エルーダ迷宮迷走中(ナガレ編)8
「早速召喚するのです」
船に戻ると、午前中取ってきた水の魔石(中)を使ってリオナはナガレを召喚した。
「アンタバッカジャナイノ! サッキワカレタバッカリナノニ、ナニヨビダシテンノヨ」
現れたのはさっき見た少女だった。荘厳さが消えて、口が悪くなっていた。レベルと一緒に精神も幼くなったのか?
魔物の姿じゃないんだ。
「船引っ張るです」
「デキルワケナイデショ。オオキサミナサイヨ。イマノワタシニデキルワケナイデショ。モノゴトニハゲンカイッテモノガアルノヨ」
「随分口数が多い召喚獣だな。こんなんありか?」
「クチカラウマレタト、ハハニイワレタコトガアル。タブンソノセイダロウ。ソレト、チジョウデショウカンスルト、コノスガタニナルカラ、チュウイシナサイヨ。コノスガタジャ、クチカズイガイ、トリエナインダカラネ」
なんて奴だ。
「セッカクショウカンシテモラッタンダカラ、スコシシュギョウシテクルワ。デグチハココカラデテ、ミギテノシマノヒダリワキヲ、マッスグイッタトコロニアルカラ」
そう言うと海にドボンと飛び込んだ。
僕たちはなんとか船を洞窟から出すと、言われた通り、右に曲がり、目の前の島の左側を抜けるコースを取った。
帆に風が当たった。
ナガレは偉そうなことを言った割にはしっかり付いて来ていて、道中、魚たちを狩りまくっていた。
「あれギミックだろ? レベル上がるのか?」
僕の疑問にロメオ君も首を捻る。
僕は探知スキルを使ってじっくり水中を眺めるとギミックではない生命反応を感じた。
「ギミックじゃないのがいる!」
「ほんとに?」
ふたりで水面を覗き込む。
「でも深いな」
もしかしてここの深海にはまだ何かあるのかも知れないな。誰も到達できていないだけで。というより興味がないのか?
「そういえば魔石一つでどれくらい召喚できるんだろう?」
ロメオ君が素朴な疑問を口にした。
そう言えばそうだ。自分で魔力消費するなら感覚的に分かるけど、魔石じゃどうなんだ?
「分かるのです」
カードを見ると水竜の絵の周りに輪っかが描かれていて、その輪っかが光っている。輪っかは三周。それが召喚できる時間を現わしているようだ。
「で、一周はどれくらいなんだ?」
リオナも首を傾げる。
実際召喚してからの減り具合を見ると結構長いことが分かる。一時間は持ちそうだ。
でも魔石(中)で一時間は長いのか、短いのか……
レベルが上がったら消費量も上がるのだろうか? 将来を考えると何かしら対策が必要になるかもしれない。
出口のある島に辿り着く頃に合わせてナガレが帰ってきた。
「地上に出るから一旦戻るのです」
「ワカッタワ。ジャア、マタアイマショウ。ツギニアウトキハ、スコシセイチョウシタワタシガミレルワヨ。ソレカラ、イイワスレテタケド、カードニタメタマリョクハキエナイカラネ。ジカイニクリコシ、ガデキルカラ。ツカイキルマデショウカンシテオコウトカ、カンガエナクテモイイカラネ。クズイシデモイイカラ、ヒマナトキニデモ、チャージシテオイテヨネ。ソレト、イチドチャージシタモノハヘンキャクデキナイノデアシカラズ」
そう言って彼女は消えた。
「落ち着きが足りないのです」
リオナは言われた通り、持ってる魔石でチャージした。なるほど輪っかは三周以上しないようだ。小さい石をまとめられるのは有り難いな。他の属性も使えたらもっと便利だったのだが。
利益らしい利益もなく、敵らしい敵もいない、エルーダ迷宮攻略史上、もっとも手応えのないフロアーを僕たちは後にした。
思った以上に時間がかかったようで、空には星が瞬いていた。
「やばい、早く帰らないと、アンジェラさんたちが心配する」
僕たちは解体屋とギルドに寄り、急いで精算を済ませると一目散に撤収した。
ロメオ君とも別れ、玄関に着いた僕たちはドアを開けた。すると姉さんが待ち構えていた。
「遅いッ!」
どうやら火急の用事があったらしい。我慢して待っていたところを見ると、余程のことらしい。
「どうかしたの?」
「内乱が起きた」
既に情報を聞いていたアンジェラさんとエミリー以外は皆目を丸くした。
