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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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閑話 キングさん、またお邪魔します

「では参ろうか」

 新品の剣を肩に担いでサルヴァトーリ・ゼンキチが先陣を切る。

 装備はシャツとズボンに革のプロテクト、革の手袋とブーツ。それに全身を覆う膝まである外套のみだ。付与も防御もない、完全初心者装備だ。

 恐らく朽ちることなく残ったアクセサリーの類いで防御は間に合っているのだろう。

 エルーダ迷宮地下十七階、メンバーを大きく替えての攻略である。

「どうだ? 匂うか?」

 オクタヴィアが僕の肩の上で鼻をひくつかせる。

「匂う。当たり」

 目的の場所に香木はあるらしい。

 同業者をチェックする。

「さすがにこんなに朝早く狩りをしてる人はいないか」

 朝食までまだ四時間もあるから、朝というより夜だ。

「エルネスト、客だ」

 通路の角にアースジャイアントがいる。姉さんは僕に行けと言う。

「なんで?」

「あんたが一番年少でしょ?」

「爺さんリハビリは?」

「まず足腰を鍛えるところからじゃな」

 朝練中いつも僕より機敏な動きしてたくせに!

「疲れたら替わって進ぜよう」

 先陣切っておいてなんだよ! 腕の見せ所じゃないのか?

「見せて貰うわね」とヴァレンティーナ様。

 その後ろに姫様付きの護衛としてエンリエッタさんとサリーさんである。誰も彼もが本業そっちのけである。


 角にいた巨人はすぐさま僕の気配に気が付いた。

「うごおおおっ!」

 朝から聞きたくない濁声だ。

 棍棒を振り上げ迫ってくる。

 僕は氷槍を高速射出して頭を吹き飛ばす。

「魔石は?」

 回収するかどうか尋ねると、口を揃えていらないと言われた。

 大金目指してるんだからいらないか。

「じゃ、先行くから」

 オクタヴィアが僕の背中に回った。

「リュックに入ってるか?」

「寝てる」

 そう言うと僕のリュックの隙間からなかに入った。そして首から上だけ出して大人しくなる。


 前方に二匹、横道左右に一匹ずつ。

 僕はライフルを構えた。前方の二匹を『一撃必殺』で昇天させる。

 こちらに気付いた横道の二匹が角から頭を出したところで氷槍をぶつける。

「あっさりやったわね」

 後ろで姉さんたちが感心している。

 ほんとに戦う気ないみたいだな。誰一人剣を鞘から抜かない。

 巨人たちが山道の二股の手前で待ち構えている。

 通路を回り込む間に、さらに数匹引っ張りそうだ。

 銃で手前から順に倒していたら、弾がなくなった。

「あっ」

 いつも全弾撃ち尽くすことがなかったから、失念した。

 僕は結界を広げて、襲いかかろうと棍棒を振り上げ迫ってくる巨人を押し返した。

 そして氷槍を叩き込む。

 頭部が粉砕して身体が通路を塞ぐように倒れた。

 後続の巨人が立ち往生する。

 僕は弾倉を取り替えると残りを殲滅した。

 道を塞いでいる遺体を風魔法で巻き上げ、そのまま渓谷に落とした。

 周囲警戒。残党確認。

「異常なし」


 分岐点まで進むと、最初の『スイッチ』に向かうその前に、班の編成をする。

 ヴァレンティーナ様たちが不思議そうな顔をして僕を見つめる。

「何?」

「なんでもない」

 班は爺さんと姉さん、サリーさんのチームと残り三人のチームに分かれた。編成は最近の僕の戦いを見たかどうかで決められた。なんでそんな選び方するかね。

 爺さんは僕と朝練で手合わせしているし、姉さんとサリーさんはエルフの里の事件で『覚醒』した僕を見ている。見てないのはヴァレンティーナ様とエンリエッタさんだけだ。

 引き続き僕は前回進んだルートを進むことになった。

 姉さんたちとはここでしばしの別れである。

 僕たちは分岐を左に進む。そして行き止まり。

 絶壁に辿り着くのとほぼ同時に、最初の足場が動き出した。

 僕たちは行き止まりを越えて先に進んだ。

 そして、前回と同様、三匹の巨人が待ち伏せしているポイントに到達する。

 合流するまではスピード重視ということなので、僕とエンリエッタさんがライフルで対応する。

 僕は『スイッチ』の踏み石に乗る。

 そしてライフルの望遠鏡を覗きながら向こうの様子を確認した。

 行き止まりに岩がせり出して来るのが見える。

 姉さんが先頭になって渡って行く。

 なんで魔法使いが先陣切ってんだよ? 爺さん、腕を売るチャンスじゃないのか? もう仕官したくないのか? 

 渡りきったことを確認すると『スイッチ』から下りて、魔石を回収して回る。これでも銀貨三枚だからね。我が家の一食分になる。


 寝ていたオクタヴィアが僕の頭にへばり付いた。

「もうすぐ」

 その言葉通り、こちらの足場が繋がった。

 僕たちは足場を渡り、巨人の巣窟に入った。

 巨人の集団が出迎える。

 前回同様、遠距離攻撃で仕留めていく。そして宝箱発見!

「きょうは何だろ?」

「鍵を開けてる暇はないわよ」

 カチッ。ヴァレンティーナ様の言葉が終る前に開いた。

「……」

 僕は蓋を開けた。

「若様!」

 オクタヴィアが急に声を出した。

「何?」

 びっくりした。一瞬罠が発動したかと思った。

「詰め合わせ、買ってない」

 オクタヴィアが最重要事項を思い出したようだ。

 すっかり忘れてた、クッキーの詰め合わせ。

「きょう、戻ったら買って帰ろうな」

「わかった」

 でかい箱のなかに古びた鍵が一つだけ入っていた。


『最深部の鍵』?


