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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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薪集め秋祭り5

 午後の試合が始まった。

 今回は審判が付いて、番号が入った旗が用意されている。

「仕事早いな」

 僕はオクタヴィアを狭間に乗せて、午前と同様、特等席で観覧である。長期戦に備えて今回は水筒を持参した。

 オクタヴィアの隣で狭間の石の上に肘を突いて下を覗き込む。

 オクタヴィアが高所の風に吹かれて心地よさそうにしている。

 リオナがこちらに手を振った。

 僕は手を振り返す。食い過ぎたお腹も大丈夫のようだ。

「がんばれよー」

 人には聞こえないがリオナには十分聞こえている。

 リオナは大きく頷いた。

 隣にいるでかい図体の虎族は……

 オズロー一家?

「あいつ非番か?」

 助っ人はオズローとその母と妹である。

 どうやらリオナたちは分業制を取るらしい。薪集めはリオナとロザリアとエミリーとロメオ君と子供たち。それとアイシャさんだ。運搬はオズロー。舟の積み込みはお母さん。妹さんはふたりのサポートだ。

 他のチームは酒場の常連で結成された『酒場親父の哀愁チーム』や、子供たちだけで編成された『森の王様子供チーム』、中央広場商店街のおばちゃんたちがこぞって作った『中央広場美女軍団チーム』。そして優勝候補、サリーさん率いる『守備隊女性チーム』である。他の三チームはご近所さんを集めた仲良しご近所混成チームだ。

「興味深い」

 どんな結果が出るのか楽しみだ。

 因みに午後の部からは賭が行なわれる。始めたのは言わずと知れたこの町の責任者と手下の魔女だ。

 うちのチームの下馬評は意外にも高かった。勝負とは関係なく、アイシャさんやロザリア目当ての親父票と、リオナの信者、獣人様御一行による組織票だ。

 順位は『守備隊女性チーム』、『酒場親父の哀愁チーム』、『中央広場美女軍団チーム』そして『エルリンチーム』である。

 もうちょっといい名前なかったのかな……


 銃の発砲と共に二回戦が始まった。

 おおっ、新しい演出だ。

「執行部頑張ってるなー」

 各チーム、一斉に森のなかに散っていった。

 うちのチームは、お母さんだけを残して一斉に駆け出した。オズローが引く荷車に小さな子供たちが背負子を担ぎながら次々飛び乗る。

 観客のなかから黄色い歓声が。

 獣人の子供たち、かわいさ大爆発である。観客の女性陣が騒ぎ立てる。特に真っ赤な赤頭巾のチコが一番人気のようだ。

 リオナたちは後ろから荷台を押しながら枝を地面に刺していく。

 あれは一度通った轍を再利用するための目印らしい。

 事前の作戦を的確に実行中である。

 日頃の任務で培った土地勘だろう、オズローは薪を集める場所目指して、躊躇することなく突き進む。

 一チームごとに監視員が複数付いている。彼らは少し遅れた位置から荷車を追いかける。

 早いチームは既に背負子や荷台に積み込み始めている。

 見ているこっちが焦るばかりである。


 薪を舟まで持ってくるチームがちらほら現れる。

 子供ばかりの『森の王様子供チーム』は背負子を担いだ子供がひっきりなしにやって来る。が、成果は余り上がっていないようだった。

 本命の『守備隊女性チーム』が最初の荷車を運び込んで来る。そして荷台の荷物を置くとキビキビと全員が森に帰っていく。

 積み込まないの?

