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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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エルーダ迷宮迷走中(ブリューナク入手編)14

「まったく、いたずら盛りですまんかったの。作りかけのパーツを隠しおってからに、息子たちにはきつくお仕置きしておいたからの。もう少し待っておれ」

 声はすれども姿は見えず。

 暗闇のなか、鍛冶師が槌を打つ音がする。鞴の音がして、暗闇が赤く染まり、火の粉が宙に舞う。カンカンカン……

 青い炎が薄ら見え隠れする。ひたすら聞こえる槌の音。そこは幻想的な闇が見える空間だった。

「よし、できたぞ。わしの渾身の一振りじゃ。名は『ブリューナク』、いかなる的も外さない。雷撃の矛だ。持って行くがいい」

 暗闇に一振りの矛が薄ら浮かび上がる。

 僕は矛を貰い受ける。

「大事にいたせ」

 上からゴゴゴゴゴ…… と擦れる音がして、壁が降りてきて闇は消えた。

 下りてきた壁にはあるはずの窪みも矛先もなかった。

「なるほど、面白い趣向じゃの」

 爺さんが感心する。

「なんだったんだ?」

 僕たちは顔を見合わせる。迷宮特有のイベントか? マップの情報を見てもこんなクエストの内容は記されていない。いや、このマップ情報、そもそもクエストの内容を公開していないのではないか? ヘモジのときもナガレのときもしかり。もう少し情報が流れていてもいいのではないか。と言いつつ僕自身も秘匿しているのだが。

 よくよく考えればクイーン部屋もそうじゃないのか? 

 今回のこれはもしかしてどこかに前提となるクエストが眠っていたのではないか? 

 もしかして『楽園』のなかに情報が眠っていないだろうか? 探してみる価値はありそうだ。

 リオナとオクタヴィアが煉瓦の壁を撫でている。

「なんもなーい」

「ないのです」

 ふたり揃って楽しそうに尻尾を振っている。

 とんだアトラクションだった。

「誰か使う?」

 振り返り、声を掛けると、ひとりだけ元気に挙手をした。

「誰も使わないなら…… わたしが使いたい」

 ご執心だったからな。

 地上戦では力不足を感じていたようだし。普通のパーティーなら焦がれる戦力なのだろうが、うちは他と違うみたいだからな。

 他に意見がないようなので『ブリューナク』をナガレに預けた。問題は召喚獣に使えるのかということだったのだが。

「変わったのです!」

 リオナがカードを見て声を上げた。

 みんながナガレの召喚カードを覗き込んだ。

 絵柄が『ブリューナク』を持った姿に変わっていた。

 早速、ナガレは矛を振り回し、感触を確かめている。

 まるで生まれたときから振り回しているような見事な矛捌きだった。

「残りの敵はまかせて頂戴」

 ナガレが声高らかに宣言した。

 お前が頑張ると魔石の消費が増えるんじゃないのか?


 言葉通りになった。

『ブリューナク』は恐ろしいほど強力な武器であった。出会う敵、出会う敵を五本の矛先から発する雷撃で仕留め、灰に変えていった。しかも狙いを外さない。まるで意思でもあるかのように追尾までする優れものだ。

 言葉とは裏腹だったのは魔力の消費量だった。

 ナガレ自身が使う水魔法より遙かに控えめに済んでいた。どうやら倒した相手から魔力を吸収する術式まで刻まれているらしい。なんとナガレの減った魔力もこれで補えるというから驚きだ。

