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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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エルーダ迷宮迷走中(キマイラ編)20

 大きな広間の壁が衝撃で揺れた。

 吊り橋が波打つ。

 橋脚ごとに設けられた巨大な斧の列が、風に煽られ、揺れて軋む。

 四本の石柱に支えられた天井から吊り下げられた巨大な斧の一本が支点から折れて、奈落に落ちた。

 石壁か床を破壊する轟音が奈落の底に響く。

 他の支柱も歪み、耐え切れずに崩れ落ちる。

 吊り下げられていた巨大な斧ごと次々橋の上に落下する。

 最短ルートの橋は落下物を巻き込むようにうねりながら奈落に落ちた。

 キマイラも落ちた。

「しまった!」

 僕は下を覗き込んだ。探知スキルを発動すると反応があった。

 死んではいないようだ。

「まずい。結界持ちだというのを忘れてた」

 死んでくれればよかったのに。

 あのキマイラドラゴンがこの後どういう行動に出るか、いささか問題である。

 最短ルートを、破壊された今、あそこに居続けることになるのか。あるいは僕たちが来たルートを通ってテリトリーのこの広間に戻ってくるのか? 

 後者だと大分まずいことになる。

 異世界で言うところの『MPK』になる可能性があるからだ。『魔物を誘導して故意に冒険者を襲わせる行為』だ。

 いけ好かない奴らだとしても、こちらから冒険者の規範を破るようなマネはできない。

 最短ルートを潰して、お互い遠回りして、痛み分けでいいのだ。最低でも脱出用の転移結晶を使わせてやれさえすればいいのだ。

 手前勝手な罠を諫める程度なら兎も角、事故でも起こされたら寝覚めが悪い。

「明かりを頼む。行ってくる」

 僕はゲートを最下層に築くと、周囲を見渡す。

 こりゃ、便利だな。キマイラドラゴンはロザリアが奈落に落とした光を見上げている。

「今だ!」

 僕は結界から出ると『魔弾』を放り込んだ。

 獅子の頭が吹き飛んだ。

 小さなドラゴンの首が振り返る。喉袋が膨らんでいた。

「まさか……」

 小さくてもドラゴンということか!

 ブレスを吐いた。

「あれ?」

 弱いな。本物のブレスを縮小しても、こんなみみっちくないぞ!

 結界を張ってやり過ごすとすぐに息をついた。氷魔法をぶち込んで凍ったところで首を刎ねた。

 さすがに怠くなった。魔力を使いすぎたようだ。

 僕は万能薬を啜って回復を計る。

 火の魔石(中)を回収すると、みんなの待つ上階に戻る。

「お待たせ」

 リオナにお土産の魔石を渡す。

 もう一度橋まで下りて、渡って出口までまた登るのは面倒だ。

 僕は一気にゲートを出口付近に開通させようとする。と、オクタヴィアが跳ねた。

「宝箱発見!」

「え?」

 それは遠回りルートに架けられた方の橋の欄干の陰にあった。

 僕たちは下まで降りて中身を確認する。

「……五十枚だ」

「四十枚がまだどこかにあるわけだね」

 ロメオ君と笑いながら、出口を目指し歩きかけて、僕たちは立ち止まった。

「そういえばリオナ、天井の梁の上の宝箱どうした?」

「あ、忘れたです」

「四十枚はそこだね、きっと」

「取りに戻る?」

「この辺りからあのバルコニーが見られたらいいんだけど」

「百十枚じゃ不足なの?」

 ロザリアが言った。

 火の魔石(大)も二つある。締めて二百十枚と火の魔石(中)が何個かだ。我が家の暖房もこれだけあれば賄えるだろう。

 なんだかんだ言って、このフロアー、案外美味しいんじゃないのか?


