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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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エルーダ迷宮狂想曲29

 帰ろうとしているところにマリアさんと修道院長がやって来た。

「ご苦労様、みんな怪我はない?」

「そちらこそ大丈夫でしたか?」

「ええ、みんな無事よ」

「院長、本当に申し訳ありませんでした」

「あなたのせいじゃありませんよ。あなたはよくやってくれたわ。高価な物を扱うということに、もっとこちらが気を使うべきだったのよね」

 今回の一件で、救いがあるとするならば、それは院長とマリアさんの間に太いパイプができたことだ。

「専売契約など既に上層部で話し合っておりますから、今回の件も含めて、対策を考えてくださることでしょう」


 その後、ふたりと一緒に、転移でスプレコーンに戻った僕たちは領主館を訪れた。

 そこにはフェデリコ・アルガス伯爵が待っていた。

「フェデリコ君なのです」

「やあ、エルネストさん、リオナ。お疲れ様、うまくいきましたか?」

「多分最良の結果かと」

「それは良かった」

 フェデリコ君がほっと胸を撫で下ろした。


「ボナ卿以下二十名は、全員逮捕、許可が下り次第、アルガスに護送予定です」

 マリアさんがギルド側の報告をする。

「ボナ卿はここにいる我ら全員の連名でいずれ中央に送ることになります。マリアさんの仕事はアルガスへの護送までになります。後は伯爵が引き継ぎます」

「はい、殿下」

 その日は遅くまで話し合いがなされた。

 フェデリコ君は領主館に泊まることになり、明朝、リオナたちとユニコーンを見学した後、領主の飛空艇で北の砦までクルーズしながら帰るそうだ。

 リオナが船を漕ぎ出したので、僕たちは書類にサインをして、退席した。

「エルネスト、明日修道院に行く前にここに寄ってくれ。そうだな、今日の面子でいい」

「了解。お休み、姉さん」

 姉さんの見送りを後に僕たちは館を出た。



「うわぁあ、すごい。これ全部?」

 荷車一台分の本が倉庫代わりの空き部屋の床の上に並べられた。

 エルーダ駅のホームに繋がっている物資搬送用の転移ゲートを使って、荷車ごと逆輸送したのだ。子供たちも手伝ってくれたので、スムーズにことを運ぶことができた。

「重かったのです」

 リオナとロザリアは完全に潰れていた。

 ゲートは物資専用なので人を移動することができない。だから送り手と受け手に分かれなければならなかったのだが、ホームの存在を子供たちにばらすわけにはいかなかった。

 それにホームの秘密の出入り口の先には足場のない池がある。氷の魔法が使える僕かアイシャさんどちらかが修道院に出向きゲートを開く必要があったのだ。

 アイシャさんは修道院の人たちと知り合ってまだ日が浅かったし、本人も残ることを選択したので僕が出向くことになった。

 車両の昇降口から荷車を乗せることができなかったので、スプレコーンに荷車は置いてきていた。修道院で改めて荷車を借りて、ゲートで送り出し、そこに荷物を載せ替え、改めて送り返す必要があったのだ。

