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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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エルーダ迷宮狂想曲17

『ゴーレム レベル三十五』


 コアゴーレムと比べると子供並みに小さい。とはいえ通路の天井につかえているのだから、大きいと評するべきか?

 こんな光景は久しぶりだ。なんだかほっとする。

「お前は地下蟹か!」

 突っ込みを入れながら一太刀浴びせる。

 胴体が抵抗なく真っ二つになった。

「……」

 肉を切るより抵抗がなかった。ゴーレムに魔力耐性がないからか?

 それにしてもゴーレムの急所ってどこだ? コアゴーレムのような明確な的がないんだよね。

 それでも動かなくなった残骸は、砂に帰る。そしてその砂はしばらくすると魔石に変わる。

 遠くで木偶のように立っているゴーレムに『一撃必殺』を作動させて観察する。

「やっぱり、頭じゃなくて身体の中心が急所のようだ」

 一撃をお見舞いする。弾丸が身体にめり込んで、ゴーレムは動きを止める。

 思ったより浅い。さすがに貫通できなかったが、それでもゴーレムは機能を停止して砂に帰った。

 砂になるんだったらどう切り刻んでも結果は一緒ではないか?

 僕は天啓を受けた。

「遠慮なく切り刻める?」

 やがて砂山は魔石に変わった。土の魔法(小)である。

「時間の無駄だな……」

 普通の冒険者なら、防御能力の高さに悪戦苦闘するのだろうが、僕たちにこのフロアーは無用だ。


「スケルトン先生の代わりにはならんな」

 僕はしばし考え、スケルトン先生のいるフロアーにとんぼ返りをして、暇な先生を探した。

「いた!」

 僕は他のパーティーに取られる前に急ぎ面接を希望する。そして姿を見るや、魔法で燃やした。

「すいません、急いでるんで」

 先生の持っている剣と盾を奪うと僕は再び石の魔物の前に戻って来た。

 脱出用の転移結晶を二つも使ってしまった。あと一つしかないので帰りに補充しないと。

 ガーゴイルは空を飛ばれると面倒くさいので即魔法で破壊する。ちっちゃなトパーズが残った。

 おっ、脱出用の転移結晶代が出た。ラッキー。

「ゴーレムはどこかいな?」

 索敵したら隣の部屋で柱と壁の間に挟まっていた。

「首輪の紐が柱に絡まった犬か!」

 思わず突っ込みたくなる頭の悪さ。

 逆行すれば現状を脱出できるのに、馬鹿の一つ覚えのように同じ方向に進もうと躍起になっている。

「残念な君をトレーナーに雇ってやろう」

 そう言うと僕はなまくらな剣を背中に撃ち込む。

 ガキッン! 衝撃で腕が痺れる。

「痛っ!」

 岩のように硬かった。いや、岩だけど。

 よし、訓練開始だ。

 僕は背中に向かって剣を何度も叩きつける。

 ゴーレムは蚊を払うように身悶え、大きな拳を振り回す。

 表面がわずかに削れた。

 僕は距離を置くと呼吸を整える。

 ゴーレムは振り返り、背中をチクリと刺した敵を見定める。

 ゆっくり回り込む。

 突然でかい腕を振りながら襲いかかってくる!

 ようやく隙間から開放されたか。

 ゴーレムの大きな拳が空を切る。

 僕は腕をかいくぐり、一撃を加える。

 地下蟹と始めてやり合った頃とよく似ている。

 長いリーチが振りの遅さをカバーする。

 僕は『ステップ』を入れて射程外に逃れる。そして側面に回り込むと立て続けに数発打ち込む。

 どれも浅い傷を付けただけで跳ね返された。

 くそっ、いくら切り込んでもびくともしない。地下蟹より硬いってことか?

「『兜割』ッ!」

 小さなヒビが入った。

 拳が降ってくる。

 盾で防ごうものなら腕が折れそうだ。結界で受けながしながら距離を空ける。

 想像以上に硬い。武器の性能でこうも変わるとは。

 やはり物理攻撃だけでは勝てないのか?

