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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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薪集め秋祭り3

「獣人の森も狙っている?」

 オクタヴィアが猫サイズの犬のお面を頭にかぶっていた。

 木製のなかなか精巧なお面だ。姉さんのお土産らしい。

 姉さんはエミリーに紅茶を催促して、ソファーに腰掛けた。

「自由区画だけじゃ飽き足らないわけ?」

 僕も場所を変えて、居間の定位置に腰掛けた。

「ヴァレンティーナに恩を売りたいだけよ。騒動を起こして、自分たちが薪を融通する。騒ぎは治まり、領主様に感謝される。覚えめでたくなればあとはこっちのもの」

「騒乱罪で捕まえたら?」

 ロザリアが話に加わった。

 あちらの話し合いは終ったようだ。どうやら残りのメンバーを見つけてからということになったらしい。

「それじゃ面白くないでしょ?」

「そういう理由で手をこまねいておるのか?」

 アイシャさんがカップを手にしたまま姉さんの正面に座った。

「相手は大商人、いつどんな横槍を入れてくるか分からんだろ。あいつらは根に持つからな。それに少なからず厄介になってる貴族もいるしな、面倒は避けたい。どうせ蜥蜴の尻尾だ。こちらとしては奴らに入る隙間がないことを教えてやればいいと考えている」

「悪い奴はやっつけるのです!」

 リオナが僕の隣に腰を下ろした。

 オクタヴィアがリオナの膝にのる。

「お面する」

 リオナは勢いを削がれて、言われるまま犬のお面をかぶせてやる。

「犬になった」

 オクタヴィアは二本の尻尾を嬉しそうに振りながら、みんなに見せびらかしに行く。


 犬のお面をした黒猫が全員に笑われて戻ってきた。本人は満足したようである。

 今度はお面を取ってとねだる。

「で、なんで来たわけ?」

「ああ、お前が薪について勘違いしているようだったのでな」

「それならついさっき解決した。子供の頃に教えて欲しかったよ」

「機会がなかった」

 それだけ言ってお茶を啜った。

「冗談はさておき、実はな…… 獣人たちが今年集めた分の薪をすべて奴らに売って欲しいんだ」

「奴らの話に乗れと?」

「そうだ。なるべく高値で売り払ってくれ。祭りの前日までにな。そのとき必ず念書を貰え。いいな、口約束は駄目だ。いついつまでにどれだけ売り払うか明確にな。何ならこちらで書類を用意する。できれば来年の分も契約してしまってくれるとありがたい。間違えるなよ、余剰分ではないぞ。すべてだ。すべてを余剰分だと言って売り払え」

「大丈夫なのかい?」

 アイシャさんが姉さんを心配そうに見つめるが、姉はニヤリと笑い返した。

「うちの領主をコケにしてくれた礼はする。それと、朝のユニコーンの散歩だが、祭りの翌日からしばらく領主館で借り受けたい」


 その後、細かい段取りをして姉さんは帰っていった。

 リオナは長老のところに走り、長老たちは計画通り、二年分の薪をすべて売り払って、一枚の契約書を作った。思った以上の高値で売れて、長老も驚いていた。

 町に備蓄があることは獣人たちも知っていた。だから誰も心配などしていなかった。それでも万が一のときにはと、我が家の火の魔石をそれぞれの家に一軒一軒配布して、リオナは不安を払拭していった。もちろん長老の入れ知恵だろうが。