 うわっ、今更いらないアイテムだ…… 金貨二十枚の方がよかったよ。


 最後の足場が作動した。

 姉さんたちも順調のようだ。

「ここが最深部です。中央に『スイッチ』があります」

「では通路側はわたしが開放します。姫様と弟君は『スイッチ』をお願いします」

 エンリエッタさんは走りながらライフルを乱射した。

 敵が気付いて追いかけ始める。

 引っ張りすぎだよ!

 僕はエンリエッタさんを追いかける相手を狙撃した。そして全弾撃ち尽くしたところで『魔弾』を放った。

 爆風が空洞内に響き渡った。

 追撃する約半数を殲滅した。ざっと十匹ほど。エンリエッタさんに影響しないように離れたところに打ち込んだのでそのくらいしか仕留められなかった。

 奥にいる分も含めて残り二十匹程度、姉さんたちと合流すれば問題ない数だ。

「行きます!」

 僕は『スイッチ』目指して駆け出した。

 近場の敵は氷槍で、離れた敵は『魔弾』で吹き飛ばした。

 結界に引っかかった連中は雷撃でまとめて仕留める。

 僕たちは『スイッチ』を踏んだ。

 近づく敵を流れ作業のように仕留めて行く。もはや結界に触れる者すらいない。

 合流地点で爆音が轟いた。

 姉さんが派手にやり始めたようだ。押し返された敵が姿を現わす。

 全員が渡りきったことを確認するまで踏み石を下りるわけには行かないので、戦況を傍観する。

「よし、行くぞ」

 ヴァレンティーナ様が『スイッチ』を下りた。

 前衛三人が近場の敵を切り刻んでいる。ふたりは相変わらずの腕だった。爺さんも遜色なかった。というより、すべての巨人を一度の回合で仕留めている。

「そういうことか」

 蘊蓄を語られるより何倍もわかりやすい。オクタヴィアが背中にいるので乱暴な動きはできないが、僕にもできるかもしれない。

 僕は剣を抜く。

 あぶれた一匹に接近する。

 僕は『ステップ』を踏んだ。

 棍棒を振り上げたその脇の下に入り込む。この位置から突き上げても巨人の急所までは届かない。僕は踏ん張る巨人の大木のような脚を切断する。

 雄叫びを上げて前のめりに崩れる巨人。背後に回り込み、首の根元に剣を突き立てる。

 次の一匹を探す。姉さんの魔法が目の前を通過して、敵を吹き飛ばす。

 ヴァレンティーナ様も一匹仕留めたようだ。いつの間にかあっちはフォーメーションができあがっている。

 爺さんは水を得た魚のように嬉々としてやっている。

 なるほど爺さんの剣は女性陣の剣とは明らかに違う。スキル中心の攻めをする女性陣に対して、爺さんはスキルを一切使わない。

 ゆっくり接近しているのに、敵の攻撃は当たらず、すり抜けていく。巨人はすれ違い様とどめを刺されて地に伏していく。

 敵を意図的に動かして隙を作らせているのか?

 僕に後方から近づく者あり。動きを予測する。

 巨人の雄叫びと共に振り返り、膝を切り裂き、懐に入り込む。

 棍棒がさっきまで僕のいた場所に振り落ろされる。

 土塊が飛び散る。

 前のめりになった巨人の動きが止まった。膝に力が入らないせいで体勢を戻せないのだ。

 棍棒を持つ腕を切断する。

 巨人は支えを失い前方に倒れ込んで、そのまま動かなくなった。

 彼の首筋から血が噴水のように噴き出した。

 うまくいった。

 僕は安堵する。

 残り数体を相手にしている間に殲滅が完了したようだ。僕は『浄化』を掛け、血糊を流す。

 オクタヴィアもすっきりだ。

「オクタヴィア、香木あるか?」

 遺体のなかにはなかったらしく、首を振った。

「あっち」

 やはり木材加工場か。

 迷路のような材木置き場を抜けると昨日と同様、まとまった香木が並んでいた。

 すべての転送が終ると僕たちは最深部の扉の前にいた。

 僕は拾った『最深部の鍵』を使って鍵を開けた。

 おや? 香木の匂いがない……

 扉を開けるといきなりランスが襲いかかってきた。

 僕が結界で弾くと、その隙に姉さんが氷槍をお見舞いした。

 敵はよろめいたが、ダメージは軽微だった。

「もう一匹おるぞ」

 爺さんの声に反応して僕は部屋の片隅を見つめる。まさにランスを投擲する瞬間だった。

 僕も氷槍を速射した。ランスと氷槍はぶつかることなく交差した。

 ランスは弾かれたが氷槍は敵の腹を抉った。ヒドラの腹に風穴を開けた奴だ。

「爺さん、左だ。右は物理結界だ」

 さらに頭上から巨大な一撃が振り下ろされる。

 僕は結界を展開して一撃に耐える。こないだのキングより強力じゃないか?

 目の前に現れたのはブヨブヨに太った巨人だった。

 こないだの王の間と違うのか?


『クイーンジャイアント レベル五十 メス』


 キングより十もレベルが高い。しかもこっちはレベル四十の護衛付きだ。

「香木。発見!」

 オクタヴィアがクイーンの持つ棍棒を指差した。

 今それどころじゃないんだけど……


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