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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち

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やり過ぎた、そのあとで3

 雪が降った。

 朝目覚め、窓の外を見ると、世界は白く塗り変えられていた。

 寝室から家具一つない自室のリビングに出ると、なおさら寒々しく感じられた。

 早々になんとかしないと、只の物置小屋になりそうだ。

 僕は着替えを済ませると自分の部屋を出た。

 予想通り、両足は筋肉痛である。

 階段の手すりに身を任せ、ゆっくりと階下に降りていく。

 アンジェラさんたちもまだ眠っているようだ。

 喉が渇いたので水を飲むために食堂に向かう。

 居間のコタツの前を通ると、子供たちがスヤスヤと眠っていた。テーブルの上にはミカンの皮が散らばっている。

 結局、泊まり込んだのか。

 いくら雪が待ち遠しいからって。ここで降っても、ヴィオネッティーの領地で降らなきゃ意味ないのに。

 今日は子供たちと買い物に行くことになっていた。ヴィオネッティーのスノボーのお店に。雪が積もっていれば少しだけ滑ることにしていた。

 オクタヴィアの小さなコタツを探すと、中身が空だった。

 子供たちがうるさかったのか、今夜はご主人の所で眠ったようだ。

「この雪だと、ユニコーンも苦労するな」

 そういや、温泉付き温室はどうなってるんだ?

 ユニコーンの子供たちがやって来る前に様子を見に行くことにした。

 今日辺り温泉につかりたい子も多かろう。

 長い渡り廊下を行くと東屋と道場への分岐に差し当たる。

 足元の池の水面だけが雪に埋もれず清らかな水をたたえていた。

 東屋で雪見酒などあの三人にお似合いかも知れない。渡り廊下の屋根に積もる雪を見て思った。コタツもあるし、今度勧めてみようか?

 異世界ではこういうのを風流とか言うんだよな、確か。

 渡り廊下は本宅の南北と、ガラスの棟と取り壊された旧家を頂点とした口形に設けられている。その中心をギルド本部、東屋、道場と南北に横断する廊下が交差しているのである。池の中央に東屋があり。その池の周りを渡り廊下が囲っているわけだ。

 今まで使われていなかった北側の廊下をそのまま真っ直ぐ進むとガラスの棟の専用出入り口に突き当たる。

 旧家のあった方に曲がり、建物の脇を通り抜けると、獣人村へ至る道へと続く裏門がある。

 門の先、旧家を取り壊してできた空き地は、キックベースのグラウンドとガラスの棟の利用者のために、そのまま正面広場として活用されている。

 馬車道もロータリーもそのまま使えるので、馬車置き場としても利用されている。

 ユニコーンの朝の散歩も今ではここが集合場所になっていた。

 グラウンドは雪ですっかり埋まっていた。

 そのグラウンドの横道を獣人村の方に下っていくと滝壺へ降りる坂道が見えてくる。

 滝の裏手の洞窟は獣人村の備蓄倉庫兼ユニコーンたちの待避所だ。

 その洞窟に回り込む道に新しい道が続いている。

 その道を進む。グラウンドの地下を通り、温室に至る道だ。

 天井が明るい広い谷間に出る。

 ここが、温室である。谷間の天井には弓なりに梁が渡されていて、その間にガラスが張り巡らされているのである。天井から光だけが差し込んでくる。雪は室内の熱で溶かされ積もる様子はない。

 部屋の突き当たりに湯気が立ち上る場所がある。ガラスの棟のすぐ隣り、周りからは見えない窪地にユニコーンが浸かれる広々とした温泉がある。

 湯船はただなだらかな傾斜だが、最深部は大人のユニコーンが浸れるほど深くなっていた。

 温泉が女神像のレリーフの壺から流れ落ちている。

 天井は今は開け放たれ、木々の枝には雪が僅かに積もっていた。

 なんというか妙に落ち着く。

 差し込む光で十分明かりが採れている。暖房せずとも温泉の熱で十分温かい。

 これがまさか、城壁のなかとは。

 でも行き止まりは駄目だ。いざというとき逃げられなくなる。非常用の通路をどこかにつなげた方がいいかもしれない。

「姉さんと要相談だな」

 ユニコーンのサイズに合わせているせいか、兎に角でかい。狭さなど微塵も感じない。

 地下だというのに却って開放感がある。

「そういや、姉さんたちはいつ帰ってくるんだ?」

 僕は明るくなってきた空を見上げ、急ぎ道を引き返した。


 我が家の裏口というか、広場に戻るとユニコーンと獣人の子供たちでごった返していた。

 やって来たユニコーンたちの背中には雪が積もっていた。獣人の子供たちはそれを一生懸命ブラシで払っている。

『草風』がいた。久しぶりだな。妹ちゃんも少し大きくなったかな?

「おはよう『草風』、妹ちゃん」

『草風』はただ頷いた。

『おはようございます』

 僕はふたりの雪を払ってやった。

「温泉にはもう入ったか?」

『散歩終ったら入ります』

 リオナたちがやって来たので、その場を譲り、僕は朝食を食べに戻った。

 僕は帰りがてら、既に馬車に乗せられている本日の配達品を眺めた。

 そのなかに一際大きな木箱が幌に覆われてあった。

「なんだろね?」

 配達伝票を確認する。

 僕は目を丸くする。咄嗟に自分の姿を木箱の陰に隠した。

 なっ、なんでここにッ? 

