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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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エルーダ迷宮迷走中(ヒュドロス・セベク編)5

「ヒュドロス討伐だーっ!」

 意気込んでやって来たエルーダ村で僕は挨拶回りをしていた。

 遅まきながら修道院の教会でひとり礼拝し、お布施を払う。

 改装中の建物は去年最後に見たときと余り変わっていなかった。

 営業はうまくいってるようで「コンスタントに収入を得ることができるようになった」と院長もほくほく顔であった。新調した真新しい修道服が古風な景色から浮き上がっている。子供たちも相変わらず健在だった。

 僕たちが送った書籍のおかげで、子供たちも有意義な冬籠もりができたと感謝された。


 解体屋に挨拶を兼ねて、去年の年末の精算をして貰い、ギルドの依頼を消化した。

 セベクの高級鰐皮の枚数は前回の一.五倍ほどで金貨二百五十枚を超えた。新年早々、ギルドの受付嬢のマリアさんも呆れている。僕も若干呆れている。

「君には新年のご祝儀は要らないわね」とあっさり言われた。

 今回の獲物、鰐をも飲み込む肉食系水蛇、ヒュドロスに関する依頼だが、ないね。ほんと水エリアの魔物は不作だわ。と金貨二百五十枚を稼いだ僕が言ってみる。

 ゲート広場にはいつもの門番さんとシスターメアリーがいたので新年の挨拶を交わした。

 ちょうどゲートから非達成エリアの帳尻合わせをしていた女性陣とロメオ君が戻って来た。

 オクタヴィアがいない。

「猫は?」

「いるわよ」

 全員が僕の後ろを指差した。

「はーっ、落ち着く、指定席」

 僕のリュックのなかに潜り込んで、首だけすぽんと出した。

「蛙、びっくりした。あれ反則」

「なんだ一戦したのか?」

「遠くにいるからと思って、調子にのって挑発したです」

「食われたか?」

「前もって聞いてたから大丈夫。僕もびっくりしたけどね」

 久しぶりのロメオ君である。外套は僕と同じ青色を表に着ている。同志だ……

「この外套格好いいよね」

 僕とは嗜好が違うようだ。

「じゃあ、行こうか?」

 第二十四階層突入である。


 相変わらず鬱蒼とした湿原地帯だった。

 ただ、今回の沼は今まで以上に透明度がない。完全に泥沼だ。

 ここのメインの住人は前のフロアー同様、セベクである。ただし、セベクはここでは餌である。ヒュドロスの胃袋を満たすために存在している。勿論襲ってもくるんだが。

 これが情報では厄介だと言われている。

 セベクとヒュドロスはこのエリアにおいては天敵同士であるらしい。セベクは集団でヒュドロスを狩り、ヒュドロスはセベクを圧倒的な力で駆逐するのである。

 そこに何も知らない冒険者が現れ、セベクをプスリとやる。

 セベクは仲間の血の臭いで寄ってくる習性がある。そして大量に集まったところには巨大な水蛇も現れるわけだ。

 冒険者を交えて三つ巴の大乱戦になるらしい。見てみたい気がする。

 であるからして、このエリアの攻略方法はすべて無視することである。

 泥沼は視界も悪いし、近づくのは厳禁だ。一匹倒せばどうなるか、先日のリオナとの狩りが証明している。ただ鰐皮が欲しいなら上の階に行くべきである。

 兎に角、敵を避けひたすら安全な道を進むのだ。


 とは言え、それで納得する連中じゃないんだよね、うちの連中は。

 今朝の上がり、金貨二百五十枚の情報は既にリオナとの質疑応答でばれている。

 高級鰐皮に関する関心の高さは目下急上昇中であった。

 リオナと僕は辟易としていたが。やるなら仕方がない。

 そこで、例しに遠距離攻撃してみた。泥沼一個に落雷攻撃である。

 セベクがプカプカ浮いた。

 ここまではいい。問題は解体だ。

 そう思った瞬間、ザッバーンと水柱を上げて、でかい何かが、仕留めたセベクをぱくりと食った。水面に腹から落ちてまた波しぶきをぶちまけて水のなかに消えていった。

「雷、通じなかった?」

 そのようだ。

