなにがんばっているんだから。

 女の子とどう接すればいいかわからない?

 そんなのお互い様じゃないか。少なくともこのちびっ子は踏み出した。お前は見ているだけなのか? 俺ッ!

「おーっ! もふもふだぁ。かわいいのぉ、かわいいのぉ」

 きゃあ、きゃあと黄色い声を上げながら僕の抱擁から抜け出した彼女は逃げ出した。

「ひどいのです。エルリンはロリコンなのです」

 髪を振り乱して逃げ回るリオナは野生児のようだった。僕も負けじと追いかける。滑るように飛び跳ね、僕の手をすり抜けていく。この間の狩りで見せた素早い動き。これが野山を走り回る獣人としてのリオナの本来の姿なのだなと得心した。無防備な笑顔がかわいらしかった。

 僕は笑った。

「リオナは今の笑顔が一番かわいいな」

 どうやらからかわれていることに気づいたらしい。ほっぺたを膨らませてこちらをにらむ。

「そういうエルリンはスケベ親父なのです」

 そう言って舌を出す。

「なんだとォ、誰が親父だーァ」

 僕は彼女を大げさに追い回した。

「捕まらないのです。エルリンはダメダメなのです」

 彼女は僕をからかうように尻尾を振って逃げ回る。

 僕たちは若干激しい追いかけっこを始めた。

 僕たちはずっと一緒なんだから、もっとお互いを知らなきゃいけないんだね。



 姉たちがその豊満なボディーをタオル一枚に隠して、いつの間にか部屋の隅からこちらを見ていた。

「仲がよろしいようで」

 僕とリオナはぐったりして居間のソファーに倒れ込んだ。

「鬼ごっこなら外でやりなさい」

 ヴァレンティーナ様にまで怒られた。

「まったく、ふたりとも子供なんだから」

 姉たちは風呂に戻っていった。

 僕たちは顔を見合わせた。

「子供だって」

 リオナが笑った。僕も笑った。

「リオナァ、あんたもお風呂入りなさい。いいお湯よ」

 脱衣所からヴァレンティーナ様の声が。

 僕は先ほどの彼女の無防備な姿を思い出して、あらわな姿を想像してしまった。

「やっぱりエルリンはスケベ親父なのです。ダメダメです!」

 僕の妄想に感づいたのか、そう吐き捨てると、リオナは小さな足で僕を蹴飛ばして脱衣所に駆けていった。


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