 ヴァレンティーナ様の『無双撃』があれば、なまくらでもやれそうだが。

『結界砕き』は結界張ってるわけじゃないから役に立たないし、『一刀両断』は『一撃必殺』と一緒だし。

 間近で見たことのある近接技は思いの外少ない。しかも剣でとなるとなおさら限られる。見なければ参考にもできないし、イメージもできない。僕の実力では近接スキルの取得が時期尚早だったということもあるが、困った、後は『連撃』ぐらいしか思いつかない。

『兜割』を繰り返すしかないか。

 僕は『ステップ』で間合いを詰め、『兜割』を入れる。そしてできた亀裂に『連撃』を叩き込む。

 拳が結界を打ち付ける。僕は回り込んで背中をとると『兜割』を三発入れる。拳大の石が剥がれ落ちる。

 どうにか剣に魔力を含ませることはできないか。安物の剣は魔力が乗らないそうだが、何か方法が。

 僕は切っ先を水で濡らし凍らせた。そしてそいつで切りつけてみた。

 びくともしなかった。だが、そこに雷を這わせたら、表面が破裂して穴が開いた。

 駄目だ、これじゃ魔法攻撃といっしょだ。

 ならはじめから帯電させておいたらどうか? だったら最初から魔法剣を使えという話になる。

 思いつかない。

『兜割』を繰り返すのみ。

 腕が痛い。衝撃でこっちが壊れそうだった。

 何十発も叩き込んだのに表面が剥げるだけだ。

 一瞬力が抜けた。腕に力が入らなくなって、剣は惰性で振り回されるだけになったが、それがクリーンヒットした。ヒビの入った表層が一度にボロボロと崩れ落ちた。

 今のは?

 僕は同じ動作を繰り返した。剣の重さに任せてただ振り回す。今まででも十分力は抜けていたはずなのに、当りが強くなった。余分な力という奴か? 剣にぶれがなくなった。

 不思議な感覚。剣速が今までより鋭くなった。当たる瞬間に力を込める。

 衝撃がないときがある。そんなときはクリーンヒットが入る。

 練習相手にどうかと思い始めていた。

 でも、ゴーレムでよかったかも知れない。

 続けて当たる瞬間に『兜割』を発動させる。

 よし! 以前より食い込んだ。

『ステップ』で僕は逃げる。

 ゴーレムは怒り狂ったように両腕を振り回す。今のは効いたのか?

 僕は後ろに回り込んで、更に鋭い一撃をお見舞いする。

 カウンター気味にゴーレムの腕が飛んでくる。

 向こうのやる気も上がったようだ。

「『兜割』ッ!」

 脇腹が大きく砕けた。が、同時に僕の腕も砕けた。骨が逝ってしまった。クリーンヒットではなかったのだ。

 僕は後方に下がると、薬瓶を飲み干した。痛みが引いていく。

 体勢が崩されて手元が狂った。

 これは面白いことになったと思った。正しくヒットすればすぐ分かるのだ。結果が目に見える形で現れる。

 爺さんの言っていた「相手へ打ち下ろすためだけのものではない」という意味がようやく分かった。何年も練習してきてようやく。頭では理解していたつもりだった。でも、ここまでシビアに感じることができるなんて。

 僕は『ステップ』を踏む。

 懐に一気に近づく。その勢いのまま剣を振り抜く。無駄な力を込めない。振り抜く速さにだけ集中! 『兜割』ッ!

 衝撃が伝わる。このまま押し切れば剣が折れる。剣を寝かせて、力を逃がす。でも体重はさらに前に移動する。切り裂く! アイシャさんが『闇の信徒』の腕を切り落とした一撃が脳裏に浮かんだ。

 ここから身体を捻る。身体が軋む。

 抵抗が突然なくなった。

 僕は勢いのまま前のめりに倒れる。

 反撃が来る!

 咄嗟にその場を飛び退いて振り返る。

 だがゴーレムは固まったまま動かなかった。

 サーッと音がして、身体が砂になっていく。腕が床に落ちて、足も自重で潰れる。

「やった?」

 やったのか?

 魔法を使わず、ゴーレムを?

 僕は笑った。全身が歓喜で震えた。心の底から喜んだ。誰もいないから思う存分喜べた。

「やったぞーっ」

 しばらくすると砂山は魔石に変わった。相変わらずの屑魔石に、色違いのトパーズが出た。

 おおっ、また出た!


 時間…… 何時だろ? 長かったような短かったような。

 せっかく手に入れた剣はもう使い物にならない。元々刃引きしたような剣だったが、完全に逝ってしまった。後数激入れれば間違いなく折れてしまうだろう。

 僕は時間を確かめる意味もあって、地上に戻ることにした。使い潰すための剣を数本購入しよう。それと、脱出用の結晶を買わないと。

 僕は駄目になった剣を捨てて、最後の脱出用の転移結晶を使った。


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