 結果的に僕以外の三人が、荷車一台分の書籍を詰め替える作業を延々と繰り返すことになったのだ。

 僕の方は、子供たちの援軍が大勢いたので、僕がすることは少なかった。

「これ、教科書だ……」

「これ辞書?」

「図鑑だ! 花の図鑑」

「これなんて書いてあるの?」

「『算数入門』だって」

「絵本もあるよ」

 姉さんが、エルーダに行く前に寄れと言ったのは、これらの大量の書籍を運ばせるためだったのだ。

「まあまあ、これは一体?」

「おはようございます。院長」

 奥の部屋から院長がやって来た。

「よくわかんないんですけど、うちの姉からです」

「レジーナ様から?」

「お金では買えないものを中心に揃えたと言ってましたけど」

「なんとまあ、ここまでお気遣いくださるとは」

 シスターたちがやって来て、本の分類を始めた。

「棚を用意しないといけませんわね」

 子供たちが自分の読みたい本をキープし始める。

「子供たち大丈夫でしたか?」

「それがもうこちらが呆れるくらいみんなぐっすりで。余りの図太さにこちらが感心してしまいました」

 院長が笑った。

「それはよかった」

「長期に及ばなかったのが功を奏したようです。本当になんとお礼を言ってよいか」

 シスターたちの静かな修行の日々を邪魔している身としては申し訳ない限りである。

「ステンドグラスなんですが、業者は昼過ぎに着くそうです」

「まあ、もう手を打ってくださったんですか?」

「いつもの日常に早く戻ることが肝要だと姉が申しますので」

 僕たちは休憩がてら、しばらくの間、軒先を借りた。幼い子供たちに年長者が読み聞かせを始めていた。

 屋根の上に退避していたオクタヴィアが降りてきた。

「雨降ってきた」

 庭先にぽつりぽつりと雨が降り出した。

 子供たちは読書を止めて、一斉に散らばった。

 シスターに知らせる者。洗濯物を取り込む者。窓を閉める者等々。

「もう大丈夫のようじゃな」

 アイシャさんが呟いた。

「お暇しましょうか」

「そうだな」

 僕たちはそばにいたシスターに帰る旨を伝えて、転移した。


 スプレコーンは土砂降りだった。

 雨具を北の大門の下で急いで着込んだが、すっかり濡れ鼠になった後だった。

 僕は魔法を使ってまずリオナを乾かした。

 ロザリアたちは自分自身で乾かしている。オクタヴィアはブローして貰って却って気持ちよさそうである。

 家に帰ると全員装備をかなぐり捨て、大浴場を目指した。

 浴場は満員だった。大人子供問わず、大勢詰め掛けていた。

 例の展望大広間も満杯状態だった。

 簡易食堂も在庫の食材が尽きかけていた。

「土砂降り様々だな」

「今回は獣人の鼻を持ってしても間に合わなかったようじゃの」

「爺さん」

 湯船に浸かっていると爺さんが現れた。

「いつもはのんびりしたもんじゃが、変われば変わるものじゃな」

 からからと笑う。

 まさに湯船は芋洗い状態である。

「なあ、婿殿。せっかく大勢いることじゃし、少しばかり香木を焚いてやったらどうじゃ」

「そうですね。みんなお金を出して利用してくれているんだから、満員御礼のときぐらい…… サービスしましょうかね」

「だったらユキジさんだ」

 隣りにいた獣人の親父が言った。

「あの人は香の合わせの達人じゃ。あの人に合わせて貰うようにたのめんじゃろうか? 今日みたいなじめじめした日は普通に焚いても匂わんのじゃ」

 いつの間にか、男連中に囲まれていた。

「誰か、風呂を上がった人に伝言――」

「俺行ってくる!」

 子供が尻尾を振りながら駆けてった。


 僕たちが風呂を出たときには、香りが建物中に充満していた。

「ほお、これはなかなか」

 爺さんも感心したようだ。

 建物の入り口には人だかりができていた。

「相変わらず耳聡い連中だな」

 僕たちは簡易食堂に向かった。

「おっちゃん、牛乳頂戴」

「すまねえ、若様。在庫全部売り切れちまいやした」

 簡易食堂の親父が頭を下げる。

「今、食材の調達に行ってますんで、昼時までにはなんとかなりそうなんですが、牛乳はさすがに……」

「牛乳ないの?」

 ものすごく残念そうな声が聞こえたので振り返るとリオナだった。

「申し訳ございません。リオナ様」

 すっかり『湯上がりには牛乳』が蔓延してしまったな。マイバイブルの勇者が編み出したスーパーコンボだから、人気が出るのも仕方ないが。

 正式には『湯上がりにはコーヒー牛乳』らしいのだが、『コーヒー』というものがなんなのか、豆の出し汁らしいのだが……

「えーっ、牛乳売り切れなの?」

 犬族の子供が残念そうに項垂れた。

「そうだ、リオナ。手袋どうする? 今日は一日こんな調子みたいだけど」

「明日にするのです。この香りには抗えないのです」

 外は土砂降り、せっかくの展望も霧のなかだ。

 アイシャさんとロザリアはもう上がったのか?

 僕はリオナのお風呂場セットを預かってひとり家に戻ると、オクタヴィアが転がっていた。

「どした?」

「のぼせた」

 アイシャさんが氷を包んだタオルを持ってきた。

「おちおち風呂にも入っておれんわ」

「ごめんなさい」

 いつにも増して恐縮しているオクタヴィアであった。


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