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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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エルーダ迷宮狂想曲21

「こりゃ、凄いな」

 地下洞窟の最下層はまさに巨人のコロニーだった。

 敵の数が圧倒していた。

 タイミングを間違えると、向こうの班が橋を架けた途端に襲われる可能性がある。まず向こうの班が来る通路側の掃討が必要だ。向こうには結界がないのだ。殲滅が後手に回ったら危ない。リッチ並みのアイシャさんがいるから、滅多なことはないだろうが、渡ってきた橋はもうないのだから、後戻りはできない。

 僕は『魔弾』を装填した。

 後はひたすら撃ちまくるのみである。

 リオナは弾倉を壁の溝に並べて撃ちまくっている。

 僕も負けじと近場から仕留めていく。

 当初こちらの位置がつかめていなかった敵も、四割を切ってようやくこちらを捕捉する。

 だが、僕たちの弾幕の前に辿り着ける者はいない。

「数も減ったことだし行くか?」

 僕たちはコロニーの中央にある最後の『スイッチ』の上に乗りながら、残党を仕留めていく。

 やがて、魔法が飛び交い、通路の奥から巨人たちが押し出されてくる。

 僕たちは『スイッチ』から飛び降り、仲間と合流する。

 残党狩りは、記録的な速さで行なわれた。

 回収した土の魔石(中)は拾えただけでも五十四個に上った。

「あったのです!」

 リオナがでかい棍棒を指差した。

 アイシャさんが香りを嗅いで、間違いないことを確認した。僕はすぐさまタグを付けて修道院に転送した。

「同じのある」

 オクタヴィアがやって来て、僕たちを別の場所に誘った。

 そこは一見すると木材の加工場だった。どこから伐採してきたのか壁側にはずらりと丸太が積まれ、ローラー付きの滑り台の先に巨大な円盤のこぎりが控えていた。

 入り組んだ木材の束をすり抜けて行くと奥の一角に流木の根っこや幹のようなものがずらりと並んでいた。

 巨人用の棍棒ができるほど丸ごと原木が取れることは現実的には奇跡に近いことだ。故に魔法生成物と断定できるのだが、ここに並んでいる物はまるで天然の香木であるかのようだった。

「まさかね……」

 さすがに冗談だと思われた。棍棒一つでもとんでもない額になるのに、さらに数本分の量とは。

「ギミックじゃないの?」

 ロザリアが問いかける。ロメオ君が肌触りを確認している。オクタヴィアが香木の上で匂いを確認している。リオナもアイシャさんも。

 欲目で判断が狂っているのだろう、結論が出せないでいる。

「止むを得ない。実際に地上に持ち出す以外判断が付かないよ」

 僕たちはタグを付けて、すべて転送した。

 みんな却って精神的に疲れてしまったようだ。

「一旦外に出た方が早いですかね」

 僕がそう言って転移結晶を取り出したとき、リオナが引き止めた。

「まだなのです!」

「まだある」

 リオナとオクタヴィアがそろって一方向を見る。

「匂いはあのなかなのです!」

「え?」

「じゃあ、今までのは何?」

「おまけなのです!」

 僕たちは部屋の奥の一点を見つめた。

 閉ざされた扉……

「本命?」

 全員装備を確認し、軽く万能薬で口を潤した。

 そして、銃に弾込めをして扉に望む。

「開かない……」

 ロメオ君がドアノブを手にしたがびくともしなかった。

 それは開かずの扉だった。

 鍵は何処に? 地図情報には鍵のありかは記されていない。開かずの扉のなかの様子も記されていない。ただ扉があることだけが記されている。

 入り組んだ立体構造のために、地図上でさえ、この場所を特定するのは難しい。仮に分かったとしても恐らくこの入り口は発見できまい。猫的な裏路地の歩き方みたいな方法でないと木材の迷路を越えてくることはできなかっただろう。

 僕は鞄を扉にかざした。

『迷宮の鍵』が反応してカチリと鍵の開く音がした。

 僕たちは扉を押し開けた。すると扉の隙間からとても良い香りが漂ってきた。


『キングジャイアント レベル四十 オス』


「キングジャイアント、レベル四十だ」

 僕たちは臨戦態勢を取った。

 巨大な王座からゆっくりと立ち上がり、岩の壁に立て掛けてあった棍棒を持ち上げる。

「でかいな……」

 まさにサイクロプスサイズ。全長五メルテは下らない。

 こちらを見つめて雄叫びを上げる。

 何かが結界に作用した。

「なんだ? 今の」

「『雄叫び』じゃ。相手を萎縮させるスキルじゃ。足がすくんだものはおるか?」

 全員首を振った。

「婿殿様々じゃの」

 アイシャさんが笑った。

 リオナの発砲と同時にロメオ君の魔法が轟いた。

 結界が見えた。あれは……

「どっちの結界だ! 対物か、対魔か?」

 ロザリアが光の矢を飛ばす。命中する前に掻き消えた。

「対魔よ!」

 ロメオ君が電撃の上位魔法、雷爆を放った。ものすごい放電が室内を襲う!

「眩しい!」

 こりゃ、室内で使う魔法じゃないな。

 耐えきった巨人が一歩踏み込んで、僕たちの頭上に棍棒を振り下ろす。なんてリーチだ!

たった一歩の踏み込みで僕たちを射程に捕らえた。

 僕は結界で受けきった。

 凄い…… 気迫の一撃だった。

 アイシャさんが『鬼斬り』で巨人の手首の腱を切り裂いた。血しぶきが吹き出し、巨人は棍棒を落とした。

 地面が激しく揺れた。

 香木が血に濡れるのは避けたいので僕は水で血しぶきを遠ざけた。

 リオナがいつの間にか足元に回り込んでいた。そして、足の腱を切り裂いた。

 巨人は立っていることもできずに倒れ込む。そして自分の王座にしたたか頭をぶつける。

 そして動かなくなった。

「……」

「?」

「死んだ?」

 僕たちが近づくと突然目を開けて雄叫びを上げた。

 だが、既に勝負あった。

 女たちの一斉射撃が巨人の顔面に炸裂したのだ。

 物理攻撃に巨人の結界はまるで役には立たなかった。

「今度こそ死んだな」

 アイシャさんがリオナとロザリアの勇ましさに苦笑した。

 僕たちは巨人の王の装備品のチェックを行なった。

「こりゃまた、大変なことになりそうね」

 王冠は紛れもない金の塊だった。宝石類も見るからに高そうな代物だ。これだけでも大金なのに、装備も軒並み高価な代物だった。

「こっちは銀ですよ。相当な量だわ」

「でっかい指輪なのです」

 リオナの頭ほどもある宝石が金の台座にはまっている。

 ほとんどががらくただったが、身体の比率が違うので、指輪一つが大金になった。そしていよいよ香木である。

 残念ながら棍棒は香木ではなかった。よく見ると燭台で香木が焚かれていただけだったのだ。

部屋のなかの匂いはまさにたきしめられたものだったのだ。

 全員大きな溜め息を付いた。

「残念」

 外にあった香木がその材料だったというわけだ。とは言え、押収した装備品の価値は香木に匹敵するものに思えた。


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