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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲

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エルーダ迷宮狂想曲23

 それは姉さんたちと地下十七階のクイーン部屋を攻略した数日後のことだった。

 地下十八階を攻略すべく、いつものようにエルーダ村に到着した僕たちは歩き慣れた裏山を下り、迷宮へ向かっていたのだが……

「何あれ?」

 村の空き地にテントが張られ、どこかの守備隊らしき兵隊が駐屯していた。アルガスの赤を基調とした兵装とは明らかに違う二十人程度の部隊だ。

「中央のボナ卿の私兵だ」

 門番さんが教えてくれた。

「ボナ卿って?」

「中央の子爵らしい。なんでも世継ぎがいなくて、分家を養子にしたそうなんだが、それがあれだ。余り大きな声じゃ言えないが、お家再興のために相当無茶をしているらしい」

 そりゃ、兵隊連れてこんなところで野宿してるんだからね、普通じゃないよ。

 僕は宿営地にいる派手なローブ姿の神経質そうな男を目で追う。空き地を宮廷のサロンと間違えているような服装だ。汗ダグで野営の準備をしている兵士を横目にワインのグラスを煽っている。

「なんでそんなのが、ここに?」

「金塊を求めて来たらしい」

「金塊?」

「ここの迷宮で金が取れる場所を教えろとか、朝からうるさくてな」

「領主は知ってるの?」

「さあな。通行許可ぐらいは出してるだろうけど。面倒なこった。金が取れるフロアーなんて言われても、冒険者が早々飯のタネを教えるわけないだろ?」

 僕も教える気はないけど。

 先日の金の玉座の件だろうと思い至る。ヴァレンティーナ様が換金目的で金塊の一部を中央に流したんだろう。そこからここをどうやって割り出したのかは知らないが、噂通りなら脅すか、金を渡したかしたのだろうな。取りあえず子飼いの情報統制に穴があることをヴァレンティーナ様に報告しておこう。冗談抜きで面倒ごとになりそうだ。

 全員が目を合わせる。

 分かってなさそうなのが若干一匹小さな口で欠伸をする……

「あいつらにしゃべれるのがばれたら、魔物扱いされて丸焼きにされるぞ、オクタヴィア。気を付けるんじゃぞ」

 飼い主は猫の扱いに慣れていた。オクタヴィアは早々に僕のリュックのなかに待避して、にゃあにゃあとわざとらしく鳴いた。

「煮干し買ってやろうか?」

「ほしい!」

 リュックから身を乗り出した。

「……」

 駄目だこりゃ。

 面倒ごとを回避するためにも、僕たちは早々に潜ることにした。

 十八階は岩蟹だ。いつぞやアルガスのお堀にはまっていたあの巨大蟹だ。食べておいしい岩蟹だ。

「おお、パーティーが一杯だ」

「多すぎるのです」

「金目より食い気なのか?」

「与し易いからじゃないですか?」

 初心者じゃないんだから、装備は充実してるだろうし、デメリットはないも同じか。ただの狩りやすい魔物だ。


『岩蟹 レベル三八 オス』


 アルガスの堀にいたのはレベル二十台の中頃だったよな…… ってことはあれよりでかいんだよな。

 他のパーティーの獲物を見たら、予想が外れたことにすぐに気付いた。

「小さいのです」

 堀にいたのと変わらない大きさだったのだ。

「もしかして成長限界?」

「どうかした?」

「以前養殖用のを見たことあるんだけど、レベル二十台の奴と大きさ変わらないなと思って」

 ロメオ君に説明した。

「養殖用は品種改良した種類だって聞いたことあるけど」

「と言うことは迷宮産は原種に近いと?」

「古い迷宮ほど珍しいのに会えるって言うよ」

「味はどうなんだろうね?」

「さあ、それは食べてみないと」

 少しお持ち帰りするか。

「マップの半分は既に狩り尽くされてる感じだな」

 僕たちは近場にいたら狩ることにして、出口までの順路を進んだ。

 出口までに五匹ほど狩ることができた。

『麻痺弾』はよく効いた。地下蟹も『目くらまし香』がよく効いたから、この手の耐性は蟹たちにはないものと考えられる。

 ロメオ君もロザリアも魔法の通りを確認できた。

 僕も剣の切れ味を試せた、主に解体作業で。

 午前中の稼ぎは蟹脚五十本で、金貨五枚だ。


 食堂は満員だった。例の兵士たちが仕事もしないで屯しているせいで、冒険者たちが列を作っていた。恐らく情報入手に戸惑っているのだろう。

「仕方ない」

 僕たちは解体屋で蟹の肉を少し包んでもらって修道院に向かった。孤児院の台所を借りよう。


 数日見ない間にまた建設が進んでいた。

 煉瓦造りの巨大な物品倉庫がもうほとんどできあがっている。

 お目当ての孤児院は建て替え中で、子供たちは修道院の一角を間借りしていた。

 僕たちは幸い子供たちと一緒に食事に有り付くことができた。

 料理も食器も子供たちが着ている服も、以前来たときよりも改善していた。でかい蟹ステーキが一品、テーブルに増えて子供たちも喜んでくれている。

「あーこれ! 高い方の蟹だ」

「そうなの?」

「これ岩蟹だろ?」

 違いの分かる赤シャツの少年が言った。

「そうだけど。よく違いが分かるな?」

「俺、料理人志望なんだ。この家の台所でも働いてるんだぜ」

「嘘つけ、皿洗いだろ」

「うっせー、料理人は皿洗いから始まるんだよ!」

 相変わらずここは賑やかだ。賑やかだけど心が落ち着くのは、穏やかなシスターたちの視線のせいか。

「地下蟹はジューシーで素焼きでさっと炙って食べると甘くて美味しいんだ。岩蟹はこうして鉄板でじっくり焼いて味を閉じ込めることで深いコクを味わえるんだぜ。俺の死んだ父ちゃんが言ってた」

 少年は自慢げに語る。

「確かにしっかりした味ね。とてもおいしいわ」

 教皇の孫からお墨付きが出た。

「オクタヴィア、わたしのも上げる」

 オクタヴィアの皿はみんなからのお裾分けで一杯になっていた。

 アイシャさんが苦笑する。

「こら、駄目でしょ、みんな! 嫌いな物もちゃんと食べなさい!」

 軒並みシスターに怒られた。猫の皿には子供たちの苦手な食材が山盛りになっていた。

 オクタヴィアはお構いなしに野菜をカリコリ言わせながら食べている。

「そういえば貴族の代理とかいう人が尋ねてきましたよ」

 シスターが、先日の売り上げを持ってきて言った。

「『最近金塊を見つけた冒険者はいたか』って」

 奴らか…… こんなところまで来て、情報収集か。

「胡散臭そうな連中でしたから、お答えしませんでしたが、しばらく金製品の持ち込みは控えられた方がよろしいですわね」

「ありがとうございます。気を使って頂いて」

 僕は伝票を受け取る。

 恐らくこの修道院からギルドに金が流れたことを掴んでいるのだろうな。後は付き合いのある冒険者をしらみつぶしといったところか。

 前回のキング部屋の報酬は約金貨二千枚。六割が金だった。他の冒険者の稼ぎ次第だが、本命に躍り出てしまったかもしれないな……


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