 ナガレにとってまさに至れり尽くせりの武器だった。


『ブリューナク、両手、片手矛。腕力増加。雷撃(最大五本)、魔法増幅、魔力吸収、障壁貫通』


 ただ、欠点がある。魔力を吸収された相手は魔石になると吸収された分小さくなることだ。

 後日分かったことであるが。

 結局、迷宮探索では屑石を出す程度の敵にしか役に立たないというジレンマに陥った。火力がありすぎて皮も焼いてしまうしな。譲って正解だった。


 ここまで来ると、敵もいないことだし、出口に出てしまった方がいいと言うことになった。

「プルートなのです」

「三匹。でっかい」

 うちの索敵班が報告してくる。

 すると突然、ピタリと止まった。

「何かいるです」

「隠れてる」

 確かにプルートが三匹闊歩するなかに、何かがいた。数は六。

「冒険者か?」

 僕たちは足を止め、しばらく状況を見守った。が、状況は一向に進展する様子がなかった。

「どうする?」

 自分たちの姿が見えていないと思っているのか、反応がない。が、狩りをしている様子でもない。

「他の冒険者がいるなかで隠れている方が悪い。ここまで待って意思表示がないとすると悪意があると思われても仕方ないじゃろ。遠慮する必要はない」

 アサシンだった爺さんがいうんだから、構わないんだろうが、ただ、冒険者だとすると瞬殺するのは忍びない。

 なので警告を一発入れてからということにする。当然プルートにもばれてしまうが、同時進行で潰すことにする。念のために、接近は控える。

 と言うことで、警告とプルート殲滅が同時に行なわれる。

 警告は僕の氷魔法だ。冒険者であろうと魔物であろうと足止めさせて貰う。

 有り得ないと思うが、もし接近してくるようならナガレの雷撃。最後は爺さんとリオナが相手する。結界は常時展開。プルート殲滅はアイシャさんに一任する。

 僕たちは魔力を高める。

 僕が先に発動すると凍結させた相手を衝撃波で破壊することになりかねないので、慎重を期す。

 臨界状態で、アイシャさんの一撃が命中する瞬間を待つ。

 相変わらず見えない衝撃が突然、プルートたちを襲った。

 一瞬で頭を粉々に吹き飛ばした。

 続けて二匹目と三匹目が崩壊する。三つの巨体が崩れ落ちた。

 隠遁していた敵が攻撃してきた。意外な反応だった。

 僕は結界ですべての攻撃を防ぎ、お返しに氷結魔法を叩き込んだ。

 反応が三つ逃げた。距離がありすぎて魔法では捕らえきれない。

 僕たちは逃げた三つの何かを牽制しつつ、捕まえた獲物に近づいて正体を探る。

 さっきは魔法を使ってきたようだが。属性がよく分からなかった。

 凍った現場を確認する。すると、隠れていた者の正体が分かった。

「道理で属性が分からなかったわけだ」

「迷宮で光魔法とは想像が及ばなかったの」

「死んだの?」

「凍ったというより衝撃の煽りで気絶したようだな」

「ふう、聖騎士の斥候部隊がこんなとこで何やっておるんじゃ?」

「めぼしい物はなかったのです」

「ないなーい」

 プルートの装備を回収していたリオナと爺さんとおまけの猫が戻ってきた。

「これ貰っていいですか?」

 リオナが聖騎士の鎧を指差した。

「死んでないから、駄目だ。取りあえず氷を溶かすぞ」

 全く世話の焼ける。

「ほんとに何してたんだか」

 僕は炎を手に取り、残りのみんなは周囲を警戒した。すると下の階から大勢上がってくる音がした。

 僕たちは臨戦態勢を取った。

「あー、やっぱり、みんなだったのね」

 聖騎士団を引き連れてきたのは外套姿のロザリアだった。そして枢機卿姿のカミールさんだった。

「どういうつもりか知らんが、隠遁して待ち伏せなど、殺されても文句言えんぞ。エルネストがお人好しじゃなきゃ、今頃全員あの世行きだったぞ、ロザリア」

 アイシャさんが叱責した。

「ナガレがブリューナクの雷撃食らわしても、黒焦げだったのです」

「アイシャ殿が手加減しなければ、それ以前に方が付いておったぞ」

「わたしがそんな無謀なことさせるわけないでしょ!」

「まさかうちの斥候部隊の隠遁を見破るとはな」

 カミールさんが嘆いた。

「何言ってるのよ。彼は『サーペント・デローロ』殲滅にも参加してるのよ。見えてもおかしくないでしょ?」

 一行がざわめいた。

 ロザリアさん、それは一応機密事項なんですよ。

「で、あんたたちはこんな所で何してたの?」

 アイシャさんがロザリアに突っ込む。

「それがね。ピア・カルーゾに逃げられちゃったみたいなの」

 僕たちが凍り付く番だった。

「誰じゃ?」

 ナガレがリオナに尋ねた。

「教皇を暗殺しようとした悪い魔法使いなのです」

「なんでエルーダなんかに?」

「彼女の片腕を奪ったのは誰だったかしら?」

「まさか、逆恨み?」

「そのまさか。わたしたちがスプレコーンの冒険者だと知ってるわけだし、この辺りの冒険者が集まりそうな場所はそう多くないでしょ」

「彼女のギルド記録から過去にここの攻略をしていることが分かってな。その記録を頼りに網を張っていたわけだ」

「つまり彼女が最後に攻略したフロアーが地下二十六階近辺だった?」

「三十年も前の話だがな」

 僕たちは見張りを残し、脱出ゲートから外に出た。

「早く戻らないと、町が危ない」

「そっちは大丈夫だ。『ヴァンデルフの魔女』殿に頼んでおいた。今頃警戒態勢が取られているはずだ」

「犯人、意外に、あきらめが悪かったようだな」

「年貢を納めたと思ったんだけどね」

「おー、いたいた、エルネスト君」

 そこに現れたのは、エルーダギルドのギルマス、リカルドさんだった。

 珍しい。今日はいたんだ。

「相変わらず、君は厄介ごとを運んでくるね」

 一通の手紙を渡された。

 僕は受け取って、宛名を見たが何も書かれていなかった。

「子供がついさっき持ってきたよ」

 僕は封を切ってなかの便せんを取り出した。それはピア・カルーゾからのものだった。

「果たし状だ……」


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