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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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エルーダ迷宮迷走中(サンダーバード編)32

 上空から陰が猛烈な勢いで接近してくる。

 リオナもナガレも先制する気で待ち構える。

 突然、影が二つに別れた。

「狙えないのです!」

 質の悪いことに一匹が盾になり、二匹目がその影に隠れていた。

「まとめて落とすしかない!」

 ナガレが攻撃を加える。

 前方に命中するも、後続は逃げおおせた。

「早すぎる!」

 見失った。途端に雷撃が。

 視界が完全に奪われた。

 サンダーバードの放った稲妻は結界が弾き返したが、まずいことになった。

 後続が遅れていたのだ。

 フルプレートのふたりである。ヘルムを脱ぎ、すっかり休憩モードに入っていたふたりが、僕の想定していた範囲の遙か後方に脱落していたのだ。

 消えたサンダーバードの気配を急いで探る。見つけたそれは足元を旋回していた。

 目標はやはり離れているふたりだった。

 ふたりは雷を浴びずに済んだようだが、山肌を滑るように接近してくる敵には気付いていないだろう。

 今すぐ助けに行きたいがこちらはこちらで動けない。

 撃ち落とした一匹が突っ込んでくるのだ。

 衝撃波がサンダーバードを襲った。落下ポイントがずれた。

 アイシャさんと目が合う。アイシャさんの瞳が「行け」と言う。

 僕は『千変万化』を使い、更に『ステップ』を繰り返して、最後尾のふたりを結界で覆える距離まで移動する。そしてかろうじてサンダーバードと従者ふたりの間に結界を割り込ませることに成功した。

 サンダーバードは見えない結界に弾かれ、宙に投げ出された。

 従者のふたりは突然の敵の出現に驚き、こちらに逃げてくる。

「邪魔だ!」

 投げられたかのように宙で一回転したサンダーバードに銃弾をお見舞いしようとするが、従者ふたりが壁を作る。従者に当たったらと思うと発射できない。

 どちらでもいいからしゃがむとかコースを外れるとか、察してくれ!

 サンダーバードが持ち直して、雷を放とうと放電している。

「ナーナーナーッ!」

 ヘモジの声がした。

「あうっ!」

 いきなり後ろから頭を蹴り飛ばされた。

 ヘモジは僕の頭を踏み台にして宙に舞った。そしてハンマーを振り抜いた。

 僕は前方にずっこけた。

 サンダーバードはミョルニルと地面に挟まれ押しつぶされた。

 倒れ込む僕の目の前で着地を見事に決めるヘモジの手にミョルニルが戻ってくる。

「ナーナナー」

 勝ちどきを上げる。

 主の頭を蹴り飛ばすとは……

「褒めて」と言わんばかりに嬉しそうに振り返るヘモジに怒る気も失せる。

「助かった、ヘモジ」

 僕はヘモジを抱き抱え、肩に載せると頭を撫でてやった。

 オクタヴィアがリュックから出てきてこちらも僕の肩に乗る。

「食べる?」

 オクタヴィアががんばったヘモジにクッキーを進呈する。

 ふたりは僕の肩の上でクッキーをモシャモシャ食べ始める。

 幸い、ヘモジの攻撃は先方には見えていなかった。落下したサンダーバードが巻き上げた砂塵が目眩ましになったようだ。従者のふたりも逃走に必死で背中を向けていたので、ちっこいハンマーが巨大化するところは見ていなかった。

