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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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エルーダ迷宮狂想曲16

 サルヴァトーリ・ゼンキチは朝も早くから剣の鍛錬をしている。

 ギルドの口座の再開が容認されて、資金の凍結が解除されると早速、昨日剣の購入にアルガスに向かった。だが、思うような剣は見つからず、とりあえず使えそうな物を見繕ってきたようである。それでも彼の全財産に近いものであったから、同行したアンジェラさんも呆れたという。

「攻撃は最大の防御じゃ。相手を一太刀で斬ってこその剣である」だそうだ。それにしても全財産金貨三百枚をポンと出すところが怖い。しかもとりあえずの剣でそれである。

 爺さんの使っていた錆びた剣は細身の剣だった。恐らくエルフ製の一振りだったのだろうが、この辺りはドワーフ製の重厚な剣が主流である。

 いざとなったら魔石(特大)を手土産にエルフの隠れ里に向かうのもいいだろう。


「師匠、素振り終りました!」

 爺さんの横で素振りしていたのはピノたち男子三人組であった。

 呼ばれもしないのに朝も早くから元気な奴らである。

「次は切り返しじゃ。見とれ」

 そう言うと相手の側頭部を撃つように、剣を斜め左右に切り返す。十歩前進、十歩後退しながら二十本で一セットだ。それを何セットか繰り返す。

 それが済むと、ふたり一組になって打ち込みの練習である。子供たちは木刀片手にへっぴり腰である。余ったひとりを師匠殿が相手している。

 チッタとチコがユニコーンの散歩のために、リオナを迎えに来るまでそれは続いた。


「一服されてはどうですか?」と声を掛けたのが、失敗だった。

「身体がいまいち思うように動かん」

 そりゃ、肉と皮だけじゃ無理だって。筋肉付けなきゃ。

「ちと手伝ってくれんかの」と言われて、既に小一時間が過ぎようとしていた。

 こちらは汗だくである。

「婿殿にはその剣はまだ重そうじゃな」

 自覚してはいたが、剣豪にズバリ言われるとやはり動揺してしまう。自分の線の細さが恨めしい。

「貸してみろ」

 僕は言われるまま剣を差し出した。

 するときれいな演舞を軽々やってのけた。

 なんで? 身体が思うように動かないんじゃなかったのか? 

『ライモンドの黒剣』は爺さんの言う通り、お世辞にも軽い剣とは言えない。長めの刀身にアダマンタイトのせいで通常の剣より重い剣なのだ。

 なのに…… 冗談抜きでこの爺さん、只者じゃない。

 止めのシーンでわずかに切っ先が震えるのは、筋肉がないせいだが、見るからに美しい。アイシャさんの流れるような太刀筋にも通じるものがある。

 淀みがない。ずっと見ていたくなる。

「腕力が無くともこの程度はできる。剣の重さは武器である。だがそれは相手へ打ち下ろすためだけのものではないぞ」

 あっ、同じことを言われたことがある。

 実家で騎士の修行に付き合ってくれた守備隊のにわか教官殿に同じ指摘をされた。

「手の延長だと思ってもっと剣を振ってやりなされ。せっかくの剣が可愛そうじゃぞ」

 それから、食事をするのも忘れて、先ほどの演舞を一から学んだ。

 それはオクタヴィアが迎えに来るまで続いた。


「婿殿、手っ取り早く金を稼げる場所はどの辺りじゃろうのう?」

 地下七階の火蟻女王で一攫千金と答えそうになるのを堪えて、「ヒドラなんてどうでしょう?」とお茶を濁した。

「ヒドラか…… 順番待ちしておろうな」

 今は、パーティー同士が協力して九本頭を狩る慣習ができつつあるから、昔ほど滞ってはいないみたいだが。

 そもそも爺さんの言う一攫千金というのが、どれくらいの額を言ってるのかにもよるな。

「何か欲しいものでも?」

「見ての通り装備もない始末じゃからな。それに業物も手に入れたい」

 上限設定はないわけね。

 とりあえず装備だけでもなんとかしないとな。

「そうだ」

 こないだの食人鬼の砦の売却益をまだ取りに行っていなかった。あのフロアーの売り上げはいくらになったのか。いくら稼げたところであそこはお薦めコースにはできないが。

 散歩がてらに行ってみることにする。

「ついでにスケルトン先生と練習でもするかな」

 どちらがついでか分からないが、僕は振り子列車に乗る。

 お菓子の缶の中身が黒猫のおかげですっからかんであった。

 読み終わった本が何冊も置きっ放しになっているし、ゴミ箱も溜まり気味だった。お菓子は補充するとして、一度整頓した方がいいだろう。



 スケルトン先生は多忙であった。門下生に囲まれて踏んだり蹴ったりであった。

 仕方がないので僕は明日の予習のために地下十六階に入った。

 このフロアーには罠がない。狭い廊下と天井高の部屋との連続で構成されている。

 このフロアーの敵はガーゴイルとゴーレムである。

 どちらも石の魔物で人気がない。しかもドロップするのは土の魔石なので更に人気がない。

 落とすのは鉱石と宝石、それと武器だ。ガーゴイルは槍系をゴーレムは槌系だ。

 魔法使いの小遣い稼ぎには向いているフロアーだが、ここで通用する魔法使いならもっと下の階にも行けるのでここで狩りをする者は少ない。

 当りアイテムはレア鉱石とレア宝石だ。ただ量は出ないようなので、傷むだろう武器の手入れ代ととんとんになるらしい。石を叩くのだから、刃のある大抵の武器は駄目になる。

 我が黒剣を使っていいものか…… 刃こぼれしたらやだな。まあ、以前使っていた剣でも地下三十一階のコアゴーレムをチーズにできたのだから問題ないだろうが。

 今日は、味方がいない分、慎重に行かないと。

 祭壇のある天井の高いドーム型の講堂に踏み込んだ。

「二匹いる!」

 石柱の上でオブジェになって固まっている。コウモリの羽が生えたミノタウロスのようである。


『ガーゴイル レベル三十五』


 石の化け物だから性別はないらしい。一振りの槍を持っている。

 空中戦は不利だ。

 僕は氷槍を奴らの羽に見舞った。

 羽は凍り付く前に砕けた。

 襲われて動き出したガーゴイルは二匹とも石の柱からバランスを崩して落ちた。落ちて彫像のように砕けた。

 転落死である。

 土の魔石(小)と鉄鉱石一欠片にそれぞれ変化した。

「うわ、やる気なくすな、こりゃ」


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