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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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閑話 だんなさんは留守ですか?

 魔法結界の護衛には爺さんとサリーさんとエンリエッタさん。物理結界の護衛には僕が。真ん中のクイーンの相手は最強コンビが受け持つことになった。

 問題は部屋が狭すぎること。人族には十分なのだが、巨人三匹では無理がある。早々に数を減らさないとどんなアクシデントが起こるか分からない。

 僕は先手を打って自分の分を消化することにした。氷槍を立て続けに三発放った。護衛の巨人はどこから出してきたのか盾を構える。

 盾ごとやれると確信があった。が、その確信は粉砕された。魔法防御に特化した盾だったのだ。

 軽い衝撃を与えるのみだった。

「だったら!」

 僕は部屋の周囲の回廊の柱を盾に距離を一気に詰めた。

 巨人は回廊ごとつぶしに掛かる。武器を包丁のようなファルシオンに持ち替えて。

 武器を持ち替えるなんて、今までにないタイプの敵だ。

 僕は『ステップ』で後ろに回り込む。そして足の腱を切り裂こうと剣を振る。

 暴風が突然襲った。

 中央のクイーンが床に豪快に倒れ込んだ衝撃のせいだった。

「一撃かよ!」

 どっちがやったのか知らないが、容赦なさ過ぎだろ! 鬼か! 鬼ですか!

 思わず加減を忘れた。邪魔されて集中力が散漫になったせいだ。氷槍を背中にぶつけたら大きな風穴が空いてしまった。

 巨人は回廊を押しつぶしながら崩壊する。

 ほぼ同時にもう一匹の護衛も切り刻まれて沈黙した。

「エルネスト、やり過ぎ」

 姉さんに駄目出しされた。

「アイテム回収しましょ」

 ヴァレンティーナ様は飄々としている。

「宝箱じゃ」

 爺さんの声に僕は駆けつけた。宝箱は回廊の隅っこに隠れていた。

「大丈夫?」

「任せておけ。この程度なら問題ない」

 爺さんはあっさり鍵を開けると蓋を開けた。さすが鍵開け名人。

「おおっ!」

 なかには金銀財宝、宝石が満杯だった。

 僕たちは顔を見合わせる。


 このとき回収した宝石類は実は大したことがなかった。ほとんどが見た目だけで、合わせても金貨二百枚にもならなかった。馬鹿な冒険者向けの一種のトラップだったのだ。この箱で満足して帰って貰おうという仕掛けだったのだ。

 驚いたことに、この部屋の装飾品は周囲の壁以外ほとんどがギミックではなかった。柱に埋め込まれた石も、天井から照らすシャンデリアの光の魔石も。

「この王座、全部金だわ」

 凝った刺繍の入った布を剥ぐとなかから金の玉座が現れた。

「宝石も凄いわね」

 キングの王座はただの石だったのにな。

「一番高い匂い」

 オクタヴィアがクイーンの棍棒に飛び乗った。

「ほんとに?」

 オクタヴィアが頷く。最高額の巨大棍棒サイズの香木?

 いくらになるんだ? 安い棍棒でも金貨五百枚だった。これはあれの単価の十倍…… 二十倍?

「大変なことになりそうね」

 クイーンの装備も秀逸だった。本人がかぶれそうもない、棚に置かれたティアラはヴァレンティーナ様の見立てで金貨千枚は下らないそうだ。その他ドレスの生地なども上物らしい。

 ギミックでない以上、消滅時間は存在する。

 今夜の定刻か、クイーンが死んでからの時間なのか、扉が開いたときからの時間なのかは分からない。兎に角、急ぐに越したことはない。

 姉さんが駅のホームに設置したゲートに次々転送していく。

「エルネスト、ぼーっとしてないで、王座と棍棒を手頃なサイズに小さくして頂戴」

 えーっ、僕の名剣をそんな使い方するわけ?

 僕は王座を真っ二つにした後、延べ棒サイズに切り刻んだ。棍棒も持てる重さに切り刻んだ。

 刃こぼれを気にしていた頃の自分はなんだったんだ。それにしても我ながらよく切れる。

 絨毯、カーテン、燭台、何もかも持ちだした。

 いくらになるのか想像も付かない。

 粗方片づいたところで姉さんは脱出用の結晶を取り出した。

「もう一匹は? キングの部屋はやらないの?」

「もう十分よ。夜も明けるし、わたしたちは帰らないと」

 ヴァレンティーナ様はそういうとエンリエッタさんとサリーさんを引き連れてゲートに消えた。

「しっかり自分たちの分とこの部屋の分、分けておくのよ。ついでに整頓しておいてくれると助かるわ」

 言うだけ言って、姉さんも消えた。

「爺さんはどうする?」

「付き合うとしようかの。ひとりじゃ何かあったら困るじゃろ?」


 部屋を出て扉を一度閉めるともう開かなくなった。

 そこで改めて『迷宮の鍵』を使って鍵を開けると、隙間からいい香りが漂ってくる。

 そして雄叫びと共にキング登場!

