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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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高速馬車で行く、ミコーレ砂漠の旅1

すいません、予約設定まちがいました。

 お母さんは全員にお茶を出すと窓口業務に戻っていった。

 親父さんと爺さんは留守のようだ。

 しばらく見ないうちに依頼書も増えたな。さすがに物騒な獲物はユニコーンが倒しているだろうから、ランクの高いものはなさそうだけど。地元の仕事をしないというのもなんだしな。

 僕たちは雑談コーナーのテーブルに陣取った。

「それじゃ、君たちは召喚するところを見ていたんだね?」

 子供たちは全員頷いた。


 年の頃は僕やロメオ君と同い年ぐらいの異国風の少年だったらしい。

「両親と故郷に帰るところだ」と語ったその少年は、知り合った彼らに「自分の友達を見せてあげる」と言ったそうだ。

 そして彼はサイクロプスを召喚して見せた。が、暴れて制御を失ってしまったと言う。

 うちのヘモジは大丈夫なんだけど、レベルが低かったからかな?

 取りあえず被害が中央広場の石畳ぐらいで済んでよかった。

 全員の氏名が記録され、僕たちは一応開放された。


「結界のせいじゃない。術者の力が足りなかったんだ」

 居間に姉さんがいた。

 お茶と一緒に、オクタヴィアの肉球を型取ったクッキーをかじっていた。

 あー、それオクタヴィア専用の特製魚の骨粉入りクッキー……

 アンジェラさんの方を振り返ると、アンジェラさんも平気でかじっていた。

 姉さんは犯人が検挙されたことをわざわざ教えに来てくれたのだ。

「そういうもんなの?」

 召喚できたということは従えていることではないのか?

「お前も持ってるらしいな。出してみろ」

 いくら何でも家のなかでヘモジは無理だから。

 僕は外に出て、いつでも落とし穴に落せる場所でヘモジを召喚した。

「ナーナナー」

 相変わらず緊張感ない奴だな。しわがれ声でもう可愛くないぞ。

「ナ」

 僕の顔を見る。どうやら命令を待っているようだ。

「ほお、トロールか、珍しいな」

 姉さんが感心する。

 せっかく出てきてくれたヘモジには悪いが、開放して、部屋に戻った。

「なんともなかったろ?」

 姉さんは部屋のソファーに身を投げ、そう言った。

「暴れた原因は? 普段は普通に召喚してたんだろ?」

「普段は彼の父親が従えていたらしい。今回旅の身の安全のためにと、息子に預けていたらしい」

 息子はそれをちびっ子たちに自慢したくて召喚したのか。

「処罰は?」

「子供がしたことだしな。保護者に壊した物の弁償と罰金のみだ」

 姉さんが紅茶を啜る。

「そのクッキーおいしいの?」

「ちと硬いが、猫にはちょうどよいだろうな」

「知ってたんだ」

「別に毒が入ってるわけじゃなかろう?」

「そりゃそうだけど」

「ところで、水の魔石の件だがな」

「売れた?」

「そう簡単に売れるか!」

「だよね」

「これを見てくれ」

 僕は一枚の大きな紙を見せられた。紙の裏地に布が張られて補強されている。

 大事な文献なのかな?

「カルタビアーノの空中庭園だ」

 その完成図のようだ。

「これと魔石がなんの関係が?」

「ミコーレ側との国境の砦にどうかと思ってな」

「はぁあ?」

「実はな。ユニコーンの頼みでな」

「ユニコーン?」

「我らとの共闘で、闇蠍も減って、森の脅威も少なくなったろ? 今年の冬を子供たちが越せれば、頭数も増える。砂漠に対してユニコーンたちはこれまでずっと守勢だった。森が浸食されないように維持するだけで手一杯だったんだ」

