リオナと『銀花の紋章団』
「はい、確認いたしました」
ギルドの窓口担当の女性は僕のギルド証を確認して言った。
ずいぶん遅れたが冒険者ギルドアルガス支部にご挨拶である。
そこは石造りで中央に吹き抜けのある二階建ての建物だった。
窓口だけでも六つもある大きなフロア。何より一階だけでなく二階の壁一面にまでびっしり隙間なく依頼書が貼られている掲示板は圧巻だった。広間はラウンジになっていて大きな暖炉があった。依頼書片手に作戦会議ができる空間になっているらしい。有料のカフェが併設されていて、建物のなかは紅茶の香りに満ちていた。
お昼前のこの時間帯、冒険者たちの姿は疎らだ。
「パーティーギルド『銀花の紋章団』のギルドマスターから入会申請が下りていますが、記録をお作りいたしますか?」
「『銀花の紋章団』?」
「ふたりとも入会しまーす」
リオナが窓口嬢と僕の間に急に割り込んできて手を上げた。
「ちょっと、リオナ!」
「『銀花の紋章団』はお姉ちゃんたちのギルドだよ。手紙預かってきました」
リオナは手紙を受付嬢に渡した。
「どういうこと?」
僕はリオナに尋ねた。
「ほとんど休止状態だけど、遺産が残ってるから使えって。それと、未成年でも入れるから入っとくと便利だって」
「そうなのか?」
「討伐記録とか残るから、成人したとき逆算してランク認定してくれるんだって」
「冒険者のお子さんなんかはよく使う手ですね。お嬢様の年齢なら問題ございません」
ほらねと僕を見上げて笑った。
「それに…… お手紙に『間違いなく入会させるように』とギルドマスター直々の署名がありますので…… その…… 規則では本来このような強制力はないのですが…… この方の場合、たぶん拒否できないかと……」
受付嬢の歯切れが悪くなった。
自己責任がギルドの大原則。誰かに強制されるということは本来あってはならない事態である、ということは彼女もわかっているはずだが、それでも抗えない相手ということか?
どうせあのふたりのどっちかだろ。
「ギルドマスターって?」
とりあえず聞いてみる。
「アールハイト王国王家第一王女マリアベーラ殿下です」
え? てっきりヴァレンティーナ様か姉さんだと思っていたのに、さらにその上?
「ヴァレンティーナ様のお姉さん?」
リオナはこくこくとうなずいた。
そんなとこに僕が入って大丈夫なのか? 絶対やばいでしょ、そのギルド。
「入会記録お作りしますね。お嬢様は身分証などはお持ちですか?」
リオナは首にぶら下げていたカードケースから身分証を取り出した。
「冒険者ギルドの仮証ですね。保証人は――」
明らかにリオナの交友関係はおかしい。窓口嬢の顔からみるみる血の気が引いていくのがわかる。だが今更何を驚くことがある。保証人はヴァレンティーナ様かうちの姉のどちらかになっているはずだ。
「国王陛下?」
彼女がつぶやいた。
隠し子、隠す気あるのかぁあああ! 馬鹿か、馬鹿ですか、親馬鹿ですか!
どっと汗と疲れが噴き出してくる。
「えっへん、すごいでしょ」
リオナ、お前もか…… っていうかいつもと雰囲気違うぞ。
「このことはご内密に」
僕がフォローしておく。
「言えませんよ!」
周囲を見回し他に聞き耳を立てていた者が誰もがいないことを確認すると、彼女と僕はほっと胸を撫で下ろした。
「王様とお父様はお友達なのです。王様はヴィオネッティー家ともお友達なのです。お友達のお友達はお友達なのです」
それで煙に巻いたつもりか?
「了解いたしました。一応ギルドマスターには報告させていただきます」
お、さすが大人の対応。
まあ、さすがに獣人の落とし種がいるとは思うまい。
「『銀花の紋章団』とお聞きしたときから、何かあると思ってましたけど、くれぐれも無茶はなさらないでくださいね。主にお姉様方にそうお伝えください」
さすが、わかってらっしゃる。
「了解しました」
リオナがいつになく元気な声で答えた。