 リオナに簡単にやられる相手が、爺さんに敵うわけもなく。二度目の咆哮もなく息絶えた。

 クイーンの部屋と違って何もない。ほぼ前回と同様の物しか出なかった。

「今日からお前は婿養子だ!」

 僕は金目の物を転送しながら命名する。

 爺さんは声を上げて笑った。


 そして、食堂で朝食をとり、駅のホームに降り立つ。

 エルーダ駅のホームは見事にぐちゃぐちゃだった。

「なるほど転送しただけだとこうなるのか」

 ゲートを中心に同心円状に物が散らばっている。

 修道院のシスターたちは持てない物は兎も角、持てる物は一々整頓してくれていたのだと今更ながらに気付いた。

 小一時間掛けて整理整頓を済ませると、僕たちは町に戻った。


 昼には香木が届けられた。しっかり査定も済んでいて、すべてに値札が付いていた。僕は早々に地下の保管庫に香木を運んだ。

 総額にして前回の比ではなかった。やはりクイーンの棍棒は凄かった。金貨六千枚である。


 後日、他の宝石類の鑑定も終わり総額が判明する。

 締めて金貨十六万三千枚、一六三億ルプリである。途方もない金額のほとんどは純金製の王座、延べ棒にして五百本によるものだ。

 一人当たりにして二万七千枚。

 税金が四割引かれて、一万六千二百枚の報酬である。六等分した端数、約百七十枚はギルド手数料に収った。

 僕はそのうちの金貨六千枚を既に香木で貰っているので一万二百枚である。

 それプラス、婿養子部屋での報酬約二千枚、一人当たり千枚である。


 爺さんは早々に最高の装備を調えた。剣は隠れ里に制作依頼中。その際火の魔石(特大)を持参した。

 当然、他の連中は納得しない。「なんで自分がいないときに!」と。

 結局もう一度行く羽目になったが、『最深部の鍵』がなければどう仕様もない。

 婿養子の稼ぎだけでも法外なはずなのに、人とは欲深な生き物だと思い知る。



 しかしなぜこうも高額になったのか? 

 考察したところ、僕がいつも気楽に開けていた『最深部の鍵』が入っていた宝箱、爺さんに試して貰ったところ、最高難度の宝箱だということが判明した。

 さらに鍵の出現率。少なくとも三分の一以下(その後、女性陣の儚い努力と付き合わされた僕たちの空しい努力の結果、確率は十分の一以下まで下がる)。

 往復の面倒さ、最深部到達の難しさ、クイーン討伐の難しさが難易度に拍車を掛ける。

 迷宮のレベルに準拠したパーティーでは婿養子はやれても、クイーン部屋では恐らく全滅する。

 まず護衛の対物対魔結界を破ることが難しい。婿養子相手に精一杯のパーティーには三体同時はまず不可能。結果としてレイド戦を強いられることになるが、部屋の狭さが邪魔をする。六人でも狭くて煽りを食ったのだ。十数人もいたら誰かが踏みつぶされる。

 仮に倒したとして、持ち出しはどうするのか? かなり大掛かりな物になるだろう。当然あれだけの金塊を運び出したら、ばれないはずがない。当然、位置情報も攻略情報も秘密にはしておけないはずだ。とっくの昔にマップ情報に反映されているはずである。

 つまり攻略されたことがないほど、複雑な難易度だと言えるだろう。

 すべては『最深部の鍵』の出現率に掛かっているが、定期的な往復以外付き合う気はない。

 今年の分の香木はもう十分である。



 香木をすべて保管庫に押し込むと僕はオクタヴィアを肩に載せて町の中心街へ向かう。

「クッキーの詰め合わせ、どんなのがいいだろうね」

 オクタヴィアの揺れる尻尾が背中をくすぐる。

「いっぱい」

 なるほど質より量ですか……

「きょうは大活躍だったから、奮発しないとねー」


 その後、女性陣はマギーさんたちまで巻き込んで、休日返上で『最深部の鍵』を求めて潜っているらしい。

 だが未だに出たという話は聞かない。

 ただ、増え続ける香木の置き場に困った、アンジェラさんが頭を悩ますのみである。


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