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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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エルーダ迷宮迷走中(スケルトンプルート・ワーグ編)10

 さて本日の予定はと尋ねたら、リオナとナガレは迷宮で狩りをすると言った。

「ご神体なのです」

 リオナは訳も分からず付いて行くようだ。どっちが使役されているのやら。

 きのうの地下二十五階層まで、祠に置くご神体をナガレは取りに行きたいらしい。ついでにレベル十まで上げるそうだ。なぜ十までなのかと聞くと、後で分かると言われた。

 ロザリアは実家に帰って、あれからピア・カルーゾの事件がどうなったのか、ことの顛末を、お土産のドラゴンの肉を届けるついでに聞いてくるらしい。

 アイシャさんは爺さんと久しぶりに香木フロアーの最高難度の宝箱に挑戦しに行くそうだ。狙いはもちろん開かずの扉の鍵である。オクタヴィアも連絡要員として一緒だ。

 僕も『エルーダ迷宮洞窟マップ・下巻』最初のフロアーを下見に行こうかと思っている。気になる敵を見つけたのである。練習相手にどうかなと。


 ナガレは顕現したまま、僕たちといっしょに振り子列車に乗った。さすがに頭の角は目立つので、リオナの帽子に穴を開けて角を通した。ナガレの帽子を後で買いに行く算段を楽しそうにしていた。

「どうせなら角も擬人化すればいいのに」と僕が言うと、一族の誇りだとかなんだとか言ってはぐらかされた。ユニコーンの角みたいなもんだと理解しておくことにした。


 現地でみんなと別れると、僕は二十六階層の依頼を確認しに行った。

 地下第二十六階層の獲物はレベルアップしたスケルトン群と、ワーグと呼ばれるゾンビハイエナである。そして僕の新たな先生候補、このフロアーの主役、スケルトンプルートである。

 情報では標準のスケルトンの身長の二倍以上もある巨大スケルトンであると紹介されている。巨人族のスケルトンではないかと言われている。長い得物を振り回す厄介な敵である。巨人族のパワーを持ちつつ、俊敏性も兼ね備えた奴らしいので注意が必要とのこと。装備はでかすぎて着られそうにないので材料にならなきゃ、放棄する方向でいくことにする。

 雑魚スケルトンはレベルアップした分、多少は期待してもいいだろう。戦闘も装備品もそれなりのものを期待する。

 ワーグから得られるものは何もない。『疫病』持ちなので、さっさと焼くのが最良だ。


 そんなわけで本日は修道院のアイテム保管業務のお世話になることになる。

 名札の配布をメアリーさんが片手間にしているので、一々修道院に出向かなくてよくなった。

 ゲート広場の詰め所で潜入前に事前調達しておく。

 荷物入れの頭陀袋も各サイズ売られているが、本日は猫がいない分リュックに空きがあるので自前の袋を多めに用意してきたので購入は見送った。



 地下二十六階は、相変わらずのカタコンベステージだった。

 じめじめして薄暗く、カビ臭くてどこか肌寒い煉瓦造りの空間だった。

 プルートのためだろう、天井高も道幅も今までより広く取られている。

 このフロアーの罠は毒と増援部屋のみである。


『エルーダ迷宮洞窟マップ・下巻』の最初の頁には前巻にはない前文があった。


『深部の情報は不完全なものであり、情報のみに頼るべからず。なればこそ後人のため、新たな情報を求む。報酬は重要度を判断の上、満足のいく額をお支払いいたします。冒険者ギルド協会』


 情報を呼びかけた宣伝だ。

 さすがにこの辺りのフロアーではまだ大丈夫だが、この本の巻末に行くに従い情報は少なく薄くなっていくのだ。上の二五階層でも、全て調べ尽くされていないようだったし、今まで以上に慎重に進まねばならないだろう。

 発見されていない罠もあるかも知れないという心構えで進むことにする。

 まずは探知スキルを発動する。アンデット相手に『生命探知』は効かないので『魔力探知』を使う。

 大丈夫、敵の姿は追えているようだ。

 取りあえず周囲の罠の確認をする。

 毒耐性はほぼ完璧なので仮に引っかかっても鏃や投擲ナイフの先が痛いだけで、結界を張っていれば問題ないはずだ。

 マップと照合しながらのんびり進む。今回はクリアーが目的ではないから、焦ることはない。

 前方の角の先に魔物の群れがいる。こちらにはまだ気付いていない。どうやら、大きさからいって味噌っ滓のワーグの群れのようだ。味噌っ滓だが、こいつらのおかげで恐らくこのフロアーにやって来る冒険者がいないのだと感じた。

 ここまで腐臭が匂ってくる。またリオナ辺りが泣くことになるな。

 僕の本日の第二のテーマ、隠遁スキル上げである。

 腰を落とし、ゆっくり近づく。アンデットの探知能力は『生命探知』と『魔法探知』のみである。後は空気の震動なんかを探知する触覚らしきものだけである。

 それっぽい動きをしているが、実は目も耳も機能していないのだ。

 隠遁スキルを磨く気がなければ、どうでもいい二次情報だが、今回は別の視点からしっかり調べてきたのである。

 異世界語録、『敵を知り己を知れば百戦殆うからず』だ。


 射程に入ったので遠距離からこっそり手前の一匹を燃やす。

 突然暴れ出した一匹は炎を振り払うべく首を振り、駆けずり回り、やがて膝をついて動かなくなった。強烈な悪臭を放つ。

 仲間たちが腐った耳をピンと張りながら周囲を警戒する。

 ううむ、気付かれていないようだ…… 修行の成果かスキルが上がってるのかな? それともあいつら死んで野生を失ったか…… 

 敵を探知できなかった奴らは、何ごともなかったように仲間の肉を食い始めた。

 うわっ…… 腐った肉を食ってるよ…… 壊す腹もないからいいのかもしれないけど、いつまでも見ていたい景色じゃないな。

 僕はちょうど群がっている奴らに火の玉をぶち込んだ。

 さあ、掛かってくるがいい!

 僕は剣を抜いた。あれ? あいつらまだ見えていないのか?

 あいつらには視覚も自慢の聴覚も嗅覚もない。故に『生命探知』と『魔法探知』で敵を見つけているはずなのだが、こちらがまだ見えないというのか? 僕が死んでるとかじゃないよな。

 ゆっくり近づくがまだ気付かない。

 ようやく一匹が身の危険を察知したようだ。

 僕は殺気を殺して、意識を集中する。

 奴はまたこちらを見失った。

 うわぁあああ。隠遁スキル怖いわ。ここまで寄れるのかよ。そう言えば魔力探知の訓練のとき、すぐそばにいた姉さんに気付かなかったもんな。

 僕は剣でワーグの首を刎ねた。

 そして後悔した。

 感触が…… 気持ち悪い。生きた獲物を斬った感触じゃない。

「駄目だ。近接禁止だ」

 僕は残りのワーグを慎重に魔法で仕留めていった。

 合計七匹、周囲を闊歩していたワーグを全部燃やし尽くした。仲間が燃えていれば気付きそうなものなのだが。本当にこちらが見えなかったのか?

 喜ぶには検証が足りないな。

 斬った剣を拭うのも憚られた。周囲を探して布を探したが、あるわけもなく、魔法で洗浄と浄化を施した。やはりゾンビは最低だ。

 みんなと来たときには有無を言わさず焼却して通り抜けるとしよう。


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