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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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エルーダ迷宮迷走中21

 その夜、僕は転移系スキルの書籍を閲覧するために姉さんの書庫に向かった。

 姉さんたちは執務室にいた。人には見せられないようなだらしない格好でコタツに埋まりながらチェスに興じていた。以前来たときより書類の束が増えている。

 あの分だと泣きが入るのは三日後辺りだな…… 

「お前もやるか?」

 あ、スルメだ。異世界の。どうしたんだ?

 ヴァレンティーナ様とふたり、美味しそうにしゃぶっていた。

「負ける勝負はしません」

「そんなんじゃ、賢くなれんぞ」

「百連敗を阻止する唯一の方法です」

「そんなに弱いの?」

「急な用事ができるんですよ、姉さんは。いつも劣勢になるとね」

「たまたまだろ!」

「たまたまで百連敗はないわよね」

 ヴァレンティーナ様も同情してくれる。

「で、こんな時刻に乙女の部屋になんの用だ?」

 ここは執務室だろ? どこが乙女の部屋だ。

「転移スキル関係の書籍を借りに」

「貸し出し禁止」

「なんでだよ!」

「あんた兄さんに『ショートカット』を教わったでしょ?」

「あれそういう名前なんだ?」

「名前なんてどうでもいいのよ」

「じゃあ、僕は『ショートジャンプ』とかに」

「紛らわしいから止めろ」

 どうでもいいって言ったろ!

「人に知られると厄介だから、気を付けなさいよ。探知スキルが働いているような場所では使わないように。誰かに見られるなんて言語道断だから」

 もう使っちゃいました……

「一番奥の棚よ」

 鍵を投げて寄越した。

 僕は執務室を出て、向かいの扉を開ける。

 明かりを付け、施錠をなかからすると目的の棚を目指した。

 そうだ、子供図書館。まだ頼んでないや。

 目的の棚に辿り着いた。

 どれもこれもポータルや転移結晶の本ばかりだった。

 たまに術式に関する本を見つけるが、さわりの基礎部分だけで、読んだからといって自作できるようになる代物ではなかった。

「やはり秘匿情報はガードが堅いか」

「『楽園』に行くか」

 僕はその場で『楽園』を発動した。

「最初からこうすればよかったかな」

 僕は目的の本を探した。

 するといつもの如く現れる。

『転移スキル、レベル進化への道』

 なんだこの本? と思ったら書簡だった。ブックケースのなかに、書簡が大量にあった。そのなかの一部が薄ら輝いている。

 それは魔法使い同士が匿名でやり取りしていた書類だった。随分古い、有史初期の頃のものだ。

 内容は『竜の目』と『空間転移魔法』スキルを同時に取得した場合、『探索』スキルを得るというものだった。

『探索』スキル、『単体では効果なし。『転移』スキルとの併用で真価を発揮する。遠くの情報を離れながらにして瞬時に得られる』だそうだ。

 ピア・カルーゾが持っていたスキルは恐らくこれだろう。それに『転移』スキル。転移魔法発動のための魔力を得るために魔力過多の状態を作り出していたんだ。

『認識』を働かせて入念に自分のスキルをさらった。

 溜め息が出た。

『探索』スキルが増えていた。『竜の目』自体、希有なスキルであるが故に現代では忘れさられていたスキルのようだ。

 僕は書簡を本棚に戻した。

 姉さんに怪しまれないうちに戻らないと。

 鍵を返しに執務室に戻ると、今度はミカンを頬張っていた。

 僕は姉さんに子供図書館をやりたいからと書籍の選定を頼んだら、それはヴァレンティーナ様が既に推し進めていると言われた。それも子供だけではない、一般向けに開放された図書館だ。幼年学校の設立も計画しているらしい。

