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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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餅つき4

「母さん!」

「ドラゴンの部位を使ってることまでは突き止めたのよ」

「何言って……」

「ドラゴン一匹から第一世代なら二隻、第二世代なら一隻できるわ。それ以上は言えない」

 姉さんが答えた。

「どうすれば安くなるかしら?」

「第一世代ならドラゴン一匹。第二世代は売りものじゃないけど、どうしてもほしければドラゴン十匹と交換よ。お金は要らないわ」

「第二世代というのはドラゴンに瞬殺された船ではなくて?」

 あぅ、今、心臓に杭が……

「運用してたのは第一師団よ。扱えもしないくせに建造途中の船を徴発してくれて、ブレスの的にしてくれたのよ。完成すればドラゴンとだって互角にやれる船だったのに」

「その根拠は?」

「新型の結界よ。乗ってるクルーの能力次第だけど、強度、速度、船の性能的には問題がなかった。攻撃手段は王との取り決めで用意できないけど、エルネストがいれば充分でしょ?」

 そんな取り決めあったんだ。そりゃそうか、銃にも制限掛かってんだから。

「武器は搭載できないの?」

「設置型でなければ制限はないわ。スキルや魔法ならご随意に。重量があるからそもそもバリスタは無理だしね。銃は銃自体に改造制限掛けられてるし。でも問題ないでしょ?」

 そりゃ攻撃手段ならヴィオネッティーには最高のものがある。僕のとは形は違えど『魔弾』がある。

 どちらかというと船を運用するための魔力の方が心配だ。魔石で補うことになるだろうけど、ブレスを防ぐとなると、一回の防御で魔石(大)一つの消費は覚悟しないといけないだろう。金貨四、五十枚が湯水の如く消えてなくなることになる。

「ドラゴン討伐なら、船なんて要らないと思うけど?」

 確かに父さんたちには不要だろう。

「棺桶にならないか心配してるのよ。ドラゴンに勝てても、高いところから落ちたら死ぬのが人でしょ?」

 母と娘の会話じゃないな。獣人たちも気を利かせてそっぽ向いてくれてるよ。

「ドラゴン十匹は高すぎない?」

 母さんが食い下がる。

「言ったでしょ、売り物じゃないって」

「第一世代で充分だと?」

「初期型でもワイバーンとコカトリスまでは討伐できたわよ」

「足りないわ…… 領主として保証が欲しいのよ」

「ドラゴン二匹と第二世代の性能を加味した一・五世代でどうかしら? 足回りの強化と結界を強化したものだけど」

「逃げ切れるの?」

「重量が軽い分、第二世代より速くなるわ」

「お前はどう思う?」

 突然、親父が僕の背中にのしかかってきた。

「獲物によって武器や防具は変えるものでしょ? 問題は何を狩るかで、性能じゃないんじゃないの? 強い敵に練習用の剣は使わないし、弱い敵に『魔弾』は使わないでしょ?」

