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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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銀色世界と籠る人々2

 ゼンキチ爺さんは離れで長老たちと酒をかっくらっていたので、参加せずに傍観するらしい。

 リオナも長老と一緒に今日のところは大人しく見学するようだ。どうやら睡魔がすぐそこまで来ているらしい。

 道場は獣人たちが暴れ回ってもビクともしないように恐ろしく頑丈に、そして広くできていた。そこで全員が準備運動をする。

「どうせなら朝練にすればいいのに」

「朝は朝だ。第一、朝はここにお弟子さんが大勢来るだろ?」

「ゼンキチ殿ともお手合わせ願いたかったのですが」

「知っておれば飲まなかったのだがな」

「爺さん、万能薬あるぞ」

 僕は小声で言った。

「馬鹿言え、せっかく酔ったのに勿体ない」

 準備運動が終ると早速手合わせだ。と思いきや、公式戦仕様で試合をやろうということになった。

 四人なので総当たり戦に決まった。相手に攻撃を与えるスキルも魔法も禁止。ただし付与魔法など自分に掛ける分には制限はなし。『ステップ』なども問題なく使える。

 本戦では各種結界も『結界破り』も問題ないのだが、あくまで訓練なので使用禁止だ。

 防具は共通だが、今日のところはいつもの個人装備だ。武器だけは只の付与なし剣だ。道場にある刃引いた剣を拝借する。それと万が一に備えて、完全回復薬も用意しておく。


 一回戦は僕とヴァレンティーナ様だ。

 いきなり本命登場。

 道場の中央で構える。審判はエンリエッタさんである。

 開始の合図と共にヴァレンティーナ様は踏み込んできた。

 構えるより先に放たれた剣はリオナの剣に似て、低い位置から突き上げるものだった。完全な奇襲であったが、長年の手合わせでこういう人だと知っていれば、かわせないこともない。

 僕は半身を捻ってやり過ごす。

 突いた勢いのまま薙ぎに来るので、その前にカウンターを当てる。

 ヴァレンティーナ様が『ステップ』を踏んで間合いを取る。

 僕は宙を薙ぎ払う。するとそこにヴァレンティーナ様が突っ込んでくる。僕の剣が喉当てに触れる。

 今までとまるで違う速さで突きが繰り出された。

 僕は後一歩のところで距離を取る。

 惜しかった。

 でもあのまま踏み込んでいたらこっちが串刺しだ。

「よく避けたわね。少しは成長したのかしら?」

 今まで何度引っかかったことか。

「おかげさまで」

 目だけは肥えてきている。今まで勘で避けていたものが、目で追える意味は大きい。

 問題は肉体の方が反応しきれないことだ。

 日頃鍛えているとは言え、この人たちに追い付くのは難しい。

 ヴァレンティーナ様の動きが一段上がった。何か身体強化の付与を掛けたようだ。

 強烈な踏み込みと共に剣先が喉元を狙ってくる。

 切っ先をそらせて一撃を弾く。

 反撃しようにも彼女はいない。

 有り得ない角度から二撃目が飛んでくる。ふたりを相手にしているような錯覚を覚える。

 でもその動きはでかい獲物相手にリオナがよくやる動きに似ている。二刀流な分リオナの方が質が悪い。

 手数は多くても、一度に狙える箇所は一箇所のみ。そう思えば多少気分は楽になる。

 握る剣は一本のみだ。

 見えている間は次の一撃はない。

 身体が動かない分予測を早めるんだ。普段の癖、攻撃パターン。肩の動き。視線の動き。

 後手後手だが、付いていけている。今までなら、とうにやり込められている。

 それでも避けるので精一杯でこちらから返すことはできない。

 こちらも現状打開のため梃子入れをする。

『千変万化』

 まずは速度アップ。

 カウンターを当てる。成功した!

 ヴァレンティーナ様の剣が跳ね上がった。

 やれる!