 シリアスがコメディーにならなくて済んだ。


 魔石を回収する間、離れていたふたりはファビオラ嬢に灸を据えられ、残りは一息ついていた。

 質問攻めにされ、誰より疲労困憊しているロメオ君がこちらに助けを求めてくるが、こちらはヘモジに蹴られて、それどころではない。鞭打ちだよ。首が痛い。

 こっそり万能薬を舐める。

「他人の話など聞いても慰めにもならんぞ。実践しなければ意味はない。自分で探求する気のない奴は魔法使いになるべくではないぞ。半端者は死ぬだけじゃ」

 アイシャさんがロメオ君に救いの手を差し伸べた。

 弟は怒られ憮然としている。貴族のぼんぼんは怒られることに慣れていないからな。

 ロメオ君はしゃべりすぎて喉が渇いたのか、水筒をがぶ飲みする。

 ロザリアが小声でロメオ君に謝っている。

「グダグダだな」

「レベルの差がありすぎるのよ。一緒にいたら足を引っ張られまくるわよ」

 ナガレがヘモジの持ってるクッキーを奪いに来た。

「敵の位置も把握できていないなんて」

「普通こんなもんじゃないの?」

「ひとりぐらい、気付きなさいよって話よ」

 そちらの探索係は誰かと尋ねたら、なんと弟君だと言われた。

 思わずナガレと一緒に天を仰いだ。

 彼だけが『魔力探知』スキルを持っていたらしい。

 まあ、探索スキルがなくても遭遇戦を勝ち続ければいいだけだけどね。博打もいいところだ。

 ファビオラ嬢の回復魔法のおかげでなんとかなっているのだろう。

「ちょっとあんた、今の状況分かっているの?」

 ナガレが弟を問い詰めた。

 すると彼は「俺はそっちの魔法使いと大事な話をしてたんだ。どうせそっちの誰かがやってたんだろう?」という答えが返ってきた。

 ナガレの拳が、と思ったら、姉の拳が振ってきた。

「あんたのせいでふたりが死にかけたのよ! 謝りなさい!」

「なんでだよ!」

 リーダーが事実上不在なのが不味い。本来、経験値の高い従者の誰かが指揮すべきだろう。身分が邪魔をしているのか……

 肝心の姉は博愛主義者だし、弟は他力本願と来ている。

「新手なのです」

 リオナの声にオクタヴィアが反応する。クッキー缶を僕のリュックにしまう。

 僕がリュックを背負うと、肩に飛び乗り、リュックのなかに消える。

 ヘモジがずっと上を見ている。

「ナーナ」

 僕はヘモジを抱えると肩に載せた。ヘモジはすぐに足を投げ出す。

 僕も戦闘中なんですけどね。おふたりさん。荷物持ちか何かと勘違いしてないか?

「ナー」

 ヘモジが空を見上げ、追尾している。

 雲間に影が見え隠れする。

 弟君はキョロキョロするだけで、まだ確認できないでいる。

 あと半分距離を詰めないと駄目だろう。

 流石に盾持ちは今回しっかり準備している。

 僕のテリトリーじゃ、ほとんど意味ないけどね。

 僕たちは上空を警戒しながら、岩場に入る。

 おや、別の反応がある。

 僕は目をこらした。


『千年大蛇、レベル五十、オス』


 ほんとに? あの千年大蛇のしかもレベル五十? 以前、アルガスにいた頃、リオナと仕留めた野生のそれはレベル三十でも強敵だった。

『森の暗殺者』としての隠遁能力は半端ではない。と言いながら既に見つけてるのだが。自分の成長を噛みしめる。

「気を付けろ、千年大蛇がいるぞ」

 僕が声を掛けると、こちらの全員の顔色が変わる。だが、あちらのパーティーは千年大蛇を知らないらしい。聖都から来たのならもっともだが。

 ロメオ君がマップ情報を確かめる。

「載ってないよ」

「売れば金貨七十枚だからな。知っている奴らは教えないだろ」

「美味しいのです」

 金貨七十枚と聞いて、お友達のパーティーは色めきだった。

「岩場の奥だからこのまま素通りする」

 僕がそう言うと猛反発を食らった。なんで大物を逃すのかと。

 僕は言った。

「あんたたちがいるからだ」と。

 弟は猛烈に食い下がってきた。

 だから僕は繰り返し言った。

「ここから獲物が見えるか?」

「見える人手を上げて」

 ナガレが言った。

 うちのパーティーではロメオ君とロザリアを除いて全員が手を上げた。オクタヴィアもヘモジもだ。

 一方、弟君のパーティーは、本人を含め誰ひとり、捕らえられてはいなかった。

「お前ら全員で、俺たちを担ごうってんだな!」

 自分の能力のなさを棚に上げて、言ってくれる。

「エルリンやるのです」

 やるのかよ。

「ここからだと狙えないのです」

 リオナのリクエストにお応えして足場を急きょこしらえる。

 リオナの足元がせり上がる。

 一行は驚いて見つめる。

 誰が魔法を使ったのかすら分かっていないようだ。リオナが使ったように見えたかも知れない。

 リオナは銃を放った。一撃だけかと思ったら、左右で連射だ。

 仕留められなかった?

「硬いのです。降参なのです」

 スキルも使わないで、わざとか!

 千年大蛇が接近してくる。

「ロメオ君」

「大丈夫、見えてるよ」

 魔法による精密射撃ならロメオ君の右に出る者はいない。動きの速い敵にはロメオ君だ。

 ロメオ君が氷魔法を放った。

 途端に凍り付いた巨大な蛇が眼前に現れる。大口を上げて今にも、見えていない弟君一行を丸呑みにしようとしていた。

「全員死亡だな」


 僕たちは心臓をくりぬき、名札をつけて解体屋にそれを転送する。

「まだ三匹ほどいるぞ。獲りたきゃどうぞ」

 弟君はもう何も言わなかった。

 怖いという感情が全身を駆け巡っていることだろう。

 付き合いきれないので僕たちは先を行くことにした。


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