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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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エルーダ迷宮迷走中(サンダーバード編)31

 地下三十階である。

 そこはかつてロック鳥と対戦した景色に似ていた。どこまでも続く山の稜線が僕たちの進むコースだ。

 見晴らしは僕たちにとっても敵にとっても最高だった。

 隠れる場所は飛び地のようにある小さな岩場や森だけだ。どう考えても罠にしか見えない。

 遠くに同じ通過目的だろう、パーティーが一組先行していた。

 立地上、今回も獲物の回収は難しい。倒しても谷底一直線だ。

 只、今回は回収する物がある。


『依頼レベル、B。依頼品、雷鳥の尾羽根。数、八。期日、なし。場所、エルーダ迷宮洞窟。報酬依頼料、銀貨八十枚から、全額後払い。依頼報告先、冒険者ギルドエルーダ出張所』


 魔石にしたときの値段と変わらないのだが。うまくすれば収入が二倍になるかもしれない。

 今の僕たちに小銭稼ぎは無用なので、面倒なら素通りするだけでもいいかなと思っていたのだが、先日姉たちに話したのが不味かった。贈答用に獲ってきてくれということになってしまったのだ。

 重くはないのだが、かさばりそうだった。

 だから手に入れ次第、修道院送りにする予定である。


 矢羽根の最高級品は尾羽の一番外側で、雷鳥のものはたった一本で銀貨五十枚にもなるのである。

 サンダーバードの羽根では「バリスタで射るのか?」というぐらいでかい矢になってしまうため、実用性皆無なのだが、貴族の贈答用として人気があったりするのである。

『浮遊魔法陣』と交換なら割のいい仕事である。


「発見!」

 標高がある地形なので雲の位置が低いのであるが、サンダーバードはその上にいた。

 肉眼では捕らえられない。

 見えたときには、攻撃を食らっているという寸法だ。

 空に雷鳴が轟いた。

 稲妻が轟音と共に目の前に落ちる。

「うわぁあ!」

 全員が目を背ける。普通なら命中しなくてもこの距離である。地面を這ってきた雷に打たれて痛い目にあうはずだが、こちらは用意万端だ。

 僕の結界がすべてを弾いている。仮に地中をすり抜けても、全員が耐魔防御の装備を付けているのでダメージは小さいはずだ。オクタヴィアも僕のリュックのなかに待避しているし、うちの召喚獣も気にしてはいない。

 サンダーバードは僕たちがくたばったものだと疑うことなく、空から無警戒で下りてくる。

 そこに落雷の倍返しである。

 地面に叩きつけられたサンダーバードの頭を銃弾が貫く。

 雷撃だけではやはり止めは刺せないか。それでも地上に落せれば上出来だ。

 遺体から羽を抜いて、まとめて転送する。軽すぎて有り難みのないことこの上ない。

 風の魔石(中)を回収して、先を行く。

 今日は何事もなく済みそうだ。

「来るのです」

 谷間に落ちられては勿体ないので、ギリギリまで引き付ける。その前に敵の射程らしい。落雷を一撃浴びる。

 リオナの『ソウルショット』が炸裂する。


「羽根の回収はもういいだろう」

 後は気楽に脱出しようと思う。

 回収は気にせず、発見次第、即殲滅で行くことに決定した。


『サンダーバード、レベル四十、オス』


 ライフルを構え、『一撃必殺』を発動して狙撃する。

 何とも手応えのない攻略になった。

 サンダーバードにとって地形が完全に裏目になった格好だ。

 のんびり山歩きを堪能していると、峠の先に先行していた冒険者たちが見えてきた。

 戦闘中であった。

 僕たちは歩みをやめ、方が付くのを待った。

 冒険者たちはオーソドックスな前衛二、中衛二、後衛二のパーティーだった。

 サンダーバードとの距離はわずか十数メートルである。投げ槍で届く距離であった。

「槍持ちが槍を投げれば終るんじゃないのかな?」

 ロメオ君が言った。

「その槍が外れて谷間に落ちるのが心配なのよ」

 ナガレが言った。

「紐でもくっつけておけばいいのです。魔法使いはいないですか?」

「弓もいないし」

「何しに来たんじゃろうな?」

「あれじゃないですか?」

 ロザリアが示したのはブリューナクの槍だった。

「あれは、模造品だ。同じ物をプルートが持ってた」

「まさかあれ一本で?」

「でも使う様子がないわね。魔力切れかしら?」

 あれでどうやってここまで来たんだ?