「『魔弾』しか使えん者もいる」

「加減はするでしょ? こっちが提示できるのはドラゴンと空中戦を本気でやる気なら、覚悟しろってこと」

「フッ、フハハハハ」

 親父は突然、僕の背中を思い切り叩いて笑い出した。

「いいだろう。その改造型を取りあえず三隻貰うことにしよう。物資搬送用に第二世代も欲しいところだが、それは気長に待つさ」

「姉さん」

「分かったわ。『ビアンコ商会』に発注掛けとくから。ドラゴン六匹分だからね。討伐部位の話は後でしましょう」

 今度は姉さんの肩を叩きに親父は向かった。姉さんが必死に逃げる。商談成立らしい。

「なんでこんな面倒なことするんだよ」

 さすがに僕も不満の一つも言いたくなった。

「船を買うお金がないのよ」

 母さんがぶっちゃけた。

「それでも、王命は下るのよ、「西に行け」とね。兵士を空手で前線に送れないでしょ? あんたたちにお金を借りたんじゃ、中央の思惑通りになっちゃうしね」

「どういうこと?」

「ヴァレンティーナ様の息の掛かった領主たちがこの町に借金を作るということは、この町の潤沢な運用資金を一時的にでも凍結してしまうということになるのよ。ひいてはスプレコーンの発展に影を落とすことになるわ。中央の連中はこの町の急速な発展を危惧しているのよ。せめて自分たちの思惑が働く程度の進展に抑えたいと願っているの。でも南部の貴族はそうじゃない。魔物の侵攻を阻止するために、私財をなげうち、強力な軍隊を編成し、領地をなんとか維持している。うちは一族だから、人件費は限定できるけど、他は違うわ。優秀な兵士を囲うとなるとそれ相応の軍資金がいる。南部には経済的なカンフル剤が必要だったのよ。戦い続けられるだけのね。スプレコーンは王家が長年苦労して、やっと導き出した答えなのよ。中央の資金は思うように回せないけど、独立採算でやってくれとね。そのための拠点がスプレコーンなのよ。見す見す中央に取り込ませるわけにはいかないわ」

「舐められたもんね」

 姉さん?

 あれ? 親父は?

 姉さんの向こうで、水樽に座って頬をさすっていた。顔面に一発食らったようだ。

 まったく、何やってんだよ。

「この町はその程度で発展を止めたりはしない! 来年はもっと加速する! ヴィオネッティーは南部の防衛の要なのよ。借金の一つや二つが何よ。背負ってやるわよ!」

 あーあ。言っちゃった。

「じゃあ、お姉ちゃんの借金でもう二、三隻買おうかしら?」

「なんでそうなるッ! 無理に借金しろとは言ってないだろ!」

「余ってるんでしょ? 貸しなさいよ」

 僕は溜め息をつく。

 攻守逆転。言質を取られた姉さんは結局、母さんに言いくるめられるんだ。母さんはわざと姉さんに聞こえるように話してたんだよ。

「なんでああなるかな?」

「お姉ちゃんは身内に甘いからな」

 確かに頼られると断われない姉御肌だけどね。

「ていうか、親父……」

 拳の跡が頬に残ってる。女性にお触りして殴られたスケベ親父みたいだぞ。

「実際、どうなんだ? 余裕あるのか?」

 その親父が聞いてきた。

「姉さんはどうか知らないけど、僕の方は余裕あるよ。第二世代造る?」

「お前、自分の船を造り直すんだろ?」

「再来月になるかな」

「一度乗せてくれんか?」

「そうだね。対価に見合うか、自分の目で見て確かめた方がいいよ」

 僕たちの視線が、容姿が瓜二つの姉妹のような親子に向けられる。

「止めんでいいのか?」

「やだよ。親父が行ってよ」

「俺は今殴られたばかりだ。お前が行け」

「ったく、もう……」

 僕はふたりの元に歩み寄ろうとした。そのとき、「ケンカは駄目ですよ。仲良くしなさい!」とふたりを諭す、真っ赤なつなぎ姿の小さな女の子。

「チコ?」

 僕が周りを見ると、トビ爺さんが笑って頷いた。

 長老が仲裁に寄越してくれたようだ。

 僕は小声で「ありがとう」と礼を言った。

 姉さんと母さんもさすがに幼女に諭されたら黙るしかなかった。

 僕はチコの頭を撫でた。

「もうお餅食べたか?」

 チコが振り返った。

 ボンボンのついたニット帽を被った姿が可愛い。

「若様、こんにちは。お姉ちゃんの分も貰っていい?」

「いいけど、お姉ちゃんは?」

「お母さんと買い物に行ったの。もうすぐ帰って来るよ」

「だったら出来たてがいいんじゃないか?」

 チコは餅つきをしている方を見る。

「なくなんない?」

「まだ大丈夫」

「じゃ、お姉ちゃんが来るまで待ってる」

 その後、チッタが現れて、ふたりは仲良くつきたてのお餅に有り付いた。

「そういや、テトたちは何してるんだ?」

「小遣い稼ぎに雪かきしてる」

「ん? お金に困ってるのか?」

「スノボーやりたいから旅費を稼ぐんだって」

「小遣いあるだろ?」

「家族に渡しちゃってるからないんだって。お小遣いはちゃんと貰ってるみたいだけど」

 そういうことか。

 僕は三人の分のお餅を届けてくれるようにチッタに頼んだ。他にもまだ食べていない子がいたら、声を掛けるようにとも言った。何も言わなくてもリオナたちが一緒に付いていった。


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