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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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海だ、獲物だ、大漁だ!2

『冷たッ! でも運動すれば暖まる!』

 池の水がどうとか言ってなかったか? 大体いつから竜が恒温動物になった? 

 船は波しぶきを上げて一気に加速した。

「うわぁああああ」

 待て、待て、待て! 船の速度じゃないから!

「うわああああああッ!」

 跳ねた! 今海面、跳ねたよ! 船の強度を上げないとッ!

「待避だ、待避!」

 僕たちは小屋のなかに入った。

 しばらくすると船は沖合の凪いだ海に止まった。

「気持ち悪い……」

 全員青い顔をして甲板に出た。

 見渡す限り何もない。

「凄い……」

 酔いが一気に吹っ飛んだ。わけではないが、一瞬忘れた。

 海の色が違う。青緑色だ。

『錨を降ろして、釣りでもして待っていて頂戴。リオナ魔力の補充お願いね』

 召喚カードを見ると、なるほどいつもより減りが早い。とは言え、全体の六分の一程度だ。多いのか少ないのか。取りあえず一日遊んでも補充用の魔石で足りることは確かだ。

 女性陣は海に釣り糸を垂らした。

 三半規管が発達しているはずの猫が青くなって転がっていた。

「黒猫なのに……」

 すぐにアイシャさんの竿に当たりが来た。すぐさま全員掛かりでの釣り上げ作業になった。

「大物だぞ!」

 必死に格闘を繰り広げたが、最後は面倒臭くなったようで、アイシャさんは魚が水面に顔を出したところを凍り付けにした。

 これ釣りか?

「でかいな」

 抱き抱えるのがやっとの大物だった。

「そうだ、忘れてた」

 船倉に水を張っておかないと。生け簀という奴だ。

「お、また釣れた」

 食いつきいいねー。寒いけど。

 海面に上げるまでが勝負になった。

 結界で船全体を覆っているので、温風暖房は入れてない。懐に入れて暖まろうと思っていた黒猫は僕のリュックのなかで青くなってるし。

「戻って来ないな」

 そう言って海面を眺めていたらいきなり巨大な顔が現れた。

「うわっ!」

『たっだいまー』

 食われるかと思った。

 ナガレが戻って来た。

 そして甲板に身を乗り出して口のなかに貯めていたものをぶちまけた。

 ゲロゲロゲロゲロ……

 長い首の竜の口から大量の魚やら甲殻類が。

「えーっ?」

 意外な捕獲方法にロザリアがどん引きした。

 お前は『鵜飼の鵜』か! 僕は取りあえず突っ込みを入れた。

「何これ?」

 オクタヴィアがよせばいいのにリュックから身を乗り出して、ちょっかいを出した。

「ううぎゃあうみゃあ」

 逃げ場を探していた足長蟹に手を挟まれた。お約束だな。ご苦労さん。

『大物見つけた。取ってくる』

 そう言ってまたナガレは海に消えた。

「それにしても」

「妾たちの釣りはなんだったんじゃろうな」

 釣り上げた二尾の魚は多くの魚に埋もれて既に分からなくなっていた。

 ロザリアは大量の魚に浄化魔法を掛けてから生け簀に放り込んでいる。


 しばらくすると魚が浮いてきた。

「ちょっと、死んでるんじゃないの?」

「なんで?」

『水を対流させるのよ。魚は水のなかの空気を吸ってるの。だから――』

 僕は急いで船の構造を変更した。

 左右の側面に魚が逃げない程度の穴を二つ開けて、魔法で攪拌して水の流れを作った。そのままではひたすら海水が入ってきて船が沈むので、船倉を小さく区切って生け簀を孤立化し、他のスペースで浮力を維持することにした。

 氷でできているのでそれだけでも流氷のように浮いていられるのだが、念のためである。

 飛空艇の次は巨大な船を建造するのもいいかもしれないな。

 そうなると秘密基地は海に面した場所になるけど…… 山があって海がある…… 

『はい、お土産。大きいから逃げて』

 妄想から追い出された。

 甲板にゴロンと転がり落ちたのは人よりでかい巨大魚だった。

「うわっ」

 まだ生きてる! こんなでかいの生きたまま甲板に投げるなよ。

『これがマグロよ』

 焼けるからすぐ凍らせろと言われたので瞬間冷凍した。

 どこまで行って獲ってきたんだか?

