帰還と新居とまどろむ猫2
翌日、材料を揃え、みんなが座れる大きさのコタツを作ることにした。
まず櫓を作る。
作ると言っても、出来合いのテーブルの天板を剥がして、脚を切り落とし、長さを調節しただけだ。
櫓の中央に梁を渡し、この間貰った小さな暖房器を取り付ける。そして火傷防止のための耐熱性の枠をはめる。
その上から全体を覆うように掛け布団を掛ける。そして最後に天板を載せる。
「これでよかったはずだよな」
僕は一番小さい屑魔石を天板に空けた穴から入れて蓋をする。
それを毛皮のもふもふ敷物の上に載せて……
「なんなの?」
「床に座るのはどうかと……」
布団のなかが赤々と燃える。
段々温かくなってくる。
「オクタヴィア、どうだ?」
返事がない。
布団の隙間から鼻だけ出して寝込んでしまった。
ゴン! リオナが天板に頭をぶつける。
みんながびっくりするなか、オクタヴィアも這い出てきて様子を伺い、何でもないと確認するとまたなかに戻って行った。
おでこを抱えて床に転がったリオナもしばらくするとまたうとうとし始める。
「なんなの?」
ロザリアもアイシャさんもアンジェラさんもサエキさんも罠の掛かった宝箱でも見るかのような顔をして、遠巻きに見つめている。
「極楽なのです」
「極楽ですね」
リオナの隣に座っていたエミリーも欠伸をした。
それから一時間後、全滅である。
魔石が切れて、ようやく皆まどろみから解放される。
「これは、人を堕落させます」
ロザリアが宣うが、口元に涎の跡が。
オクタヴィアはすっかり気に入り、自分のテリトリーにしようとしたが、女性陣に逆に排除された。
理由は踏みつぶしそうで危ないからだそうだ。
仕方ないので専用の小さめのコタツを作ってやった。
その日から我が家は土禁になった。
聞きつけてやってきた子供たちや、長老たちが軒並み犠牲になった。
そして書斎の鍵を持ってきた姉さんも。一張羅を着込んだまま転がっていた。
死んでるのかと思ってびっくりした。
姉さんは起き上がると言った。
「商品化決定!」
あっという間にスプレコーンの家庭の必需品になってしまった。
結果的に備蓄していた火の魔石も放出することになってしまったが、火鼠ならいつでも狩りに行けるので問題ない。
目下、噂は同領地の獣人の里にまで波及している。
本格的な冬が来る前に、みな争って買って行く。
店の前にいても、百個あった在庫が一瞬で捌けるのを見た。
やがてアルガス、ヴィオネッティーへと波紋は広がり、さらに周辺の領地へと。
コタツはこの冬、空前の大ヒットを迎える。
「お呼びでしょうかー」
僕は棒読みで挨拶する。
領主館の執務室に四人掛けのコタツが置かれていた。
やっぱり、あったか……
机を脇に寄せ、床の半分を嵩上げして、毛皮やクッションを敷き詰めた土禁スペースが作られていた。
コタツの向こう側からのっそりと普段着のヴァレンティーナ様が姿を現わした。
寝転んでコタツで書類整理をしていたらしい。
「とんでもないものを発明してくれたわね」
「売り出したのは姉さんですよ」
「気持ちよすぎて、執務が前に進まないわ」
「隣の椅子に座ればよろしいのでは?」
「できないから、こうしてだれているのよ」
コタツの上には書類の束が……
「半分はコタツが手に入らないからなんとかしてくれという陳情よ」
「よかった、実質執務は半分だ」
「火の魔石がこの分だと足りなくなりそうなのよね」
「小さな石でも使えるから、冒険者ギルドにでも依頼を出されては?」
「もう出してるけど、そういうことではないのよ」
「自分の分だけがめようとか?」
「人をなんだと思ってるのよ。在庫の確認よ」
「店子の分はありますよ」
「そう。それは助かるわ。それならこちらも買い付ける分で賄えるわね」
「商会がなんとかするんじゃないんですか?」
「火の魔石の値段が高騰してきているのよ。こうなると商人は上がりきるまで放出しないわよ。だから早めに確保しておかないと、住人に尻を蹴られると言いたかっただけよ」
「コタツ様々だな」
「値上がると思われただけで、値は上がっていくものよ。後手を踏んでいるようなら、忠告しようと思ったんだけど」
「今のうちに稼げと?」
「言ってないわよ、そんなこと! それより、報酬が決まったわよ」
「現金?」
「よく分かったわね。いろいろ考えたけどいい案が浮かばなかったそうよ。ただ、広がった領地の開発で現金が要りようになったから、わたしに立替えておいて欲しいそうよ」
「金額は?」
「依頼料とは別に、ひとり金貨百枚。少ないけど」
「了解。それで火の魔石を購入して、転売すれば……」
「嫌われるわよ」
「止めときます」
「ところで――」
「手伝いませんよ」
「最近、勘が鋭くなったわね」
さて、帰国早々やることができた。
マッチポンプだが、火の魔石を今のうちに確保しておくことにする。狩り場は地下六階、火鼠がいいだろう。数だけは多そうだからな。
「誰か一緒に来るか?」
「帰ったばかりじゃないですか?」
「動きたくないのです」
「砂漠はこたえた。休養が必要じゃ」
全員にパスされた。万能薬たらふく呑んでる癖に。
全員コタツでくつろいでいる。
「しまった、こりゃ完全に藪蛇だ」
余計な物を世に送り出してしまったと、僕は後悔した。