 それにしても丸呑みとは……

 あれなら血が出ないからな。なるほど天敵だ。

 でも、それじゃ面白くない。

「あの辺りに隠れているのを一発よろしく」

 僕はリオナに草むらに隠れているセベクを狙撃して貰った。

 解体し、転送する頃には周囲の状況は変わっていた。

 残った心臓を水蛇のいる沼に放り込んでやった。

 その間に僕たちは消臭を済ませて距離を置く。

 僕たちに近づいて結界に貼り付いていた奴らがやがて進路を変え始める。

 全員興味津々で眺めている。

「エルリン、悪魔の所行なのです」

「誰が悪魔だ」

 何かに気付いたセベクが一斉に沼に飛び込んでいく。

「おおっ!」

 水面が大きく揺れる。

「くるぞ」

 ザッバーン。ヒュドロスが顔を出した。

 近くで見るとさすがにでかい。

 二メルテ以上もあるセベクを丸呑みするのだからその巨大さは知れよう。

 そのヒュドロスがのたうち回っている。沼の水が溢れて減るわ、減るわ。セベクはどんどん増える。ヒュドロスの丈夫な顎や四肢の爪にかかって死ぬもの、押しつぶされるもの、ことごとく血まみれだ。

 僕たちは結界のなかで死んだセベクを解体し、転送する。今更血の臭いなんて気にしない。

 結界の外ではヒュドロスが善戦していた。

「セベク弱すぎるな」

 ぐるぐるとぐろを巻きながらセベクを締め上げるヒュドロス。一振りする尻尾で屯してるセベクを引き剥がす。

「まさに天敵」

 ヒュドロスの身体が大きいせいでセベクの歯が立たないのである。かろうじて二の腕のたるみ辺りに食い付くが、神経が通っていないらしく、ヒュドロスはお構いなしだ。それでも痒いのか身体をよじって地面と擦り合わせると、セベクが昇天している始末である。

「そろそろセベクが品切れなのです」

「了解」

 僕は銃を取りだして最後の一匹がヒュドロスに討たれるのを待った。

「ご愁傷様」

 僕は『魔弾』をヒュドロスの頭にぶち込んだ。

 巨体がズシンと大地に沈む。

「楽勝だったな」

「弾、無駄遣いしなかったのです」

 人数もいるから解体もはかどる。

 ほとんどが圧死なので皮は無事だった。

 

 移動して、ヒュドロスを探す。水深の深いところにいるようでなかなか見つからなかった。

 というわけで餌で釣る。

 沼のほとりにいるセベクに落雷を加えてしばらく待つ。

 するとズルズルと隠しようのない巨体が現れる。

 よし、戦闘再開だ。リオナが発砲してセベクを仕留める。

 セベクが集まり始める。

 ヒュドロスが水中に戻ろうとするが、なぜかそれをしようとしない。

「なるほど」

「戦闘準備じゃ!」

 アイシャさんも気付いたらしい。

 周囲の沼の水面が一斉に揺れた。かと思うと巨大な柱が何本もそびえ立った。

「これで囲んだつもりかの?」

 アイシャさんが近くにいた一匹の首を吹き飛ばした。

 ロメオ君が続いた。そしてロザリアが新しい魔法を披露した。光り魔法の光の槍(グングニル)、武器と同じ名を冠した中級魔法である。まさに手に持つ『グングニル・レプリカ』サイズに匹敵する大きさの強化版光の矢である。こちらも一撃で頭を吹き飛ばした。

 そしてリオナの『ソニックショット』である。

 僕の分は残っていなかった。全部殺すとセベクを倒すのがいなくなるから。

 セベクの団体さんがやって来る。

 僕たちは下がって、再び解体作業に勤しんだ。

 前回同様、ヒュドロスが生き残ったが、今回は刺し違えたようで、戦い終ると地面に崩れ落ちた。

 僕の背中からオクタヴィアが飛び出した。

「終った?」

「おい、馬鹿!」

 まだ終ってない!

 突然、ヒュドロスが大口を開けてオクタヴィアを襲う。猫の見事な反射神経で後方に回避する。

 ヒュドロスは僕の結界に阻まれ、全員の一撃で頭が吹き飛んだ。

 耳のいいリオナやアイシャさんに掛かれば、狸寝入りなど無意味だ。心臓の鼓動や、脈の音が生きていることを証明する。ロメオ君にロザリア、僕でも魔力の減衰具合ですぐ分かる。

 ドポン。

「……」

 耳がいいはずの猫が泥沼に落ちた。


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