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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち

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ピア・カルーゾの信仰1

 決闘の場所は、『蟹の道』の途中、アルガス方面と北の砦方面に向かう二股分岐がある辺り。かつて、いけ好かない商人が盗賊に襲われていた場所だ。

 ここを選んだのはどの町から来るにしても交通の便が悪いからだろう。馬車で片道数時間を要する距離にあり、警備がゆるく、見晴らしもいいので追っ手が来ればすぐ分かる。

 川でも流れていれば世のはぐれ者たちの温床になりかねない場所であったが、幸い雨は乾いた大地に染み込むしかなかった。

 それに退路はアルガスのポータルのみになるので、手配書が回った者が選ぶ場所でもないのだ。ポータルの先に警備が待っていることは重々承知しているだろうに、なぜ彼女はここを選んだのか?

 移動手段がないならまず選ばない場所だ。ということはやはり彼女は飛ぶつもりなのだと解釈できる。どこまで飛べるのか、そもそもどんなスキルなのかも分からないが。彼女は絶対の自信があるのだろう。もちろんその先がスプレコーンである可能性も否定できない。

 僕はアルガス経由で現地に向かった。同行者もいるので、馬車を借りた。

 本日の同行者はきのうの面子とロメオ君である。今日の仕事を延期して貰いに行ったら、一緒に行くことになった。アンジェラさんとエミリーは姉さんたちと一緒である。もちろんフィデリオもだ。サエキさんは本日有給でお休みである。


 アルガスから二時間ほど来たところで現場が見えてきた。

 以前とは違い、白い雪で一面覆われていた。

「なにか岩がいっぱい見える」

 望遠鏡を覗きながらロメオ君が言った。

「転移結晶の原石だよ」

 望遠鏡を覗いてすぐ分かった。

「伏兵がいるのかの?」

 警戒するも荒れ地に立っているひとり以外は誰もいなかった。

 僕たちは万が一に備えて遠くに馬車を置いた。

 僕はひとり馬車を降りる。

 エルーダ方面から聖騎士の一団が土煙を上げながらやって来る。

 止まって欲しい場所を通過して、接近してくる。

 もうテリトリーのなかだ。引き返せ!

「ちょっと父さん、何してんのよ!」

 ロザリアが声を荒げた。だが、ここからでは声は届かない。

「任せて頂戴」

 ナガレが『ブリューナク』を転移結晶目掛けて放った。

「おい! 止めろ。誘爆が」

 爆発が起こった。

 聖騎士たちの乗った馬たちは足並みを乱した。そしてようやく事態に気付いたのか、一目散にエリア外に退避した。

「誘爆しなかったな」

「あの一個だけ、デモンストレーション用に仕掛けたものじゃろう」

 アイシャさんが腰に手を当て、望遠鏡を覗いた。

「サッサと行かんと、聖騎士が介入してくるぞ」

 僕は言われてようやく歩き出した。正直、聖騎士の短慮に呆気にとられていた。

『飽和爆発』なんて経験したことがある奴なんてそうそういないのだから無理からぬことであるが。きのうの長話で、具体的な内容をはしょった部分でもあるしな。

 僕は原石の横を通り過ぎた。

 なるほど、既に魔力は満タン状態である。どれか一つを爆破しただけで連鎖爆発を引き起こす。あのときと同じだ。

 これだけの原石をどこから持ってきたんだ?

 夜の間に運び込んだということは、彼女には子飼いの兵隊がいるということか?

 まさか、異空間に原石を溜め込んでいるわけじゃないだろうな?

 やがて足元に無数の轍が見えてくる。

 どうやら、石は馬車で搬入したようだ。

 取りあえずほっとした。

「わたしだけだぞ。少年。恐れることはない」

 老女が声を掛けてきた。特に威圧するわけでなく、むしろおっとりした声だ。

「仲間はおらんよ。頼りにならん者はいても困るだけだからね。これは、町の人足たちに運ばせたものだ。その辺に転がっているはずだよ。探してごらん。物騒な物だと薄々気付いていた癖に、黄金色に目が眩んで、見ない振りをした小悪党たちの成れの果てだ。自分たちのせいでどれだけ多くの死人が出るかなんて、お構いなしだ」

