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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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エルーダ迷宮迷走中(サンダーバード編)33

 彼らは大蛇を諦め、僕たちの後に続いた。

 突然、リオナが空に向かって発砲した。

 サンダーバードの塊が降ってきて、山肌に激突、そのまま谷底に転がり落ちていった。

 今の一撃なら大蛇も落せたろうに。

 先頭でナガレと腕自慢をしているようだ。

「次はわたしの番だからね」

 それから散発的な戦闘を何度か繰り返し、ようやく僕たちは出口に辿り着くことができた。

 いろいろあったが予定通りの到着になった。


 脱出ゲートを出ると、地上では別の問題が持ち上がっていた。

 ゲート広場でマリアさんが僕たちを待ち構えていた。

「ちょっと事情を聞きたいんだけど、いいかしら?」

 なんだろう?

 僕たちは顔を見合わせた。

 それは僕たちが転送した千年大蛇のことだった。なんと、この迷宮にはいないはずの魔物だったらしい。

「新発見と言うことね」

 僕たちは遭遇した場所を吐かされた。

「三十階層。コース中頃にある岩場の一番深い場所。進路から見て左手。数は四。うち一匹は討伐」

 隠す気もないので正直に話した。

 僕たちはギルドによる確認が取れるまで、食堂で昼食に有り付くことにした。

 友人一行もことの経緯を見届けたいらしく隣の席を占領した。

 リオナの食いっぷりに驚いていた。

 一方、リオナとの約束でサイコロステーキに有り付いたヘモジは何度も「これがサイコロステーキか?」と僕やナガレに確認を取った。

「ナーナ」

 釈然としない様子でサイコロ肉を口に放り込む。

「足りなきゃ好きなもん頼んでいいぞ」と言ったら、ヘモジは果物の盛り合せを選んだ。どうやら肉より果物の方が好きらしかった。

 出された盛り合わせを嬉しそうに食べる。

「あんたたちって一体何なの?」

 ファビオラが、ロザリアに尋ねた。

「冒険者よ、変わってるけどね」

 そこに他の冒険者たちが現れた。僕たちより上位ランクのベテランの人たちだった。

「またやったな。お前ら」

 おっさんが僕たちのテーブルを覗き込んだ。

「確認終ったぞ。新情報確定だ」

 別のおっさんがアイシャさんにウィンクしながら言った。

 どうやら、情報確認をさせられていたベテランパーティーらしい。

 これで『エルーダ迷宮洞窟マップ・下巻』の地下三十階の情報欄に千年大蛇の情報が追記されることになる。

「何よ、もう始めているの?」

 マリアさんだ。

「スポンサーがやっと来たか」

 マリアさんが店主に二言三言話し掛ける。

 そして宴会の始まりである。

 只酒が飲めるとあって、ゾロゾロと冒険者たちが集まってくる。昼食時を過ぎて、まだまだ客でいっぱいの食堂に、更なる混沌を運んでくる。

 これも新情報を冒険者たちに拡散、流布する意味もあるので、悪いことではない。

「新発見に乾杯ーっ!」

 要は他人の金で飲めればご機嫌なのである。

 今から酒代は全部ギルドの奢り、後は店の在庫との勝負である。

 友人たちは呆然としている。

「えー、ギルドを代表しまして、この度の――」

 新情報に払われる報酬は、階層プラス重要度なので、金貨三十枚プラス五十枚ということになった。

「そういやあの辺り、たまに冒険者が消えることがあったんだよな」

「そうだ、俺がガキの頃、いなくなった連中がいたぜ。そうか、千年大蛇か…… ぬかったぜ」

「あんな隅っこ誰が気にする?」

「行かなくたって、探知すりゃ分かるだろ?」

「千年大蛇だぜ? おめえじゃ隣りにいたって分からねえよ」

 酒を飲みながら、おっさん連中が上機嫌で騒ぎまくる。

 喧噪は食堂の外まで続いた。

 やがて、店主の泣きが入った。

「これが最後の酒樽だ。飲んでけ泥棒ーっ」

 最後のいっぱいだけはその場にいる全員に配られた。そして酒樽はすっからかんに。

 その場が神妙になった。

 ひとりが杯を掲げた。

「『銀花の紋章団』に!」

 全員が献杯して、一気に飲み干すと、何事もなかったように引けていった。

「あんた『銀花の紋章団』だったの?」

 友人がロザリアに聞いてくる。

「そうよ。知らなかった?」

「知らないわよ! なんで? どうやって入ったの?」

 まだまだ友人との会話は終りそうにないので、僕たちはロザリアを置いて先に行くことにした。

 酒が飲めないリオナたちはすっかり退屈していたので、鎖から解き放たれた犬のように、駆け足で解体屋に飛んでった。

 今日も肉のブロックを抱えての帰還である。もちろん頼まれた羽根も忘れず持ち帰る。


 家に戻るといきなり玄関口でフィデリオが出迎えた。

「びっくりした」

 自分の部屋から抜け出してきたのか?

「フィデリオ、ただいまなのです?」

「リーナー」

 おおっ、しゃべった。いつの間に。

 いつも、こちら側に出さないように、仕事とプライベートを厳格に区別していたアンジェラさんが、今日に限ってどうしたのだろう?

 そう思って、なかに入ると原因が食堂で酒をかっ食らっていた。

 姉さんたちである。

 ヴァレンティーナ様とエンリエッタさんとサリーさんがいっしょだった。

「すまないね。みんなが見たいというものだから」

 最近はいはいするようになったという話を切っ掛けに「同居人のくせに遠慮するな、冷たいぞ」という話になって、フィデリオのはいはいのお披露目になったようである。

 聞くところによると四人揃って休みが取れたようで、珍しく女子会になったらしい。

 問題山積で遠出もできず、結局、うちに遊びに来ることで、心機一転図る気らしい。既に部屋割りも済んでいて、今夜はこちらに泊まるらしい。

 リオナが新しい住人のヘモジを紹介した。

「まさかこれも擬人化したのか?」

 サリーさんが呆れた。

 ちょうどいいので僕はエンリエッタさんに僕の部屋の内装をどうにかして貰えないか聞いてみた。するとあっさり引き受けてくれて、明日には知り合いの業者を寄越すと言ってくれた。

「なんでわたしたちに頼まないのかしら?」と姉さんとヴァレンティーナ様が文句を言うので、感性の違いだと切り捨てておいた。

 フィデリオが物珍しそうに部屋中を探検する。

 そしてヘモジを捕捉した。

「あーうー」

 フィデリオがヘモジを頭からがぶりといきそうになったので、みんなが慌てた。ヘモジは体をかわして自力で逃げることに成功した。

「ナーナッ!」

 代わりに捕まったのはオクタヴィアである。尻尾を掴まれ騒いでいる。

 ヘモジがフィデリオにチョップする。

 おいッ!

 手加減はしているようだ。

「ナナナナナ。ナナナ、ナナナナ、ナナナナナ? ナーナ?」

 どうやら説教しているらしい。が、何言ってるかさっぱり分からん。

 僕に向かって話し掛けてくるときはなんとなく分かるのだけれど、第三者との会話となるとてんで分からなくなるのである。念話の類いだろうと思うのだが、通訳のナガレはリオナの部屋でリオナと一緒にお着替え中である。

「あー……」

 涎を垂らしてヘモジを真剣に見つめている。

 ヘモジの説教を興味津々聞いていたかと思うと突然、頷いた。

「ナーナ」

「あーあ」

 通じるものがあったようである。


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