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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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高速馬車で行く、ミコーレ砂漠の旅6

「どこから話そう、やはり最初からがいいかな」

 砂嵐後の天候は砂、時々、砂であった。

 黄色い砂塵が宙を舞い、相変わらず日差しは通らなかった。まるで四方を磨りガラスに囲まれているような憂鬱な天気だった。

 御者台にはリオナと話し相手の黒猫が座っていた。

 荷台にいなくても会話が聞こえるふたりが適当だと判断されたからだ。一番長話に向かない飽きっぽいふたりに任せたとも言える。

 リオナは全身を一枚の布で覆って、現地人と遜色ない格好をしていた。この天候では砂を浴びているのと変わらないのだから仕方がない。結界が使える人間に御者台を任せれば、防げることではあるが、今はみんな会話に集中したいのでふたりには悪いが、しばしの我慢である。

 夕食、ふたりには肉を奮発してやろうかと思う、とアイシャさんとわざと聞こえる声で話す。

 オクタヴィアの方は相変わらず氷のなかにいた。捕虜になっていたガッサンの妹を見つけ出した作戦の功労者として、現在、氷でできた小さなマイホームのなかでくつろいでいた。氷の表面があっという間に砂だらけになって何も見えなくなってしまうので、結局頭だけは出しているのである。

 ハンカチでほっかむりしている姿は、愛らしいやらおかしいやら、みんな笑いをこらえるのに必死である。


「最初の接触は、中央広場での召喚獣の暴走事件だった。ロメオ君も一緒だったが、まずここで疑問が沸いた。それは『これは本当に暴走なのか?』ということだった」

 僕はロメオ君の顔を見た。

「僕も変だなと思ったんだけど、それがなんだったのか……」

「まず一つ目は、暴走という割に被害が少なすぎたことだ。サイクロプスが暴れたというのに石畳が壊れただけだなんて、奇跡以外の何物でもない。広場に軒を並べる店主たちの日頃の行いがそこまでいいとはとても思えなかった。現実を見てしまうと『運がよかった。こんなこともあるのだろう』と無条件で信じ込みたくなるけど、僕はそれでも納得が行かなかった」

 僕はガッサンを見つめた。

「第二に、サリーさんたち守備隊に追われて、術者が現場から離れたにも関わらず、僕たちが破壊するまで召喚獣が消滅しなかったことだ。これは第一の暴走理由と明らかに矛盾する。お父さんから召喚獣を譲り受け、誤って暴走させてしまった。未熟故の暴走のはずが、相当距離を置いても顕現を維持できるほどの力量を持った熟練者の犯行ということになる」

 全員の視線がガッサンに注がれる。

「僕は、この犯人の目的が分からなかった。暴走を故意に起こしたくせに、町は壊したくないというのか? 一番わかりやすい理由は、誰かに脅され、不本意ながらやらざるを得なかったというものだ」

「なるほどね。最初から疑われていたわけか」

 ガッサンが腕組みをした。

「サリーさんの訪問が決定的だった。あのとき、サリーさんはこう言った。『君の船は改修中。姫様の船は修理中。商会の船はロールアウトまでまだ数週間かかる』とね」

 工房に普段からちょくちょく顔を出しているロメオ君はすぐ分かったようだ。

「一番艇の修理はとっくに終ってる……」

「そう。もっと言えば二番艇もロールアウトして今は専用ドックだ。会長の訪問に合せてフライトテストを行なうため目下準備中だ」

「サリーさんが嘘を言った?」

「まあ、そういうことだね。最初はサリーさんの勘違いかなと思って、『ビアンコ商会』に顔を出したんだけど、棟梁にも同じこと言われたよ。工房には改修中の僕の船と、建造中の船だけで、一番艇も二番艇もなかったのにだよ。つまり陸路で行けというお達しだったわけだ」

「でも、なんでそんな面倒なことを? 普通に話せばいいのに」

「ガッサンが何者かに脅されていたとしたら、当然脅した側の人間がいるとは思わないかい?」

「まさか、町に?」

「そもそも魔法学校を卒業したてで十四歳。盗賊に追われていて、重い荷物を搬送しなければならない。まるで僕たちをピンポイントで誘っているようじゃないか? 僕が暴走に遭遇したのも偶然じゃなかったのかも知れない」