「随分下らないことに心血を注いだものだな。そもそもの原因を作ったのはあんただろ? ピア・カルーゾ」

「そういや、坊やの名前をまだ聞いていなかったね」

「エルネスト・ヴィオネッティー」

「どこかで聞いた名だ……」

「サルヴァトーレ・チッチを捕まえた奴の名だよ」

 目の色が一瞬変わった。刺すような視線。一瞬で背筋が凍った。

「誰のことだい? そのおかしな名の男とわたしになんの関係があるって言うんだい?」

「こんなにたくさんの原石どこで手に入れた?」

「長年生きしてるといいこともあるもんさ」

「いいことね…… 売れば金にはなりそうだけど、奴の手口とまるで一緒だ。あんたが教えたんだろう? 『飽和爆発』で死人を増やす方法」

「なるほど、嘘じゃないようだね。説明する手間が省けたね」

「別の使い方もね」

 老女の目が見開かれた。

「なぜこんなことを? 状況から想像するにあなたは悪事から遠ざかっていたはずだけれど」

「遠ざかっちゃいないよ。代わりにやってくれる者が現れただけさ」

「経歴不明の将軍様か?」

「あの男なら、世界を蹂躙できると思ったんだがね。まさか子供に遅れを取るとはね」

「そんな理由で社会復帰されても困りますよ」

「息子を殺されたとあっては復讐の一つもしたいのが親心というものだろ?」

「血は繋がってませんよね?」

 チッチにはとんでもないユニークスキルがあった。『魔物を従えし悪魔の誘惑』。

 血筋ならこの老女にも使える可能性がある。

「わたしはあの子の才能に惚れたんだよ。だから孤児だったあの子を引き取って育てた」

「教皇は関係ないんじゃないですか?」

「奴は神の僕でありながら、息子に救いではなく、死の宣告をした。神の名を騙る悪しき者だ」

「でも殺したのはあなたでしょ?」

 心底驚いた顔をした。

「はったりではなさそうだね」

「幼い頃、あなたは魔力過多によって夜な夜な夢を見るようになった。それは不幸な事件の数々だった。あなたは誰よりも敬虔な信徒だった。幼いながらも純粋だった。いや、幼いが故に純粋だった。でも、周りに信じて貰えなかったあなたの心は次第に歪んでいった。やがて、あなたは自分が見る夢が、本当に夢なのか、自分がしていることなのか区別が付かなくなった。あなたはいつの間にか傍観者から加害者に取って変わった。あなたは何かしら転移する力を手に入れたんだ。あなたの父親はそのことにいち早く気付いた。そして一家心中をもくろんだ」

「あの男は小心者だった。わたしがどれだけ、家族に嫌がらせした者たちをこの世界から排除してやったと思う?」

「あなたは母親も殺した」

「あの女は娼婦だった。誠実な夫の苦悩も理解しようとせず、哀れな娘からも目をそらし、まっ先に愛すべき家族を見捨てた阿婆擦れだった」

「兄弟も殺した」

「わたしが全ての元凶だと言い、わたしを沼におびき寄せた。わたしは生まれて初めて魔法を使った。兄弟を溺れさせるために、助かりたい一心で、必至だった。そしてこのとき、まさにこのときわたしは気付いた。自分が選ばれた人間なのだと。真実を炙り出す力を授けられ、悪を葬る力をも得た。幸い、誰もわたしがやったと気付かなかった」

「過去のあなたが自分を救った。純朴で敬虔だった頃のあなたが」

「神は裁くべきだった。なのにわたしは裁かれることなく今日まで生かされ続けた」

「なぜ、チッチを殺した?」

「あの子のスキルが欲しかったのさ。坊や、知ってるかい? ユニークスキルというのはね、ときに伝染するんだよ。所有者が死んだとき、その近くにいるとね、運がいいと手に入るんだよ」

「血筋に世継ぎがなく、近くにいた者にスキルを使うだけの技量がある場合だけだ」

「なんだい? そうなのかい? これはしまったね。無駄を打ってしまったね」

「あんたの大嫌いな母親と一緒だな。そんな物のために息子を手に掛けたんだから」

「どの道死ぬ運命だったんだッ! 逃げられやしなかった。わたしはあの子を楽にさせてやったんだッ!」

「あんたの父親も同じ気分だったろうさ! 人を殺してしまうほど、気が触れてしまうほど娘が苦悩にあえいでいると知ったから、間違った選択だったかも知れないけど、せめてあんたのために一緒に死ぬ決意をしたんだ」

「わたしは死なない」

「じゃあ、なんでこんな事件を起こしたんだ? なんで今更チッチのスキルが必要だったんだ?」

「せめて、神に愛された者たちに復讐したいじゃないか。神にッ! 復讐したいじゃないかァ!」

 彼女はありったけの魔力を手元にあった原石に放った。

「聖騎士共を巻き込んでやろうと思ったのにね…… 残念だよ」


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