 みんな首を傾げる。

『酒場親父の哀愁チーム』と『中央広場美女軍団』がほぼ同時に荷車を引いてきた。

『酒場親父の哀愁チーム』は取りあえず薪の束を舟に投げ込んでいく。入らなくなると積み込み役を残して森に戻っていった。

『中央広場美女軍団チーム』は舟の脇に薪を並べていく。丁寧だが時間が掛かっている。

 うちのチームはと言うとまだ現れない。

 オクタヴィアも身を乗り出して森のなかを凝視している。

 大分遅れてやって来たオズローの引いた荷馬車が森から出てきたとき、どよめきが起こった。

 妹さんが付き添っている。

 一度できた轍をなぞるように戻ってくる。ゆっくりだが確実にを実践している。

 積み荷の量が半端ないことになっていた。こんなに積めるのかと言うぐらい、通常の三倍近い量を積んで戻って来たのだ。

「あれ、どうやって下ろすんだ?」

 予定されていたこととは言え、想像を超えていた。

 僕がした入れ知恵は一つ。重いものは下に、軽いものは上にの実践だ。重心をなるべく低くするようにとアドバイスしていた。経験則で分かっていることだが改めて徹底させた。

 そのためには束ねる薪を選別しないといけない。重いものから軽いものまで。

 妹さんが軽い身のこなしで薪の山の上に乗り上げると、ヒョイヒョイと薪を投げ下ろす。

 一旦地面に置いて、重いものだけ舟に積み上げる。軽いものは積まずに置きっぱなしである。

 オズローと妹さんはのんびりと荷台を引いて戻っていく。

 ここで変に体力を消費する必要はない。次の薪が集まるまでに着けばいいのだ。あれだけの量を運ぶのだ。力だけでなく神経も使っているはずだ。

 気分をリセットするためにも焦らないことだ。

 順位判定をする審判は困り顔だった。一回戦と違い二チームが薪を舟に積み込まないという行動に出たからだ。

 そうこうしていると『守備隊女性チーム』が戻って来た。そしてまた荷物を置いただけで戻っていった。

 少し遅れて『酒場親父の哀愁チーム』が、さらに遅れて『中央広場美女軍団チーム』が現れた。

『森の王様子供チーム』はマイペースだが、数人が遅れだした。すると遅れた数人は森に戻らず、舟に積み込む役の少年たちと背負子を交換した。

 どっちの仕事も大変そうだがな。

 一件順位は付きそうにないが、『守備隊女性チーム』が余裕でぶっちぎりのように思える。

 順位を分からなくしている最大の原因の我がチームは未だ二巡目がやって来ていない。

 全チームでお母さんが一番暇を持て余していた。

 そして他のチームが三巡目を終えて森に戻っていくとき、ようやく姿を現わした。

 他のチームはオズローの引いている荷車の積み荷の量を初めて目の当たりにして驚いていた。

 到着した荷車から、同じようにして荷物を下ろしていく。そして今度も重いものだけ積むと戻っていった。

 四巡目にして差が出てきた。既に一時間が過ぎようとしていた。

『守備隊女性チーム』のペースは変わらなかったが、『酒場親父の哀愁チーム』と『中央広場美女軍団チーム』は遅れ始めていた。

 アルコールの抜けた『酒場親父の哀愁チーム』は子供チームと変わらぬ足取りになり、『中央広場美女軍団』は、「やれ誰々さんの手が遅い」とか「指示が悪い」とか口喧嘩が勃発していた。

「やれやれ」

 子供チームは思いきって休憩を入れたようだ。勝負を捨てて、完走狙いに切り替えたようだ。

 それが功を奏したのか、休憩後は元のスピードに復活していた。子供の回復力恐るべしである。

『守備隊女性チーム』が動いた。荷物を舟に積み込み始めたのだ。

 これで順位が動いた。

『守備隊女性チーム』、『酒場親父の哀愁チーム』、『中央広場美女軍団チーム』『森の王様子供チーム』である。

一回戦の勝者『アルガス商店街主婦の会』のタイム、一時間三十四分に近づくに従って、観客たちもソワソワしだした。

 そして我が『エルリンチーム』が戻って来た。やっぱりやだな、このチーム名。

 その光景は度肝を抜くものだった。

 全員が森から出てきたのだ。全員が背負子を背負い、子供たちは楽しそうに手をつないでピクニックにでも行っていたかのように楽しげに戻って来たのだ。

 荷物を積み上げるだけになった。

『守備隊女性チーム』も戻って来た。

 積み込み合戦になりそうだった。

 ミスをしたのは『守備隊女性チーム』だった。薪を階段状に積んでいき、それを足場にして積み上げていくのだが、舟のバランスが悪くなってしまったのだ。並べ替えが必要になってしまった。痛恨のミスである。

 我がチームの勝利と思ったときだった。

 最後の一つを積み上げたにも関わらず、子供たちが船を降りないのだ。

 ロザリアが演台の上の時計を覗き込む。

『守備隊女性チーム』は必死に巻き返しを狙っていたが、それを見てこちらも手を緩めた。

 ロザリアが手を上げると両チームが同時にゴールした。

 一時間三十五分であった。

 これにより『アルガス商店街主婦の会』の優勝が決まった。

「なるほど、粋なことをする」

 リオナたちと『守備隊女性チーム』は同率二位になった。四位は『守備隊男性チーム』。特別賞は第二回戦三位になった『森の王様子供チーム』になった。

 会場が溢れんばかりの拍手に包まれた。

 襲撃事件で被害に遭ったアルガス商店街に優勝を譲った形になったが、誰からも異存は出なかった。

 若干二名を除いて。

 胴元がどう思おうとこちらも高額配当になって、沸き上がっていた。


 閉会式にあわせて僕も会場に出向く。

 商品が演台に持ち込まれる。

「ドラゴンステーキなのです!」

 ステーキ肉を前にうちの子供たちの尻尾が揺れる。

 ……。

 お前ら、二位の賞品ほしさにわざと二位になったのか?

 アルガスのおばちゃんたちを思ってのことじゃないのか?

 サリーさんも呆れ顔だ。

「一石二鳥作戦、成功なのです!」

 リオナを始め子供たちが胸を張った。


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