「偶然だよ。捕まる必要があったってだけだ」

「でもそのときの僕たちは、君の後ろに誰かいると考えていた。それもリオナたちの索敵に引っかからないほどの手練れがね。領主館は元々結界で保護されているが、うちは違う。だから今更内緒話をするのに消音結界を張り巡らすと、こちらが警戒していることを察知される恐れがある。敵側に作戦が滞りなく進行していると思わせるためにも陽動は必要だしね」

「次は妾が話そう。すべてオクタヴィアからの伝聞じゃから、どこまで本当かは知らんがな。領主はすぐにお前たち家族の素性を洗った。じゃが、一つだけ調べても分からないことがあった。それは実家で留守番しているはずの長女の行方じゃ。そもそも息子のためにわざわざ異国まで迎えに来る過保護な両親が、幼い娘を置いてくるというのはどういうことかの? 兎に角、領主はお前たちを被害者として扱うことに決めた。そして敵のシナリオ通りに動くこともな。我らが陸路を行き、敵を引き付けておる間に、領主は先回りをして、ミコーレ側と接触、状況を探ることになったわけじゃ。そして浮かび上がったのが、デボア卿を始めとする反体制派だったわけじゃ」

「領主側はトントンことがうまく運んだようだけど、僕たちにその情報が来たのは大分後になってからだ。砂漠に入ってからも僕たちは敵が誰だか知らなかった。それに君のことも信じていいのか曖昧だった。確信が持てたのは、砂漠蜥蜴に襲われた日の朝だ。あの朝、君は徹夜したことを僕に隠さなかった。もし君が本気で僕たちを嵌める気なら、君は寝ている振りをしていたはずだ。でも、君の行動は自分を見つけてくれと言わんばかりの行動だった。実はね、あの夜は気付いたリオナがずっと見張っていたんだよ。何もかもリオナは見ていたんだ」

「道理で欠伸を連発していたわけね」

 ロザリアが苦笑した。

「結界を張るときにリオナちゃんかオクタヴィアにはばれるはずだと思ってたんだよね。ふたりを出し抜いた奴がいるのかと思って最初心配しちゃったよ」

 ロメオ君が言った。

「段取りはすべてあいつらが付けていたんだ。僕がすることも監視していた。あのキャラバンのなかに手下がいたんだ。あいつらは助けるべきじゃなかったんだ」

「人数が減ってたんだよ」

「え?」

「あのキャラバン、最初休憩所にいたときより、ひとり減ってたんだよ。多分、カムフラージュのために相乗りでもさせて貰っていたんだろうさ。君の監視役とはあの休憩所で既に別れていたんだろう。君が無事仕事をしたことを雇い主に知らせるためにね」

 無関係の人たちを巻き込み掛けたことにガッサンは少なからず衝撃を受けているようだった。

「僕たちがミコーレの街道から道をそれたのは、あの渋滞のときだ」

 僕は構わず話し続けた。

「僕たちの進行が早すぎたんだ。砂漠蜥蜴で時間を稼げると思っていた彼らは面食らった。だから当局に目を付けられるような、あんな騒ぎを引き起こすしかなくなったわけだ。恐らくフェミナの通過時間を砂嵐の時間帯に合わせていたんじゃないのかな。視界が利かない間に、道をそらす算段でもあったんだろうさ」

「渋滞を起こしていたあの場所は二股になっていたんだよ。あそこにはでかい看板があるんだ。看板がなかった頃はよく道を間違える人がいたらしい。ミコーレ方面の道は谷間の風の関係で砂溜まりができやすくてね、それに引き替え、脇道の方はきれいで広いから、一見しただけだと本道を見間違うんだ」

「あそこを過ぎれば一本道じゃし、砂漠の景色は素人目にはどこも似たり寄ったりじゃ。リオナが奴らの会話を聞いていなかったら、ゴールまで誰も気付かなかったじゃろうよ」

「でも砂嵐にはさすがに困ったよ。何せ僕たちを追ってきているはずの飛空艇が足止め食らうこと確実だもんな。あの夜、飛空艇は嵐を避けて徹夜で大変だったんじゃないかな」

 全員よく越えてきたもんだと感心した。そしてせっかく修理した船も、砂嵐で傷だらけになっているに違いないと、同情を込めて笑った。

「廃村があることに気付いたとき、僕たちは探索を開始した。冒険者の癖って奴かな。魔物が潜んでいないか、まず確かめないではいられないんだ。でも、そのおかげでいくつかのことが分かった。ひとつは聖堂のなかが覗けないこと。二つ目は周囲に隠れている連中がいること。そして聖堂裏の厩舎に少女がひとり捕らえられていることだ」

 ガッサンがまじまじと僕の顔を見つめた。


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