 次の瞬間、掌底が僕の顎に入った。

 赤い唇が笑った。

 誘ってたのか…… 

 頭を揺らされ、一瞬動けなくなった。

「腕は二本ある。油断したわね」

 初戦を落とした。

「反則だろ?」

「公式戦では『あり』よ。肘打ち、頭突き、体当たり、蹴りに関節技。スキルと魔法以外なら、なんでもあり。掌底なんて易しいものよ」

「最初に言ってよ」

「必要ないと思っていたのよ」

「そういう意味じゃ、使わせた弟君の勝ちですね。成長したと言うことでしょうか?」

 審判役のエンリエッタさんが言った。


 二回戦、エンリエッタさんとサリーさんの戦いはエンリエッタさんの勝利に終った。

「サリーさんの方が優勢だったのに」

「エンリエッタは天才よ。彼女が弱いと感じているなら既に術中に嵌まっていると言うことよ」

 ヴァレンティーナ様が笑った。


 三回戦は僕とサリーさんだ。

 僕は正直サリーさんの剣が一番やりにくい。特に剣の軌道を簡単に変えてくるところなんか普通じゃない。どうやれば可能なのか? 手首の返しだけではない。身体全体の動きだ。

 決して大柄ではない彼女が大の男たちをのしてきた業だ。

 当然僕のガードはざるだった。

 受けようにも切っ先は僕のガードをすり抜けてくる。

 付与してかわすのがやっとだった。

 連撃を食らう度に僕は追い込まれていく。

 エンリエッタさんが強いということが間接的にわかる。これをすべて平然と受けきったのだから。

 剣の軌跡をどう変えられても受けきれるように。そう思いながら剣を交差させるのだが、いくらやってもすり抜けてくる。それにくわえて振りの緩急。タイミングをずらされると、受けきれるものも受けきれない。

 僕は剣をはじき飛ばされて、喉元に切っ先を突きつけられた。

「ほんとに相性悪いわね」

 ヴァレンティーナ様も呆れ気味だ。

「一生頑張っても勝てない気がする」

「うちのナンバーツーにそう簡単に勝たれても困るけどね」

 四回戦はヴァレンティーナ様とエンリエッタさんだ。

 でもヴァレンティーナ様の不戦勝になった。ふたりが対戦すると朝まで終らないからだそうだ。

 というわけで休む間もなくエンリエッタ戦である。


 エンリエッタさんの剣は一見優雅に見える。素直で基本に忠実なお手本のような剣だ。

 でも対戦すると分かる。彼女の剣の怖さを。

 伸びきったはずの剣先が更に押してくるのだ。

 いつも通りの回避をすれば、切っ先に突っ込むことになる。かと思えば、切っ先をすぐに引いて、こちらの動きが止まったところに二撃目を叩き込む。それが変則的に来るのだ。

 それにしても隙がない。どんなに揺さぶってもたじろぐことがない。

 恐らく彼女の武器は攻撃スキルではなく、防御スキルだ。

 常時発動型のスキルだろうか? どんなスキルだろう? 

 伸びのある一撃が僕の喉元を目掛けてくる。

 僕は体を交わすと、剣をかぶせ、反撃を防ぐ。

 鍔迫り合いになる。力で負けるわけにはいかないが、引かれたとき体勢を崩すわけにもいかない。重心を維持しながら押し返す。

 離れ際が勝負だ。

「わたしも後学のために」

 突然、彼女は身を引いた。僕は前のめりになるのをこらえた。引き際の一撃を防いで反撃――

 次の瞬間、仰向けに倒されていた。

「そこまで!」

 ヴァレンティーナ様が判定する。

 今の何?

 呆然と道場の天井を見上げる。

「魔物はこういう駆け引きはしてこないものね」

「剣で勝負のはずなのに、ずるくない?」

「引っかかるお前が悪い」

 サリーさんに小突かれる。

「どうやら課題が見えてきましたね」

「剣は及第点を上げるとしましょうか。エンリエッタと鍔迫り合いまで持ち込めただけでもよしとしましょう。でも、それ以外はまるで駄目ね。実戦はもっと汚いわよ」

 実戦ね……

「さあ、汗を掻いたことだし、一風呂浴びるわよ」

 リオナが起きる。

「…… 終ったですか?」

「これからお風呂よ。あんたも行く?」

「寝るのです」

 長老たちもすっかりいびきを掻いている。

「離れに寝かせておこう」

 長老たちを離れの布団まで運ぶ。女性陣はリオナだけを残して先に引き上げた。

 僕は残ったリオナを背負う。

「じゃあ、爺さんも風邪引くなよ」

「エルネスト」

「はい?」

「戦いは自分のペースでするもんじゃ」

 そうできなかったことこそがすべての敗因。つまり小手先に負けたんじゃない。完敗だったということだ。


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