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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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薪集め秋祭り4

 ではなぜ、姉たちは僕の計画に乗ったのか?

 それは彼らが持ち込んだ薪がどこかにあるはずだったからである。

 獣人たちから手に入れた薪はあくまで薪不足を演出するためのもの。騒ぎを収めるために取りあえず必要な量の乾いた薪が持ち込まれているはずだった。

 姉たちにはその場所を突き止めるための時間が必要だったのだ。


 一週間ほど前、騒ぎが起こり始めた頃から、北の砦を通る行商人が増えてきていた。奇妙なのは彼らの積み荷がどれも荷馬車一杯の薪だったことだ。

 森に囲まれた領地に薪を売りに来るなど。最初は関所の兵もスプレコーンでは需要がないと説明していたが、ミコーレ側に抜けるからと説明されて引き下がらざるを得なかった。

 だが彼らが南に抜けたという情報はなかった。

 彼らはどこに行ったのか?

 街道の巡回は執拗だった。

 荷車にして十数台。スプレコーンから一日の距離の間を、ひたすら移動し続けていたのだった。

 祭りのために御触れが出されると自由区画を横断する街道の警備は益々強化され、それすらできなくなった。

 行商人の食料も長くは持たない。計画では郊外に居座れるはずだったのだ。

 留まるべきか、戻るべきか。

 薪を運んで町に入れば計画そのものが破綻する。薪は不足していなけばならないのだ。

 そんなとき、彼らの元に情報が舞い込む。

「現地の獣人から大量の薪を手に入れた」という仲間からの知らせだ。

 彼らは仲間の勧めに従って、安心して中継所まで戻り、食事に有り付いた。

 ちなみに中継所はユニコーンズ・フォレスト騎士団の駐屯基地である。


「区画内に多数の薪が予め準備されているのを発見いたしました。我々当局はそれらをすべて没収いたしました」

 これは領主側からのメッセージなのか? 単なる思い過ごしか?

 彼らのなかに自分たちの置かれた状況に疑問を持つ者たちが現れた。

 だが大勢は大きな目標達成と、それに伴う報酬を前に大いに目が曇っていた。

 肝心の物資を積んだ馬車は今どこにいる? 伝令は「町の近傍に近づけないので街道を往来しながら状況を見ている」と答えた。「合図があればいつでも町に入れる」と。

 杞憂であった。

 すべては祭りが終ってからだ。警戒が解かれれば自由区画で自作自演の騒動を起こせる。馬車もやって来る。後一手ですべてが終るのだ。今更尻込みする馬鹿がどこにいる?

 自分たちの手応えでは町には鬱積した状況ができあがりつつある。後一押しなのだ。

 もちろん隠密部隊とうちの連中が煽られている振りをしているだけなのだが。


「純粋に祭りを楽しみたかったな」

 そう言うと、姉さんが言った。

「来年、薪集め大会は春先にしないとな。秋は収穫祭だろう」

 今年の畑は土を作るだけで農家は一杯一杯だったようだ。本格的な収穫は来年以降になる。

 来年のこの時期は春小麦の収穫で忙しくなるに違いない。

 僕たちは一回戦の様子を城壁の上から眺めていた。今日に限って城壁の上は特等席だ。

 大勢の子供たちが背負子を背負って必死に走っている。女たちが薪を束ねて舟に積み込む。

 障害物に嵌まった荷車を男たちが必死に押している。

「お、ハンニバルだ。大丈夫かな?」

 領主館のチームが一回戦に出場していた。執事のハンニバルが既にダウン寸前だ。メイドたちの方がきびきび動いている。

「寄る年波には勝てんな」

「おおっと!」

 喚声が上がった。

 一番リードしていたチームの積み荷がひっくり返って、水のなかに落ちた。

「お前、あれはなんとかならんのか? 濡れたら薪にならんだろ?」

「あれはあれで面白いんじゃない? 舟が揺れる度に歓声が上がるし」

 ヴァレンティーナ様がやってきた。

「濡れた薪は使えないという、いい教訓になるんじゃないかしら?」

 皮肉を言われた。

「悪うございました」

「十四にもなって生木が燃えないことも知らないなんてね」

「そう言うな、こいつが魔法を使えるようになったのはついこの間だ。薪に火を付けることすらできなかったんだぞ」

 姉さんが珍しくかばってくれた。

「うちのチームは今どれくらいかしら?」

「ここからでは何とも」

「次回からは順位を判定する審判を置いて、それを表示した方が見ている観客も楽しめるんじゃないかしらね?」

「差が微妙ですからね」

 水面も揺れるし、判定しづらいよな。

「わかりやすく目盛りを振ったら?」

「舟の床面積を減らしてやれば振幅が増えて、もっと差がわかりやすくなるぞ」

「そうね。そうすれば一回の試合の時間も短くできるわね。子供に二時間は無理だと思うわ」

「そうか、スタミナというファクターも関わってくるんだ……」

 戦っている子供たちはまだ元気に駆けずり回るっていた。

 それより親父がへたれてるチームが多い。

 やっぱり女性チームが一番生き生きしている。と思ったらアルガスのおばちゃん連中だった。

「あれは?」

「『アルガス商店街主婦の会』ですって」

 出店をしに来ただけじゃなかったのかよ。タフだなぁ。


 一回戦、優勝したのは一時間三十四分で『アルガス商店街主婦の会』だった。勝負を決めたのは積み込みの丁寧さだった。商店街のおばちゃんなので、その辺はお手の物だった。

 二位は『守備隊男性チーム』だ。力業の勝利である。

「午後からは『女性チーム』でサリーやルチアが出るわよ」

「マギーさんはでないのかな?」

「店が忙しいみたいね」


 リオナたちと合流すべく、広場に戻るとお昼前だというのにリオナと猫一匹がベンチで腹を出して唸っていた。

「食べ過ぎたです」

「……」

「午後から試合だっていうのに」

 女性陣は思い思いの格好で買い物を楽しんでいた。午後の試合があるのでどちらかというと皆ラフな格好であった。

 食堂はどこも混んでいて入れそうになかった。

「屋台で買って一旦帰ろうか?」

 僕が買ったのはコロコロの串焼きと、ドワーフのパン屋さんのクルミ入りベーグルと、異世界で言うところの『じゃがバター』という奴だ。それとサンテ貝のバター焼きと、なんか分からん飴買った。

「サンテ貝見たくない……」

 オクタヴィア! お前ッ!

「貝柱以外、お前には毒なのに!」

「大丈夫、周りはリオナが食べたです」

 今にも吐きそうな声だ。

「十個食べた……」

 食い過ぎだろッ! 

 猫又だから死にゃしないだろうが、頼むから気を付けてくれよ。

「おっちゃんのお店の腸詰めもいっぱい食べたです」

「あのな…… オクタヴィアはへたっても構わないけど、リオナは試合あるんだからな」

「全部食べるはずだったのです……」

 どう考えても無理だろ! せめて少しずつにしろよ。

「来年は二日間でお願いします」

 誰にいってる?

 思い思いの買い物をして僕たちは帰宅する。

 オクタヴィアは完全にダウンしてアイシャさんの襟巻きになっていた。


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