 やりたいことが一つ減ったら、出資のための書類が一枚増えていた。藪蛇だった。

 ビアンコ商会から注文来てたし、帰ったら薬作ろう。

 僕に残された野望はもはや秘密基地建設しかなかった。そのためには飛空艇だ。でも完成まではまだ半月残っている。

 ふと、閃いた。飛空艇がなくてももしかしたら……


 翌日、朝も早くから僕はフライングボードを担いで城門を抜け出し、人知れず森に入った。周囲に探知スキルを張り巡らせ誰もいないことを確認すると、遠くに見える山の頂を見つめた。

「行けるか……」

 行けなかった。『ショートジャンプ』で、あの距離を飛ぶには無理があったようだ。

 僕はポイントになる現場がはっきり見えていないからではないかと考えた。

 吹雪いて巻き上げられる雪のせいでけぶる景色が障害になっているのではないかと。

 望遠鏡を取り出した。

「倍率が足りないか」

 はっきり見て取れる辺りを選んだ。そしてゲートを。

「できた!」

 かなり遠くに設置できた。そして飛んだ。

 失敗だった。いや、成功はした。

 魔力を限界まで消費して膝をついた。すぐさま万能薬の小瓶を飲み干す。

「やはり、距離は魔力に依存するのか」

 辿り着いた場所は一面の雪景色。雪原のど真ん中だ。雪が積もってたんじゃ目印もあったもんじゃない。

 スプレコーンを遠くに見た。望遠鏡でなんとか警備兵の顔が視認できる距離だ。

「人が独力で長距離飛べれば、苦労はしないか」

 僕はボードに乗って空の散歩を楽しみながら帰ることにした。

 街道からこちらに手を振る者がいた。

 僕は街道に接近した。どうやら兵士のようだった。

 中継所の連中だ。

「どうしました?」

「やっぱり若様だったか」

 すっかり定着してしまったな。その呼び名。

「滑って脱輪してしまって。すいませんが、応援を――」

 雪掻きもしっかり行なわれているし、マーカーもある。普段なら脱輪しようもないのだが、確かに荷台が豪快に滑った跡がある。石でも踏んで馬が驚いたか。

「今魔法で持ち上げますから」

 僕は脱輪した車輪を氷の力で持ち上げた。馬は嘶き、馬車は道に戻った。

 思い切り礼を言われ、手を振られながら僕はその場を去った。

 後日、輸送部隊の馬車には必ずフライングボードが常備されるようになったとか。


 実験が失敗したことで、僕の秘密基地への野望は一時凍結された。

 家に帰ると、地下室に珍しくリオナがいた。何をしているのかと思ったら、水の魔石の在庫確認をしていた。

 ナガレを召喚し続けるためのチェックだろう。

 この家にいる限り魔力消費はほぼないし、夜は祠に戻っているから、やはり外出中の心配だろう。

 特にあのブリューナクの雷撃攻撃、あれは問題だ。本来倒した相手から魔力を吸収、補うことを想定した武器だが、威力がある分、消費が半端ないのである。全開だとおそらく召喚カードに蓄えてる魔力の半分を一回で使い果たすだろう。せめて補給する石の属性が関係なければ、現地調達も可能なのだが、隣国に砂漠の国ミコーレがある関係で水の魔石は不足気味だ。

 センティコアの水の魔石(特大)を空中庭園用に回収していなければ、余裕なのだが。しばらく水属性の魔物とやる予定はないし。在庫は減る一方だ。

「リオナ、水の魔石取りに行くか? セベクでも蛙でもいいぞ」

「セベクは解体で疲れるです。蛙は跳んでくるです」

「魔石を集めに行くんだからセベクの解体はいらないんじゃないか?」

「セベクにするです!」


 血が血を呼ぶセベクがいる二十三階層は相変わらず、じめじめした湿地帯だった。高級鰐皮を集めるわけではないので容赦する必要はない。

 ただ倒すのなら、面倒がなくていい。僕もリオナも嬉々としてセベクを狩った。次から次へと向こうからやって来るので楽勝である。

 半日でフロアーのほぼ全てのセベクを狩り尽くし、水の魔石(中)を八十個ほど手に入れた。

 当分の備蓄はこれでいいだろう。

 帰宅するとナガレがオクタヴィアとクッキーの取り合いをしていた。


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