 朝早くから町中の子供たちが浮かれ騒いでいた。

 中央広場には音楽隊が朝から詰めて、優雅に曲を奏でている。

 メインストリートには思った以上の出店が立ち並び、開店準備を忙しそうにしていた。

「おっさんなのです」

 リオナはいち早く見つけた。

 腸詰めの店の店主が出張ってきていたのだ。

 リオナはそれだけで大喜びである。

「がっぽり稼がせて貰うぜ」

 おっさんは笑った。

 獣人が大勢住む町だ、完売間違いなしである。

 アルガスの灰になった商店街の面々も詰め掛けていた。

 いくら店の再建まで暇だと言っても、時間的に見て強行軍だったに違いない。

「一度リオナちゃんの住んでる町を見ておきたくてね。こんな機会でもないと見に来られないからね」


『ダングラール商会』の情報はここ数日、獣人たちから逐一入ってきていた。

 祭り当日まで身動きができなくなっていた『ダングラール商会』だが、獣人の村からのまさかの申し出に笑みを浮かべていたらしい。

 余剰分という話だったが、その備蓄の多さに驚いたそうだ。余剰分ではないのだから当然なのだが。これなら領主が当てにするわけだと勝手に納得してくれたらしい。

 このままいけば間違いなくこの町は薪不足で干上がるに違いない。確信が芽生え始めていた。

 これで計画が一歩前に進んだと、笑いが止まらない様子だったと言う。

 売りつけるときは当然、商人らしく、足元を見て買値より高く設定するつもりでいたようだ。多少高くとも言い値で買い取ったのにはわけがあったのだ。

 姉さんが「なるべく高値で」吹っ掛けろと言った意味が分かった。

 敵は領主側にとんでもない量の備蓄があるなどとは露とも思っていなかった。

 守備隊の隠密部隊も手慣れたもので、商会の手下に嘘の情報を流して巧みに攪乱していた。

 悪乗りしたうちの獣人たちがさらに追い打ちを掛け、今や商会側の情報は商会側の思い描く最高のシチュエーションになりつつあった。

 お人好しの獣人たちがこれまで蓄えてきた余剰の薪を人族を助けるべく、手下にすべて放出したこと。獣人の薪をすっかり当て込んでいた領主がそれを聞きつけ動揺し、今になって周辺の領主に無心していること。そして何より、獣人たちの薪を買い上げた者を必死で探していると。

「さる御方が薪を大量に必要としている。工面して貰えないだろうか?」

 手下に渡りを付ける者まで現れて、風雲急を告げそうな勢いであった。


 だが、それは『薪集め秋祭り』が開催され、『薪集め大会』のセレモニーが行なわれた、そのときまでであった。


「本日は、『薪集め大会』にお集まりいただき、ありがとうございます。初めての大会であるにも関わらず、盛大に執り行うことができることを心より感謝申し上げます。参加者には既に配布しておりますが、改めてルールの説明をさせて頂きます――」

 主催者の説明が続いた。

「試合は八チームごとの二組、十六チームで行ないます。最終順位はクリアーした時間で、クリアーできなかった場合、舟に積み込んだ重量で決めさせて頂きます。制限時間は一試合二時間、午前と午後に執り行われます」

 この世界では希少な箱形の置き時計が演題の上に置かれた。

 観客が「おおっ」と喚声を上げた。

 うちにも欲しいかも。レプリカでも確か金貨百枚するとか言ってたな。ただ材質が問題で錆びるとすぐ動かなくなるらしい。

 ミスリルで作らせるかな……

 そんなことを考えていたときだった。

「えーっ、公正を期すため、大会前に自由区画を調査したところ、今大会に向けて頑張りすぎたチームがあることが判明いたしました――」

 全員が静まった。何ごとかと耳を澄ませた。

「俗に言う、仕込みというやつでしょうか? 区画内に多数の薪が予め準備されているのを発見いたしました。我々当局はそれらをすべて没取いたしました。もちろん本日参加されているチームにそのような不正を行なったチームはございません。不正を行なったチームの参加資格は既に失効させて頂いております。来年度のためにも、このようなことがないように、予めご報告させて頂きます。それではお待たせいたしました! 午前の部、第一試合、選手たちの入場です!」

 僕が考えた間違ったシナリオはここまでだった。

 大会を開くことで御触れを出し、大会当日まで動きを封じる。

 大会会場になるとなれば『ダングラール商会』は今まで集めた薪を隠しておく必要に迫られる。

 町で捌く気でいるのだから、他の領地に運ぶ手間は掛けられない。事が露呈するのも困るので、外にも持ち出せない。街道にはこれ見よがしに兵士が巡回している。町のなかに持ち込むこともできない。

 結果的に見つからない場所にとりあえず隠しておこうということになる。

 でも、そこはこの町の隠密部隊。耳と鼻は人一倍である。

 奴らの努力は徒労に終った。

 というのが僕の当初の予定だったのだが、アンジェラさん曰く、薪は半年以上寝かせないと駄目なようなので、そもそもこの計画は破綻していることになる。


 実際、彼らは薪など集めていなかった。

 騒ぎを起こすための単なる噂作りだったのだ。

 アンジェラさんの言葉通り、そもそもこの時期に薪を採る人などいなかった。「薪を集められない」という騒ぎなど、元々起こりようがなかったのだ。

「薪が不足するぞ」と住人を煽るための出任せ、「足りなくても獣人たちが持ってるぞ。奪い取れ」という筋書き。

 この町で薪を集めていたのが唯一獣人たちだけだと知っていて、町の商人たちが時期的にまだ扱っていないことを知っていて企んだのだ。

 後一月もすれば通常の町なら店先に薪が並び始める。

 それ以前に片を付けなければならない。

 騒動を起こさなければ。

 正義の仲介者として、騒動を治めるために。誰よりも早く薪を携えて。


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