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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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銀色世界と籠る人々1

「こいつはオクタヴィアよ。オ、ク、タ、――」

 着替えて戻って来たナガレが赤ん坊に名前を教え始めた。

 どうやら召喚獣は世話好きのようだ。ふたり揃ってフィデリオに付きっきりである。

 意外な発見であった。

「エルネスト、持ってきたか?」

 姉さんがスルメをしゃぶりながらサンダーバードの羽根を要求してきた。

 嗚呼ッ! ちょっと、姉さん!

「そのスルメ!」

「失敬した」

 僕が定期便のついでに送ってくれるように頼んでおいたスルメ……

「なんでだよ。まだ僕だって食べてないのに!」

「土産だ」

 そう言ってテーブルに置かれた小瓶を僕の前に差し出した。

「何これ?」

 なかを覗くとそこには入っていた物は……

「特製マヨネーズだ」

 こ、これが?

 おおおおっ! 禁断の異世界レシピ! 卵と酢と植物油と塩、胡椒。材料は分かっているけど、僕が作るといつも分離して、うまく混ざらない禁断のレシピ。

「いらないならいいけど」

「頂きます!」

「ホタテも酒のつまみに貰ったわよ」

「うんにゃーぁあああ?」

 奇声を上げてオクタヴィアがテーブルに飛び乗って、ゴンッ! 抗議する。

 テーブルの角で向こう脛を打ったようだ。

「オクタヴィアのホタテ。ホタテ……」

 足を抱えて、涙でうるうるしている。

 運悪く、姉さんたちがいるときに定期便が送られてきたようである。

「もしかして、魚も食べちゃいけなかったのかしら?」

 ヴァレンティーナ様が苦笑いして言った。

 今度はナガレが隣りの部屋から飛んできた。

「食べた?」

「ええ、美味しかったわよ」

 ナガレが膝から崩れ落ちた。大袈裟だな。

「大丈夫よ。まだまだいっぱいあるから」

 アンジェラさんも慰めながら呆れている。

「ホタテ、ホタテも?」

 オクタヴィアがアンジェラさんの目の前で問い詰める。

 オクタヴィア、テーブルに載るなよ。

 夕飯には早かったが、「どうしても今、食べたい」と言い張るふたりのために焼き魚とホタテが用意された。

「そう言えば、実家から醤油来てない?」

「しょうゆ? 食材ですか? 届いてませんけど」

 エミリーが僕たちのためにチーズと腸詰めの載った皿を運んできた。

「何、あんた醤油を頼んだの?」

 姉さんが言った。

「うん、見ての通り、魚好きが増えたからね。どうかなと思って」

「忘れてるんじゃない?」

 実家には米の苗を届けたばかりだった。

 そうだよ。覚えていたらあのとき渡してくれたんじゃないだろうか? もう一度頼みに行ってくるか。

 そのとき玄関のノッカーが叩かれた。

 扉を開けると壺を背負った母さんがいた。

「噂をすればなんとやらね」

 姉さんが当て擦る。

 流石に門外不出の一品なので母さんが直々に運んできたようである。

「あら、皆さんお揃いで。あら? 珍しいわね。召喚獣なんて」

 部屋に入って早々、ナガレとヘモジを見て言った。

「本当に珍しい……」

 母さんにはナガレの正体が見えているようだった。

「お姉ちゃんもいるのね。ちょうどよかったわ」

 アンジェラさんと嫌がる姉さんに醤油の管理方法を来て早々、レクチャーし始めた。


 その日の夕食は絶品だった。

 特に生きのいい高級魚の刺身はえも言われぬ美味しさだった。

 醤油を付けてパクリ。

 美味しい……

「美味しいのです」

 肉にしか興味のないリオナも絶賛であった。

 食後のおやつに、スルメを炙り、裂いたものに醤油を垂らしマヨネーズを付けて食べた。

 これまた美味しすぎる…… 

 究極のコラボレーションだ。

「猫には余り与えては駄目らしいわよ」と母さんが控えさせた。人でも食べ過ぎると腹を壊すらしいので、量と塩気には気を付けないといけない。

 でもアイシャさんは「猫又だからいいんじゃないか?」と言って気楽に許した。

「薬もあるしの」

 繰り返します。万能薬は胃腸薬でも、暴飲暴食をサポートする特効薬でもありません!

