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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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銀色世界と籠る人々4

「何しに来た。受け渡しはまだ先だぞ」

 棟梁が通り過ぎた。

「ただの見学」

「内装はごちゃごちゃしているからな。見るだけ無駄だぞ」

「邪魔はしませんよ」

「で、感想は?」

「すっきりした」

「見たまんまじゃねーか」

「一番艇と比べると縦に長くなった気がする」

「高さは変わっとらんぞ。ドックの大きさは決まっているからな。ただ、キャビンが横に広がった分、以前より寸胴に見えるかも知れんな」

「充分広かったのに」

「オプション装備のためにブリッジ周りの骨格を強化する必要があってな。太っちまった」

「それでそのオプションは?」

「目下開発中だ。重量との兼ね合いでなかなかうまくいかんようだ」

「そうだラム付けてよ」

「馬鹿言うな。軽くするために骨格を制限してる船にそんなもん付けてどうすんだ。船体がもげるぞ」

 オプションの試作品が転がってる場所に案内された。全部木製の模型だった。

「これが追加装甲…… 確かにこれ左右に付けると相当重くなるよね」

「肺がもう一個必要になるね」

「この棘々は?」

「敵の体当たりを防ぐ物だ」

「装甲に施すならありだな。オプションにするもんじゃないだろ。空力的に却下だ」

「作る前に気付きそうだけどね」

 ロメオ君が小声で突っ込んだ。

「使えそうなのないわけ? これじゃ、ただ太っただけだよ」

「ラムってわけにはいかないが――」

 棟梁が幌をめくった。

「なっ?」

「でかいナイフだ」

「ラムの代わりだ。船の強度維持を考えて腕が付いている。必要以上の力が掛かると腕が折れて船体を守る仕組みだが、船体固定の武器の装備は禁止だからな」

「それを言ったら棘棘も駄目じゃないの?」

「あれはいいんじゃない。リベットと変わんないし」

「そうなの?」

「駄目かな?」


 外殻装甲は格好良さそうだけど、新型結界があるから不要だと却下された。

 基準がドラゴンのブレスを防げるかどうかであるから、やってみないと分からない部分が多いが、少なくとも逃げ足に問題を生じることになるので取りあえず諦めることにした。

 前回一番艇が持ち帰った情報を元に算出されているが、もっとおっかないドラゴンが他にもいるらしいので、保留しておく。新型結界の性能をまず試したいところだが、試せる相手といつ遭遇できることやら。既に一生分のドラゴンと遭遇しているわけだし。案外無用の長物になるかもしれない。

 武器も元々規制があるので、期待はしていなかったが、玉虫色のいい案は思いつかなかった。

 錨を振り回すとか、腕の先端にパイルを仕込むとか、腕を使う方法をいろいろ考えてみたが、ナガレのブリューナクの方がよっぽど有効だった。

 結局、僕たちの貧相な脳味噌では荷物運搬用のカーゴを外付けするぐらいしか思い浮かばなかった。物資輸送の仕事でもあれば活躍できるだろうが、僕としてはそんなことでこの船を使う気はない。

 太ったと言われると太ったと感じてしまって、せっかくの新造艇だというのに、とても残念な気持ちになる。

「頑丈になったんだからいいんじゃない?」

 ロメオ君がフォローする。

「凄いオプションないかな。魔力を吸収する盾とか、煙幕とか、粘着弾とか、武器が駄目なら戦況を優位にするような何か、こう…… ブレスを反射する超魔法障壁とか?」

 ふたりが僕の顔を見ながら固まった。

「あ、ごめん。何か言いすぎた?」

「それだーッ!」

「それだよ! それ! エルネストさん、それですよ!」

「何、超魔法?」

「よーし、光明が見えてきたぞ。これから作戦会議だ。お前ら適当に見たら帰れよ。もう俺の船を寸胴とか言わせねえぞ」

 言われたんだ…… 

 棟梁が年甲斐もなく跳ねてった。扉のところで振り向くと「やっぱり若は天才だぜ」そう言って出て行った。

 僕はロメオ君の顔を見た。

「何か言ったかな?」

「煙幕とか、粘着弾とか」

「…… 言った?」

「言った」

「天才かな?」

「どうだろ?」


 家に帰ると誰もいなかった。聞けば、例のクイーン部屋に行ったという。

 思わず感嘆の声が出る。

 関係者が全員休みだったから丁度よかったのか? 