 昨日の今日じゃないか! どうやってここに持ち込んだんだ?

 そこのあったのは我が家宛の大きな木箱だった。

 送り主はルノアール・アシャン、爺ちゃんである。

 肉だ。アイスドラゴンの肉……

 昨日魔法の塔に置いてきた物が、なんでここに?

 ここでばれたら大変だ。村中の獣人の子供たちがいる。絶対見つかってはいけない。

 幸い、木箱から匂いは漏れていなさそうである。

 それにしたってこの量…… 多すぎるだろ? 肉屋じゃないんだから。

 僕は足早にその場を去った。

 この場にいない方がいい。知らんぷりして、アンジェラさんに対応を任せよう。

 僕は急いで、家に戻った。

 爺ちゃん、どうやって運ばせたんだ? 僕がやったのと同じ方法で自分で届けに来たのか? それなら訪ねてきそうなものだ。

 どんな方法をつかったのかは知らないが、魔法の塔恐るべしである。

 それにしても、どう言い訳するか?

 うまくやってくれてるよね、爺ちゃん?


「おはよー」

 出迎えてくれたのはオクタヴィアだった。

「寝癖付いてるぞ」

 僕はちっこい頭を撫でた。

「ごあんできてる」

 上着を脱ぐと食堂の自分の席に着いた。

 子供たちも食事をしてから行ったらしいな。

 食べ終わった食器がまだテーブルに残っていた。

 エミリーが急いで食器を下げる。

 アイシャさんが、紅茶とパンケーキ、スティックサラダに卵焼き、腸詰めと生ハムを持ってきた。

 今日はセルフか?

「散歩から帰ったら、ボードを買いに行くとみんな息巻いていたからの。食事も先に済ませたようじゃ」

 アンジェラさんがオクタヴィアと僕の分を運んできてくれた。

 玄関の呼び鈴が鳴らされ、子供たちの配達がやって来た。

 木箱を運んできたのは、他ならぬリオナと妹ちゃんであった。

 よくもまあ、でかいのを選んで運んできたものだ。

「持てないのです」

 どうやら僕への催促らしい。

 僕は魔法で箱を玄関のなかへ運び込んだ。

 妹ちゃんの記録伝票にアンジェラさんがサインをする。

 荷台を下ろして、そのままリオナは妹ちゃんを家に招き入れた。

「こっちなのです」

 どうやら自分の部屋を見せようというのだ。

 エミリーがバケツサイズの野菜スティックを持って、リオナの森のなかに消えた。

 アンジェラさんとアイシャさんの興味は残った木箱に移った。

「誰宛だい?」

 ふたりともまた誰か家具を買ってきたんだろうという調子で箱に接触した。

「ルノアール・アシャン? 誰じゃ?」

「知ってるかい?」

 アンジェラさんが僕に尋ねた。

「僕の遠縁の爺ちゃんだよ。姉さんのお師匠さんで、現王宮筆頭魔道士」

 ふたりは木箱に釘付けになった。

 僕はニンジンスティックをかじった。

 オクタヴィアも短く切ったスティックをカリコリかじりながら、こちらの様子を伺う。

「ここで開けていいのかい?」

「どうぞ」

 どうせその大きさじゃ保管庫に持ち込めない。切り分けないといけない。玄関でやることじゃないが、部屋のなかでやるのもね。

「これって……保管庫よね?」

 僕は食堂の席を立って、玄関を覗いた。

 ふたりはバールを持って木箱を解体していた。

 やがて苦労の末、解体が終るとなかから出てきたのはやはり保管庫だった。一般家庭でいうところの標準サイズより一回り大きめ、一メルテ四方の金属の箱だった。

 ふたりは蓋を開けようとする。

 そこで僕は大事なことを思い出した。

「ちょっと待ったーっ!」

 僕はふたりを制止して、保管庫を食堂に運び込んだ。

 そして周囲を確認して扉を閉め、食堂全体に消音と消臭結界を張った。

「なんです?」

「何をしておる?」

 僕は保管庫の蓋を開けた。

「なっ?」

「なんじゃ、これは?」

 やっぱり肉であった。

「ドラゴンの肉だ。一杯ある!」

 オクタヴィアが瞳を輝かせながら叫んだ。お前サラダ食ってたんじゃないのかよ?

「でも、こないだのとちょっと違う」

 どんだけ鼻が利くんだお前は。

「アイスドラゴンの肉だからな」

 アンジェラさんが箱のなかを覗いた。

「あら? ご丁寧に小分けされてるわね」ということで手分けして地下の保管庫に肉を運び込んだ。器代わりの保管庫も捨てるのが勿体ないので、台所において再利用することにした。

 すべてが片付くと、食いかけの冷めた料理に手を付ける。

 せっかくの美味しい料理が。

「どういうことじゃ?」

「アイスドラゴンって姫様たちが今討伐に向かってるんじゃないのかい?」

 僕は昨日の出来事を最初から話す羽目になった。


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