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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第二章 カレイドスコープ
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フェンリル2

「お揃いです」

「……」

 どういうことだ…… 

 僕はリオナとお揃いの装備を手にしながら立ち尽くした。

 店主曰く、そこらの冒険者が一生掛けても手に入れられない秀逸な一品だという。当然僕のレベルではチート装備ということになる。チートとはこの場合、勇者が使う必殺技の名前ではない。『異世界召喚物語』において他人も呆れるほどすごい程度を指す専門用語だ。たぶん。

 とにかく、ドラゴンに踏まれても大丈夫なほど強固な装備らしい。強化の肝は使われている素材と、組み込まれている魔法陣だ。S級冒険者の前衛装備に最高位の魔法を付与した物に匹敵する性能を持っているらしい。

 地道に装備を揃える楽しみってやつが冒険者の一生にはあるはずだと僕は溜息をついて抗議する。

 リオナはその辺はどうでもいいようで、気にしている様子はない。彼女にとってはお揃いであることの方が嬉しいらしい。

 男女の違いはあれど形状はほぼ同じ。目立った違いは兜の耳の部分と、腰周り、尻尾隠しのために長めの草摺(くさずり)が彼女の装備には付いていることだ。

「エルリンの装備は戦闘スタイルがわからなかったので相談の上、物理防御と状態異常耐性を上げたオーソドックスなものになっています」

 リオナが自慢げに胸を張る。ぺったんこだけど。

「ちなみにわたしの装備は速さと魔法耐性を上げています。『当たらなければどうということわない』を地で行く品です。獣人は若干魔法耐性が弱いのでこちらも念のために上げておきました。ちなみにお値段はどちらもプライスレスです。値段が付けられないので、ミスリル鉱などレアアイテムと物々交換したです」

 妙な台詞はともかく、ずいぶん贅沢したものだと僕は感心する。というか呆れる。僕にしろリオナにしろまだ育ち盛りである。彼女に至ってはまだ十歳だ。こんな高価な出費をしても精々着られるのは二、三年。いくら姉たちが対価を出してくれたとはいえ、一言言っておくべきだろう。



 帰宅後、ギルドに向かうことも忘れて、僕は出資者に礼といっしょに苦言を呈した。

「それで明日死んだらどうする?」

「より強い敵と対することができれば上達も早くなるというものよ」

 居間でくつろいでいた姉さんとヴァレンティーナ様にみごとに一蹴された。

「余計な心配するより、この程度の出費笑って出せるようになることだな。それが男の甲斐性というものだ」

 富くじ当てても無理でしょ、普通。まったく新人冒険者をなんだと思ってんだ。ドラゴン相手に博打打ってる姉さんたちとは違うんだぞ。

「そういえば、弟君の実力まだ知らなかったわね。ちょうど防具も揃ったことだし、試してみましょうか? 今後のこともあるし、実力は把握しておきたいわ」

 今後って何?

「それもそうだな。魔法も開花したようだし。実力の程を見てやろう」

 しまった。藪蛇だった。



 僕とリオナは早速、新品の鎧を着込んで魔物狩りへ行く羽目になった。

「さあ、行くわよ」

 街の外に出た僕たちは姉さんの出した転移ゲートを潜った。

 どこに続いているのやら、姉さんの常識は非常識。嫌な予感しかしなかった。

 王女様が付いてくれば、もれなくお付きの護衛も付いてくる。というわけでエンリエッタさんやサリーさんもいっしょだ。

 恥ずかしい。

 僕の実力はこのなかで最低レベルなのは間違いないのだ。しかも僕以外は全員女性。いいとこ見せたいのは男の勝手とはいえ、今後の沽券に関わりそうだ。せめて見学者は姉さんだけにしてほしかった。

 リオナは無邪気にはしゃいでるし、僕は不安で一杯だ。

「わたしたちは陰で見てるから、気にせずがんばりなさい。日没までに最低一匹は仕留めるように。では開始!」

 ヴァレンティーナ様の開始の合図と共にリオナが奇声を上げて森のなかに駆け出した。

「ええっ?」

 作戦の打ち合わせとかあるでしょ!

「こら、リオナ、勝手に行くなぁ!」

 僕は追いかけた。

 明らかにやばそうな森のなかを、奥へ、奥へとリオナは誘って行く。

 どうみても、アルガス近郊ではない。

 木々の隙間から見える山々には雪が積もっていた。空は高く、どこか肌寒い。

 リオナが茂みの陰で立ち止まった。

 僕は息を飲み込みながら彼女に近づいた。

 彼女はじっと背伸びをして耳を澄ましている。

 僕はそっと後ろに追従する。

「いました。獲物です!」

 楽しそうだな。散歩して貰ってる犬みたいだぞ。

「どんな獲物だ?」

「狼です」

「群れか?」

「いいえ、あの狼は群れません。強いから」

「強いんだ……」

「はい。がんばってください!」

「……」

 リオナは僕の顔を見つめて、両手の拳を握りしめる。

「リオナは?」

「わたしの仕事は索敵なので、ここまでです」

 道理で他人事だったわけだ。

「どのくらい強いのかな?」

「んー、自分で戦ったことないのでわかりません。以前住んでいた村でも子供は偵察ぐらいしかさせてもらえなかったので」

 さすが獣人。子供のときから狩りの手伝いか。てか実力のわからない敵を僕に当てるのか?

「何人ぐらいの大人で、どうやって倒したか、覚えてるか?」

「二十人ぐらいの槍持ちで囲んで、木の上から毒の弓矢で倒しました」

 僕はめまいを起こしそうになった。

 そんな大物をひとりでなんとかしろと? 

 リオナ、君もなのか? 君も頭のネジが一本どっかいってるのか? 常識ってもんがあるだろ? ない? いやあるはずだ、獣人にだって…… なんでキラキラした目でこっち見てんだよ。お前の未来の旦那様はただの凡人だぞ。何度も繰り返すけど、こちとらビギナーだ! デビュー一ヶ月の新人冒険者だ! どいつもこいつも、頭のなかどうなってやがる!

 くそっ! そんな化けもんどうすりゃいいんだよ。

 そうこうしているうちに、獲物は僕の『認識』にも引っかかる距離まで近づいてきていた。

『フェンリル レベル三十、オス』

 フェンリル! 

 エルーダの迷宮でパーティーを全滅させた相手。その野生版。

 僕は死にかけていた男やパーティーの亡骸を思い出して身も心も一瞬で凍りついた。

 

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