「内乱?」
「トゥーストゥルクの各地で奴隷たちが蜂起したらしい」
「ほんとに?」
「国王の退位も決まった今、奴隷解放は必須では、争う理由はないはずでは?」
ロザリアも口を挟んだ。
「それがそうじゃなかったようだ。奴隷制度のある国では奴隷が財産に該当することは知ってるな?」
僕たちは頷いた。
「彼の国の奴隷たちは大型商船の漕ぎ手と港の人足、それと農奴が大半だ。つまり奴隷を所有しているのは領地持ちの貴族と船主の商人たちということになる。では奴隷制度が廃止されると知ったら、彼らはどんな手に出ると思う?」
「そりゃ、持っていたら捕まるんだから、解放するでしょ? 違うの?」
ロザリアが言った。
「まさか殺すんじゃ!」
「奴隷は財産なのよ。殺したら元も子もないじゃないの」
「転売する」
僕が答える。
「その通り。財産なんだから。価値がなくなる前に現金に変えてしまうのよ。馬鹿正直に解放したら損するだけでしょ?」
「そんな! 奴隷制度が存在する国に転売されるっていうの?」
「当然、奴隷たちにも家族がいる。掴みかけた自由と引き替えに一家離散では、割に合わない。当然、ふざけた雇い主に対して報復ということになる。結局、歯止めは掛からなかったと言うことだ」
「で、それがうちとなんの関係が?」
「大ありだろ! あの国の奴隷たちにこの町がどう見られているか、こないだ教えたろ?」
聖獣の住む町、獣人たちの聖地。
「そうだった……」
確かに、これは不味い状態だ。
「だから迎えに来たんだ。これから会議だ。長老たちも既に行ってる。後はお前待ちだ、急げ!」
僕は装備を脱ぎ捨てると、姉さんに引っ張られるまま家を出た。
「拡張決定ですか?」
「決定よ。ユニコーンの了解も取ったわ。ただし条件を提示されたわ」
「条件?」
「同等の面積、森を広げること」
この場には長老たちを始め、各部署の責任者、商会の代表が列席していた。その全員が顔を見合わせた。
「今年、新事業としてミコーレとの国境に空中庭園都市を建設する予定があることは知っていると思います。同時にその水源を利用してユニコーンたちが森の拡張を行なうことも」
全員が頷く。
「その拡張面積に比例して町の外壁を拡張する許可を取り付けました。今回は緊急事態なので前借りということになりますが」
「それで足りるのですか?」
「彼らの提示した面積は、我らの予定した面積の五倍に当たります」
全員がぽかんと口を開けた。
「五倍ですか?」
「街道周辺のミコーレとの緩衝地帯がほぼなくなる勘定になります」
「さすがユニコーン、スケールがでかいことだ」
「ミコーレ側にこのことは?」
「知らせました」
「その分水源の確保はなんとしても成功させなければなりません。幸い、エルネストのおかげで水の魔石の確保にメドが付きました。備蓄も順調に進んでいます。更なる入手ルート開拓のため、他の迷宮にも人員を配しましたので、いずれよい結果が出るものと期待しています」
「つまり、町の拡張は可能と言うことですな?」
「開発計画より大分早いですが、ここに第二城壁建造を宣言いたします」
僕たちは拍手した。
「まず緊急に、南側を拡張します。それから西、最後は北側になります。東側は高台なのでこれ以上の拡張は行ないません」
姉さんが地図を開いた。
「今回も南北の街道に沿って、東側を獣人のエリア、西側を人族のエリアと定める」
「堀や川の流れはどうするんですか?」
「取りあえず現行のままだ。城壁完成後、新たな堀に引き込むことで、水量の調節を行なう。最終的には川幅を狭めて運河として活用する。護岸を工事して区画の整理も合わせて行なう」
「エルネスト」
「はい」
「どうする?」
「何がですか?」
「獣人の土地をお前が買うかと言ってるんだ」
「お金あるの?」
僕は姉さんの突っ込みを質問で返した。
「今度の土地は見ても分かるように以前より広いし、壁の向こうということもあって管理が難しくなる」
「壁に道を通すのは?」
「外側の壁ができてからになる。それまでは南門だけだ」
「よろしいでしょうか?」
ユキジさんが手を挙げた。




