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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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エルーダ迷宮迷走中(キマイラ編)17

 僕とロメオ君だけ調整なしだった。

 思えば、殴っても一撃だし、切れ味最高なので、剣自体にダメージがない。当然の帰結だった。ロメオ君の方は言わずもがなだが。

 アガタを驚かせたのは全員の装備の方だった。

 彼女と出会ってからほとんど替えてないというと、「あんたたち相手じゃ、儲かりそうにないわね」と呆れられてしまった。

 だって、殴られないんだからしょうがないだろ。

 唯一の例外は銃だった。

 僕のライフルはゴリアテ工房の特製品だが、思った以上に具合が悪いらしい。ロザリアも比較的頻繁に使うが、彼女はこないだ銃を短銃に替えたばかりだ。リオナの双剣がそうだったように、いや、それ以上に大分へたれているらしい。丸ごとオーバーホールが必要だというので預けることにした。引っ越しでいろいろ金が掛かるだろうから、引越祝いも兼ねて全て前金で払っておいた。と言うことで今回は短銃だ。

 正直、愛用のライフルがないと心許ないが、暴発されることを思えば念入りにやって貰った方がいいだろう。


 客車に乗り込むといつも通り、作戦会議である。

「当番誰だっけ?」

「エルリンなのです。早くするのです」

 車内を暖める係りがいつの間にか創設され、火の魔法が使えるロメオ君とアイシャさんと僕が代わる代わるお務めしていた。ロザリアも最近、生活魔法の範疇を超えて、使えるようになったのだが、まだ危ないらしく、狭いところでは御法度なのだそうだ。

「地下二十七階層の敵はキマイラだよ。獅子の頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持ってるらしい。蛇の尻尾には毒があるって」

 ロメオ君が取りあえず説明した。

「尻尾に毒?」

「尻尾の先が頭らしいよ」

「キマイラじゃからな。背中に羽が生えているのもおるらしいぞ」

 アイシャさんが早速お茶の用意をし始めた。

 オクタヴィアは早くもクッキー缶を僕のリュックから取り出している。因みに本日はポポラのパイ風味が付いた各種クッキーである。

 パイを取ろうとしたら、怒られた。

「階層は標準的な地下迷宮タイプ。罠は仕掛け矢とか壁から槍とか巨大振り子斧だとか」

「罠らしい罠ってことね」

「斧は勘弁して欲しい」

「解除スイッチがあるらしいから」

「オクタヴィア大活躍ね」

 ナガレ、使い魔のお前が行けよ。

「オクタヴィアを先頭にしたら全ての罠を踏みそうで怖い」

「若様酷い」

「その都度考えましょ。状況にもよるでしょうし」

 その後、互いに装備確認。リオナの万能薬の減りが大きかったので、自分の分と交換した。

 ナガレも欲しがったが、在庫の持ち合わせがないのでオクタヴィアの分を分けた。

 

 敵はキマイラ。とキマイラ亜種である。亜種は別名、キマイラドラゴンとかキマイラスネークとかいろいろである。

「嫌な感じね」

「蛇の代わりにドラゴンの首? 大きさおかしくない?」

「問題はどっちのサイズに合わせてるかよね。ドラゴンに合わせてたらでかいわよ」

「ドラゴンサイズの獅子なんて見たくない」

「同感」

「逆を祈ろう」

「それだとドラゴンなのかサラマンダーなのか分からないのです」

「スネークの方はなんなんだろうね?」

「やっぱり標準より大きな大蛇が付いてるとか」

「考えるだけ時間の無駄ね」

「『魔物図鑑』にも亜種多数とだけあるだけだしね」

「挿絵ぐらい気張ればいいのに」

 そうこうしてるとガコン、といつもの震動が来る。

「さあ、着いたぞ」


 早速、ギルドに顔を出す。依頼を探すが、ないね。

 最近思うのだが、みんな一体この迷宮のどこで金儲けしてるんだ?

 もっと深いところにいるのか?