 ナガレは船倉を確認して、「まだ入るわね」と言って二往復ほどして漁は終了した。

「大量、大量」

 ナガレとオクタヴィアはご機嫌だ。

 港に寄港したのは一番星が空に浮かんだ頃だった。

 皆、一日の漁を終え、早朝の漁に備えて帰宅していた。

 僕たちは誰もいない遠浅の岸に船を乗り上げた。再びヘモジに登場して貰う。船のいらない部分は解凍し軽くして、生け簀部分だけを陸揚げした。

「これどうすんだ?」

 どう考えても持ち帰れる量じゃない。

「おー、帰ってきたか」

「あ、旦那さん、ただいま戻りました」

 不思議そうに生け簀を見上げる、水産部責任者『海猫亭』の旦那さん。

 僕は生け簀を覗けるように階段を架けた。

 旦那さんが生け簀を覗くやいなや黙りこんだ。

「信じられん…… こりゃ大変だ」

 港中の人間が召集された。

「悪いが明日の競りまでにこいつを出荷できるようにしたい」

 集まった連中は、最初ぶつぶつ文句を言っていたが、生け簀のなかを覗くと皆黙り込んだ。

 閉めた解体作業場を再開し、滑り台のようなものを運んでくる。

 氷の入った大きな籠が大量に用意され並べられた。

 僕は生け簀の高さをできるだけ下げる。

 生け簀の上に飛び乗った男たちが大きな網で魚をすくっては滑り台に放り込んでいく。魚は滑り落ちて、待ち構えている籠のなかに。籠が満タンになると上からも氷をぶっかけられて工場のなかに運ばれる。運ばれたものはなかで仕分けされる。

「この工場自体が巨大な保管庫なんですよ。工場に入った時点で魚が傷むことはなくなります」

「ほんとに?」

 僕たちは天井を見上げる。確かに窓がない。光の魔石を照明にして作業している。

「どうよ!」

 ナガレが防寒具に身を包み、戻って来た。

「何が?」

「見て分からないの? どれもこれも高級魚じゃないのよ」

「そうなのか?」

「これだから内地の猿は」

 誰が内地の猿だ。

「どうでもいいけど自分の分、確保した方がいいんじゃないか?」

「ああ、忘れてた! リオナ! 行くわよ!」

 ふたり揃って工場のなかに消えた。

「ところであれは……」

 冷凍マグロを指差した。

「マグロですね」

「ですよね。あれはどうやって解体すればいいのでしょうかね?」

「知らないんですか?」

「この港で捕れる魚じゃないんで」

「ちょっと聞いてきますね」

 ナガレはその場で解体の実演を行なった。包丁代わりに僕の剣が使われた。

 三匹をあっさり解体し、カマをその場で網焼きにし始めた。

 宵の祭りに参加してくれた奇特な人たちに僅かばかりの返礼である。

 焦げるほど豪快に焼いては、ほぐしては食べ、ほぐしては食べ。


「凍らせてから四、五日経ったら、おいしくなるから、その頃食べるといいわ」

 島人が食べる分だけ、マグロのブロックを氷室に移すように指示が出る。

 ナガレは定期配送の契約をして、リオナは代金を払った。

 いつぞやの労使間交渉の決定は無事遂行されたようだ。

 黒猫が僕の肩を叩く。

「ホタテ、ホタテ」

 なんで俺にすがる。お前のご主人はあっちだろ。

「ご主人は駄目。お財布の紐硬い」

 諦めるなよ。せめてチャレンジしてからにしろよ。

「ホタテ、ホタテ。お店で買うより安い」

 実際スプレコーンで買うより安かった。でも付き合いというのがあるからな。

「あちらと一緒なら、配送料は無料にしときますよ」

 店の人も猫を哀れんで声を掛けてくる。

 どうせ運ぶのなら、一品増えても同じことか。僕はホタテの定期配送を頼んだ。

「そうだ、スルメある」

「スルメ? ああ、お姉さんがよく買って行かれるイカの干物ですね。ありますよ」

 僕はスルメをまとめ買いした。

 長居すると、何をねだられるか分からないので即刻帰ることにする。

 持ってきた手提げ保管庫に入るだけ押し込むと、残りは配送して貰うことにした。自分たちの分以外は、すべてギルドの水産部に買い取って貰った。

 港やら工場の使用料なんかもそこから出して貰った。売り上げは折半、代金はお届け物第一便と一緒に受け取ることでけりが付いた。

 たまには『銀花の紋章団』に貢献しておかないと。

 今回の売り上げで、小島の水産部は一日で一月分の売り上げを上げることになる。

 なるほど高級魚様々だったわけである。


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