「あ、マギーさんとロメオ君は置いてけぼりか?」

「マギーさんうちに来ましたよ。それで急きょ決まったみたいで」

 ロメオ君だけ置いてけぼりか。お詫びに今度ロメオ君とふたりで火蟻女王でも倒しに行くかな。

「ヘモジは?」

「ナーナ」

 さすがに一緒に行かなかったか。コタツでミカンを食べていた。

「ナーナナ」

 空になったミカンの籠を僕に差し出した。

「お代わり?」

「ナーナ」

 ヘモジは頷いた。ほんと果物とか好きだな。

「もうありませんよ」

「え?」

「一箱なかったっけ?」

「皆さんがいらしたので、お出ししたら」

「買ってこよう。いつものお店でいいのかな?」

「あ、はい。お願いできますか? アンジェラさんも留守なので」

「まさか」

「そのまさかです」

 一緒に狩りに行ったのかぁ……

「サエキさんは?」

「夕飯の買い出しに」

 僕はヘモジを肩に担いで家を出た。

 街道は温泉が流れているので雪がない。

 見上げる空は今日も灰色で雲が低い。

「また雪だな」

 濡れた道をピチャピチャ歩いていると、子供たちが空を飛んでいる光景を見かけた。

 フライングボードを楽しんでいるようだった。

 その奥では今日もソリが宙を舞っている。

「ナーナ」

「あれで遊んだことないのか?」

「ナ」

「そっか、遊んでいくか?」

「ナナ、ナーナ」

「そうだな。家にエミリーとフィデリオだけじゃ、心配だもんな」

「ナナ」

 中央広場の食料市場で果物を探す。夕飯の買い出しでごった返していた。

「ナーナ」

 早速見つけたようだ。ヘモジが僕の腕のなかで考え込んでいる。

「ナ…… ナ……」

 ミカンを取っ替え引っ替え。

「ナナ」

 この店のは駄目だと行って別の店に行けという。

 何件も梯子するうちに市場の一番奥にある、余り人気のない店までやって来た。

「ナーナ! ナナナナナナン、ナー」

 何言ってるか分からん。

「ナーナ!」

「全部買う?」

「ナ、ナーナ」

「これ美味しい?」

「ナナ」

「当たり?」

「ナナッ!」

「店主、ミカン、じゃなかったマンダリノ全部くれ」

 店主がぽかんとしていた。

「全部ですか? お客さん」

「お客さんじゃ、ねーよ。父ちゃん。若様だよ」

 幼い少年が出てきた。

「ええ? 坊ちゃんが、若様ですかい?」

「なんか、そう呼ばれてるみたいだね」

「あの? ほんとによろしいので?」

「こいつがここのマンダリノが一番美味しいって言うから」

「うちのマンダリノは本場から取り寄せた品なんだ。うちの母ちゃんの実家がマンダリノの農家なんだ。うちのマンダリノはすっげー味が濃くて、酸っぱくて甘いんだ」

 ヘモジを信じて全部買った。荷車いっぱいのミカンもうちの保管庫なら余裕だ。

 代金を支払って、荷車ごと我が家に運んで貰った。

 ヘモジは狂喜乱舞。僕は、アンジェラさんが帰ってくる前に証拠隠滅すべく、エミリーを泣き落として、全部のミカンを保管庫にしまって貰った。

「これで、一年は安泰だ?」

「ナーナ」

 早速試食することにした。

「美味しい!」

 エミリーも買い物から帰ったサエキさんも食べて驚いた。もちろん僕も余りの美味しさにほっぺたが落ちそうになった。

「ナーナナー」

 ヘモジが自信たっぷりだ。

 でも、これだけ美味しいと、ヘモジには悪いがすぐなくなる気がする。

 みんなが帰ってくるまでの間、僕たちは暖かい部屋のコタツのなかでミカンを食べて過ごした。

「はーっ、迷宮で金塊あさりするより幸せだ」

「ナーナー」

 日暮れと共に戻って来たみんなも、首尾は上々だったらしく顔がすっかりにやけていた。

 姉さんたちの休暇も終わり、夕食を済ませると館に戻っていった。

 僕とヘモジは額を近づけて呟いた。

「やったな。姉さんたちには見つからなかったぞ」

「ナーナ」

 ほっとしたのも束の間、アンジェラさんに保管庫のなかを見られて、きつーい生活的指導を受けた。

 

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