「攻勢に転じたいと?」

「森を育てるのはユニコーンの本能だ」

「それとどういう関係が?」

「水だ。幾ら森を広げたくとも植物には水が必要だ。ユニコーンは国境周辺に水源を確保したいと考えている」

「幾ら特大の魔石でも一時凌ぎでしょ?」

「水の精霊が居着けば、泉が湧く。何年かかるか分からないが、やってみようかと思う」

 森が育てば大地が水を蓄えられるようになる。堆積した落ち葉が大地を肥やし、生命の溢れる場所になる。

 姉さんが頭を下げた。

「頼む。教えてくれ」

「地下二十一階、センティコア。大きめの奴じゃ」

 アイシャさんの声が後ろからした。

「ハイエルフは姉上の案に賛同する」

「獣人も賛成するのです」

 リオナが言った。

「断る理由はないよ、姉さん」


 姉さんは珍しく、しおらしくして帰った。

 オクタヴィアは自分のクッキーが減っていることに抗議したが、新しいのを焼いて貰うことで矛を収めた。

 お前、生地をペッタンできるのが楽しいだけだろ!

「お金じゃないんだから、溜め込んでも意味ないぞ。食わなきゃ腐るんだから」

「ちゃんと食べる」

 手で蓋を固定して、尻尾でポンポン叩いて閉める。器用な奴だ。

「騒ぎがあったみたいですね?」

 ロザリアが皿に残っているクッキーを摘まんだ。

「もう治まった。召喚獣の只の暴走だよ」

「物騒なことがあるものですね」

「スイーツはどうだった?」

「美味しかったのです。甘い栗なのです」

「あのクリームというのは新食感でした」

「生クリームを冷やしながら攪拌するんだ。生クリームっていうのは――」

「なんで知ってるですか!」

「なんでって、教えたの僕だし」

「えーっ!」

 リオナが声を裏返して驚いた。

「何驚いてんだ? ふたりは僕の実家でデザートたらふく食ったろ?」

「あ」

 リオナとロザリアが昔を思い出したようだ。


 厨房からクッキーの甘い香りがしてくる頃、誰かが玄関の扉を叩いた。

「サリーなのです」

 リオナの予言通り、来客はサリーさんだった。

「いらっしゃい」

「先ほどは助かった」

「いえ」

「いい匂いだな」

「今クッキーを焼いてるんですよ」

「焼きたてですよ」

 お茶と一緒に焼きたてのクッキーが出てきた。

 オクタヴィアはひどい裏切りにでもあったかのように膝を突いて項垂れた。

 もうちょっと猫らしい反応しろよ。

「オクタヴィアちゃん、生地余ってるからペッタンもう一回しようか?」

「やる!」

 すくっと立ち上がると目を輝かせてエミリーと厨房に消えた。

 やれやれ。

「先ほど、捕まえた少年だが、少々問題が起きた」

「なんでしょう?」

「彼は今年魔法学校を卒業して、両親とミコーレに帰る予定だったらしい」

「魔法学校? ということは貴族か何か?」

「まあ、そうなるな。問題はその荷物だ。魔法関連の書籍が荷馬車に満載とのことだ」

「後輩たちに置いてくる物では?」

「ミコーレは魔法に関しては我が国より後進国だ」

「学校で閲覧できる程度の情報なんて精々中級まででしょう?」

「それでも貴重だ」

 サイドテーブルの傍らに投げ出されている上級の希少本に目が行く。

「兎に角、修繕費用と罰金の手続きでしばらくこの町に残って貰うことになった。只、荷物は先行させたいらしい」

「なんで?」

「盗賊に目を付けられたらしい」

「うわっ、一番知識から縁遠い連中だ」

「砦で追い返せないんですか?」

「日数的に既に入り込んでいる可能性が高い」

「だったらなおさら、しばらく町にいたら?」

「修繕費と罰金を何で捻出すると思う?」

「それは……」

 まさか!

「書籍を売った代金?」

「できれば本国でと言うのがあちらの意向だ」

「馬車でミコーレは遠いですよ」

「フェミナじゃ駄目なの?」

「どの道一週間以上掛かるよ」

「飛空艇は?」

「君の船は改修中。姫様の船は修理中。商会の船はロールアウトまでまだ数週間かかる」

「砂漠越えか……」

 地下二十階層を思い出す。あれのリアル版だ。

 正直二の足を踏む…… でも……

 護衛任務は冒険者の仕事でもある。

「馬車を改造するか。砂漠越えできる豪華デラックス仕様に」

「やってくれるか?」

「依頼料は頂きますからね」


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