 遅い昼食になった。本日のランチ定食は終っていた。

 若干割高な、いや、正規の値段で僕たちは大体いつもと同じメニューを頼んだ。

 ナガレは魚定食を頼んだ。

 オクタヴィアが物欲しそうな顔をご主人に向ける。が、ご主人様は肉料理を頼んだ。

 クッキー缶を開けてクッキーを寂しそうに口に運んだ。

「あの…… 焼き魚も単品追加で」

 途端に幸せそうな顔をする。

「今日は頑張ったからな。ご褒美だ」

 クッキー缶の蓋を閉めて、手に付いたクッキーの滓を舐めとり、アイシャさんの膝の上で今か今かと身じろぎせずに料理を待つ。

 その間、次の階層攻略に入るか話し合った。結果、入らないことになった。

 代わりにどこの階層に入るか相談していたところ、にわかに外が騒がしくなってきた。

「何だろう?」

「『闇の信徒』が出たらしいですよ」

 料理を運んできた店員が教えてくれた。

「二十七階だってよ」

 店長も料理を運んできた。

 え? 二十七階って…… 僕たちがさっきまでいた……

「あのフロアーの吊り橋は簡単に落ちるんだ。たまーにやらかす奴がいるんだよ」

「そ、そうなんですか?」

「まあ、毎度のことだ。あそこにゃ、ふざけた狩りをしてる連中もいるからな。いい様だ」

 これもMPKになるのだろうか?

 店長たちが下がると僕は言った。

「やっぱり、不可抗力だったんだ。あの橋は落ちやすかったんだよ」

「そんなことより『闇の信徒』どうするんですか?」

「結構美味しいよね。『闇の信徒』って」

 ロメオ君が、本質を突いた。

「なんだかんだ言って儲かってるのです」

「封鎖される前にやるか?」

「その前に、これにサインをして頂戴」

 マリアさんだった。

「『始末書』だ……」

「狩り場の占有犯相手だから今回は厳しく言わないけど、あんたたち目立つのよ。馬鹿やったらすぐばれるの」

「すいません」

「別にいいわよ。謝んなくて。あのフロアー設計、やり直すように教会に以前から頼んでたのよ。こういう実績作りも強く出るためには必要なことなのよ」

「実績作りって……」

「速やかに解決してくれたら不問にするけど、どうする?」

「やらせて頂きます」

「じゃ、封鎖しちゃうけど話は通しておくからね。無理そうだったら引き上げてくるのよ」

 ようやく食事に有り付けた。

 アイシャさんはオクタヴィアの魚の身をほぐしてやっている。

 ほぐし終る前に猫が一つくすねようとして、頭を小突かれた。

 ナガレが豪快に頭から焼き魚にかぶり付く。その横でリオナが分厚いステーキ肉にかじり付く。食欲旺盛なのはいいことだ。

 でもナガレの食費、結局僕が持つんだよな……


 それぞれ満足して食堂を後にする。

 僕たちは地下二十八階から二十七階出口を目指した。

 目的の『闇の信徒』はあっさり見つかった。階段を上った先の、例の広間にいた。

 一つ上の階の住人スケルトンプルートの黒い骨バージョンだった。

「また着られない装備か」

「実入りは少なそうだね」

 せめて防具が希少な金属でできていますように。

 本日はライフルによる『魔弾』はないので個人的には中近距離戦だ。

 相変わらず『闇の信徒』の動きはでたらめだが、こちらにはブリューナクを持つナガレがいた。

 必中の一撃でプルートを捕らえた。次の一撃はアイシャさんだ。面による掃討だ。衝撃波をもろに食らわせた。

 プルートは長い両手剣で防ぐが、両手ごと持っていかれた。既に武器はない。

 そこにロメオ君の追撃だ。爆炎がプルートを襲った。

 ロザリアが、浄化魔法を唱える。勝負ありである。装備だけを残して虚空に消えた。

 僕とリオナが接近する前に方が付いてしまった。

「やっぱりうちのパーティーはおかしい」

 僕は肩で息をしながら、振り返って言った。

「エルリンが一番おかしいのです」

 さて、お宝探しである。

 ありました。なんと敵が持っていた両手剣はアダマンタイト製。装備はくず鉄だったが、宝石は上玉だった。後で金貨三百枚で売れた。小物は金の指輪が二個だけだ。

「まだいかないの?」と窓口でマリアさんに言われたので「もう終った」と報告した。

 思い切り呆れられた。

 証拠はアダマンタイト製の巨大な両手剣だけでいいだろう。修道院に転送しておいたので買い取りをお願いしておいた。


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