 聞けば、二十七階は罠が厄介なフロアーらしく、ここも冒険者に敬遠されているフロアーなのである。

 敬遠されていないフロアーってどこだ?

「普通はフロアーの魔物狩り尽くしたりしないのよ。狙った獲物を数匹倒せれば稼ぎは充分なんだから」

 ロザリアが呆れて言った。

 確かに魔石の中サイズを数個稼げば金貨二、三枚にはなる。装備代なんか考えなきゃ、一日の稼ぎとしちゃ、充分な稼ぎだよな。

「そういうことなのかな?」

 依頼はない。魔石にするしかなさそうである。


 フロアーの構造はロメオ君の説明とは若干違った。

 出た先の景色は複雑な多重構造になっていた。上にも下にも通路があった。迷路らしい迷路だ。

 ワクワクするくらい厄介なステージだ。

「出口は下だよな」

 だからと言って、下を目指して出られる程正直な迷宮はないだろう。

 幅数メルテの手摺りもない通路の下を覗く。

「落ちたら死ぬな」

「この程度は問題ないのです」

「いや、普通死ぬから」

 ロメオ君も言った。

「大丈夫なのはお前とナガレぐらいなもんだ」

 明かりは薄暗く、わざと周囲の見晴らしを悪くしているようだったので、ロザリアに遠慮なく光の魔法を披露して貰った。

 僕たちは地図と現物を照らし合わせながら、地図に記していった。

「じゃあ、行くよ」

 細い通路を進むと、上り階段に出た。

 巨大な地下都市をモチーフにしてるのか? 

 何とも怪しい感じだ。

 階段の先には鉄柵が嵌められていた。

「ちょっと、いきなりこれかよ。どうやって開けるんだ?」

 みんなで手分けして扉の鍵を開ける方法を探した。

 すると円柱に輪っかの付いた鎖がぶら下がっていた。

 僕が鎖を引くと扉が開いた。そして手を離すと、鎖がズルズル巻き戻り、扉は再び閉じた。

「なるほど」

 早速オクタヴィアの出番である。

 周囲に敵がいないことを確認して、僕たちは先に扉の前で待つ。

 オクタヴィアが鎖を引いているうちに開いた扉を潜る。

 オクタヴィアが薄闇のなかを駆けてくる。

「いいぞ、オクタヴィア」

「偉いぞ、オクタヴィア」

 オクタヴィアはするりと柵の隙間を通り抜けて戻って来た。

「よくやったのです」

「助かったわ」

「ただの猫なら、飼いはせん」

 猫は尻尾を立てて嬉しそうに先を行く。

 お調子者の猫の頭上を何かが通過した。闇から闇へと何かが通り抜けた。

「なんだ?」

「んぎゃ」

 オクタヴィアが本来の猫のスタイルに戻って、何かが飛んできた方角を見た。

 明かりを飛ばすと、遠くの壁から矢が等間隔で飛んできていたことがわかった。

 トリガーは扉を開けたことらしい。

「取りあえず、行こうか」

 僕は結界を張り、矢を弾き返しながら進んだ。

 側壁がある安全地帯まで進むと一安心。

「スイッチはどこよ」

 ナガレはブリューナクを構える。

 ロメオ君は地図の見方を改めた。マップの罠の印の位置と実際攻撃を受ける位置に開きがあったからだ。

 このまま発動させたまま、この細い通路を渡りきるのは正直鬱陶しい。止められるものなら止めておきたい。

「あった!」

 見つけたのはリオナだった。すぐさまオクタヴィアも気が付いた。通路の先の更に細い道を行った先に壁に埋め込まれたスイッチが見える部屋がある。

 マップ情報を見てもそこ以外なさそうだった。

 情報を見る限り矢に向かって進むことになりそうだった。しかも、スイッチがある小部屋にはキマイラがいるのである。

「オクタヴィア頑張れ!」

 さっきとは一転、今にも不幸に押しつぶされそうな哀れな顔をした。


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