「そういや、あの人たちが通ったにしては、僕たちサンダーバードと対戦してない?」

「そういえばそうだね」

「嗚呼ッ!」

 突然、ロザリアが叫んだ。

「何?」

 ヘモジもオクタヴィアも驚いて僕の背中に隠れた。

「ナー?」

「あの子! 教会の子だわ」

「知り合い?」

「同じ学校にいた子よ」

 聖エントリオ教会付属エントリア神学校卒か。

「てことは、もしかして魔除け?」

 ロザリアが頷いた。

「距離があり過ぎるだろう」

「で、襲われてあれなわけだ?」

 待つこと数分。


「まだなのです」

 オクタヴィアのクッキーを摘まみながらリオナが言った。

「ナーナ」

「もう追い抜いちゃわない」

 召喚獣たちもボリボリ食べている。

「鳥も気が長いのです」

 多数決の結果、サンダーバードより気の短い僕たちは前進することに決めた。僕たちは彼らの戦闘現場をできるだけ遠巻きにしながら通り過ぎることに決めた。


「ちょっと、ロザリア。手伝っていきなさいよ」


 僕たちがなんとか邪魔せずに通過できてほっとしたときだった。ここで獲物の注意を引いて、先方に迷惑を掛けてはいけないと気を使った結果がこれである。

 僕たちは顔を見合わせた。

 結局、ロザリア本人が対処することになって、銃を一発見舞った。弾は麻痺弾。サンダーバードは地面に落ちた。

 ロザリアは僕たちに気を使ってか、会話をせずに手を振ってその場を去った。


「格好いいのです」

「麻痺弾効いたわね」

「サンプル増えたです」

 まだ、やっていたのかと僕は感心する。

 そこへサンダーバードが来なきゃいいのに、接近してきた。

 雲の間を滑空しながらこちらの様子を確認している。

 円を描きながら滑空していたサンダーバードが高度を下げてきた。

「そろそろ一撃来るぞ」

「やらせるもんですか!」

 ナガレが一撃を食らわした。

 サンダーバードが直撃を避けた。が、痺れているのかそのまま谷底に落ちていった。

 絶命したようだ。

 僕たちは先を進んだ。すると、ロザリアの知り合いの一行が後を追い掛けてきた。

「ちょっと、なんで先行っちゃうのよ」

 そう言って声を掛けてきたのはロザリアの同級生の少女である。

「お互い連れがいるんだから、世間話なんてしている暇はないでしょ」

「そんな堅いこと言わないで、共闘しましょ」

「悪いけど、わたしたち獲物には興味ないのよ。ここを通過したいだけなの」

「わたしたちもよ」

 そう言って、自己紹介する羽目になった。

 彼女の名はファビオラという。ロザリアの同級生だ。以前ロザリアが着ていた、いかにも聖職者予備軍とでもいうような装備を身に着けていた。特に親しいなかではなかったが、お互い顔も名前を知っている間柄だった。彼女も貴族の出だが、枢機卿の家と一緒にするのは酷だろう。

 彼女が連れていたパーティーは、見るからに冒険者の雛形に則したものだった。フルプレートの前衛、長い得物を持った中堅、回復役の彼女と魔法使いと自称する彼女の弟だ。

 思わず僕はロメオ君と目を合わせてしまう。

 別に名乗るだけなら只だから構わないけど、どう見ても才能がなさそうだった。まだお姉さんが魔法使いだと名乗る方が信じられる。

 なるほど、よくある貴族の小遣い稼ぎ組という奴だと分かった。前衛の従者の皆さんご苦労様という感じだ。それでもここまで来られたのだから、奇跡だろう。

「随分変わったお仲間ね」

 僕たちをどう評価したのか、気になるところだが、どうやらそれすらできなかったようだ。

 そもそも前衛の盾持ちがいない。中衛が持つ長柄を装備するロザリアとナガレだが、どう見てもこのふたりは後衛である。そこに魔法使いのロメオ君だ。遊撃風の革鎧の剣士が無駄に三人もいて、そのうちひとりはエルフで、極めつけは猫と得体の知れない小人だ。

 これを見て、冒険者だと即断できる者がいたとしたら、そいつの頭はおかしい。

 

 じっとしていても仕方ないので、僕たちは前進することにした。

 ロザリアはまだ遠慮しているが、本来冒険者は助け合いだ。友人なら尚更だ。気兼ねすることはない。

 先頭をリオナとナガレ、重装備で長期戦を戦い抜いた従者さんたちを最後尾にして、出発する。

 ファビオラの弟はロメオ君に貼り付くと、ひたすら質問攻めにし始めた。

 ロザリアも友人との長話に付き合う羽目になり、終始苦笑いを繰り返す。

 ファビオラも僕たちと年は変わらない。聖都から離れてこんな所にいるのだから、心細かったに違いないのだ。そこで学友を見つければ、溢れるものは多かろう。

 だが、今は戦闘中だ。大所帯に安心するのは愚の骨頂だ。

「サンダーバード発見!」

 まだ狙いは定めていない様子だった。やり過ごせればそれに越したことはない。

 僕たちは山の稜線を空を見上げながら進む。

 本当に景色は最高なんだが。

「来るです!」

 リオナが叫んだ。


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