「美味しい……」

 オクタヴィアがスルメを天に掲げて、また何やら感動している。

「神様の食べ物……」

 醤油とマヨネーズの付いたスルメをクッキー缶に入れようとしたので、みんなが一斉に止めに入った。

 さすがに起こりうる不幸を無視できる者はいなかった。

 余りの反対の多さにオクタヴィアは首を傾げた。

「こんなに美味しいのに……」

 そういう意味でみんな拒んでるわけじゃないからな!


 ヴァレンティーナ様たちが、話があるようで、みんなと席を異にした。

「要件だけ済ませるわよ。この後のこともあるからね」

 この後? 

 なぜか全員が僕を見る。

「まず、わたしから」

 エンリエッタさんが挙手する。

「難民の第一陣は予定通り、北の砦を通過しました。数は約五十。荷車は五つ。難民用の特別手形を持っていたので全員、通過させたとのこと。健康状態ですが、疲労が極限に達しています。特に子供たちは」

「食事は?」

「配給しています」

「薬の使用許可は出したわよね?」

「高価な物だという意識が働いているようで――」

「勘ぐられて、手を付けて貰えないか」

「『高価な薬の代金をネタにまた奴隷のように働かされては堪らない』ですか?」

「エルネストは意見あるかしら?」

 いきなりかよ。

「護衛を獣人の部隊に任せればいいんじゃないでしょうか? 兵隊が怖けりゃ、村の獣人たちを案内役にでもすれば多少は違うんじゃないですか?」

「既に混成部隊にはしているが、案内役か……」

 エンリエッタさんが考え込んだ。

「要所要所で説明するより、旅の合間に町の情報を事前に提供するのも悪くありませんね」

「明日、長老と相談してみましょうか」

「町の受け入れ体勢ですが」

 サリーさんの番である。

「受け入れは南門で行なうことに致しました。そのまま順路にしたがって貰い、獣人エリアに入って貰おうかと考えています。案内役を同行させてもらえるなら、こちらも誘導係を減らせますので、案内役の件、賛同させて頂きます」

「入植予定地はどうなっているかしら?」

「南東側の仮城壁は既に完成している。区画整備もほぼ完了した。ただ、ヴァレンティーナには話したが、ドワーフが鉱脈を見つけてな」

「町中にですか?」

 エンリエッタさんが驚いている。

 サリーさんは町の守備隊の長なので情報は既に届いていた。

「試掘段階なのでまだ公にできないが、ドワーフのすることだ、間違いないと思う」

「では、ドワーフも町に?」

「いや、ドワーフの鍛冶屋が自分たちが打つ分の鉱石を自前で発掘したいというだけの話だ。弟子数人と地下で暮らしたいそうなので認めてやった」

「すいません、忙しいときに」

 僕はエンリエッタさんに頭を下げた。

「いや、優秀な鍛冶屋は町の財産だ」

「優秀というなら飛びきりだ。ゴリアテのお墨付きだからな」

「報告は以上かしら? 何もないならお開きにしましょう」

「例の件以外には」と僕以外の全員が答えた。

 例の件?

 僕がヴァレンティーナ様を見たら「内緒」と言われた。

 何かを企んでる顔だよね。

「それじゃ、ひさしぶりにやるわよ!」

 ヴァレンティーナ様がノリノリである。

「何を?」

「身体は動かさないと鈍るからな。レジーナは魔法使いだから相手してくれんのでな」

「まさか……」

「道場借りるぞ」

 やっぱり!

「久しぶりにしごいてやろう」

「アルガス以来ですね。どれくらい腕を上げたか見せて貰いますよ」

「楽しみだ」

「頑張れ、弟よ」

 かくして元近衛騎士団精鋭によるレクリエーションが始まった。


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