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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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エルーダ迷宮狂想曲14

「ワイバーンがいる」

 チコが心配そうである。

「指揮、替わりましょうか?」

 ヴァレンティーナ様が聞いてくるので、僕は問題ないと答えた。

 以前の自分なら頷いていただろうが、今の自分なら、最悪船は守れると思った。

「身体を固定しろ!」

 年少のなかでも幼いチコだけは固定するものがなかったので、クルーと替わってもらった。

 オクタヴィアがチコの元に向かった。チコは姉に近い座席に座ってベルトを締めた。

 リオナが青柄の双剣銃を取り出した。

 ロザリアも窓の外に魔法を放つべく、イメージ作りを始めた。

 大人のクルーたちも座席に身体を固定しながら銃を外に向ける。

「前にもワイバーンがいるよ!」

 二匹か? ほぼ前回と同様の位置だ。

「もう一匹いる」

 ピノがさらに別の場所を指差す。

 前方に二匹の待ち伏せか……

「操縦席に行きます」

「ここは任せろ」

 僕はテトの元へ向かった。

 操縦席では意見が飛び交っていた。

「後方の一匹をまず落とすべきだ! 退路を確保しないと!」

「このまま最大戦速で突っ切った方がいい! 後方の一匹は追いつけない!」

「とりあえず壁から離れるべきだ! 奴らの航続距離は長くない!」

 どれも的を射ているが、どれも不正解だ。

「テト、高度をギリギリまで上げるんだ。速度も一杯まで出せるように今から上げておけ」

「了解!」

 棟梁が笑った。

「いいですよね?」

「勿論だ。安全率は取ってある」

「滑空してくるワイバーンはこの船より速いぞ。高い位置にいるワイバーンには気を付けるんだ。逆に低い位置を飛ぶワイバーンになら多少接近しても大丈夫だ」

「それじゃ、最初に仕掛けてくるのは……」

「一番高い場所にいるあれだ」

 指差したワイバーンが翼を広げた。

「来るぞ!」

 羽を羽ばたかせ、断崖を蹴り出してそれは空中に身を投げた。

「距離を取ります!」

「追い付かれる前に撃ち落とす!」

 僕は探知スキルで距離を詰めてくるワイバーンを捕らえる。

 雷をお見舞いしようにも位置が定まらない。

 姉さんやロメオ君のようには行かない。地上の敵ならいざ知らず、相対的に動きまくる相手に狙いを定めるのは難しい。発動の遅い落雷系では尚更だ。

 でも考えはある。

 制御系の苦手な僕がいつもしていることをすればいいのだ。そのための魔法。

 僕は雷壁(サンダーウォール)をワイバーンの進路の前に放った。稲妻の柱が幾重にもワイバーンの進行を塞いだ。

 ワイバーンは巧みに避けるが、そのうちの一つが翼に触れた。

 衝撃で、弾けて別の稲妻の餌食になった。意識を失ったのか、麻痺したのか、動かなくなったそれは錐揉みしながら地上に落ちていった。

「一匹撃破!」

 ピンポイントで当てられないなら落とし穴同様、範囲指定してやればいい。

「すっげー」

 キャビンでピノが興奮している。

 よし、これくらいの魔力消費なら問題ない。

「二匹目、左舷より接近中」

 クルーが知らせてくる。

 突然、ワイバーンの速度が落ちた。

「リオナだ」

 この距離で銃弾を当てられるのは、リオナだけだ。

 でも、いかんせん威力が足りない。

「高度を上げながら旋回! 距離を維持しろ!」

「三匹目はどこだ?」

「右舷後方!」

「リオナ、もう一度動きを止めろ!」

 ワイバーンの首が弾かれ、大きく反り返る。

 羽ばたくのを止め、ワイバーンは力なく地上に落ちていく。

「脳震盪ですかね?」

「地上に落としてしまえば怖くない」

「残りの一匹は?」

「付いてきます!」

「よし、片付けるぞ」

 僕たちは意気込んだ。あっという間の殲滅に気をよくしていた。

 だが次の瞬間、三匹目のワイバーンが雲間から現れた巨大な何かにさらわれた。船尾の様子は肉眼では捕らえられなかったが、「ロック鳥だ!」と誰かが叫んだ。

 『魔法探知』した限り、全長三十メルテはある巨大な鳥だった。飛行船並みのでかさだった。

「ロック鳥離れていきます」

 想定外のできごとだった。

 こちらが気付く前に接近離脱していった。ワイバーンに気を取られて、ノーマークだったかも知れないが、余りの手際のよさに全員が呆然となった。

 完全に出し抜かれた格好だ。これだけ獣人たちがいたのに。

「進路戻せ」

 この辺りにはあんな奴もいたのか……

 谷を抜けたので、戦闘態勢が解除された。

「次にあいつに遭ったら捕捉できるか?」

 子供たちも含めた獣人全員が頷いた。

「誰かに見られてる気はしてたんだ。今度は大丈夫」

 テトが言った。

 余程の高さから狙っていたのだろうな。全員が大丈夫だというのだから信じよう。


 やがて一際高い大木が森のなかに現れる。

「『迷いの森』です」

 キャビンに戻った僕はヴァレンティーナ様と右側の座席を占めている人たちに言った。

「ここがゴールか……」

 開発担当者が回頭する船窓から周囲を見渡した。

「よし、船員交替だ」

 ヴァレンティーナ様の掛け声で子供たちはお役御免になった。

 僕も立ち位置返上である。

 ただの客としてリオナの横の席に座る。

「さっきのあれはなんだ?」

「新型弾頭なのです」

 そういうとポケットから弾頭の残りを取り出した。

「麻痺弾らしいです」

 後ろの座席にロザリアが座った。

 人には作るなって言ったくせに!

 加工方法は貫通弾の入れ子構造を踏襲しているようだった。

「これって売りに出すの?」

「冒険者たちのご要望にお応えしてね。これなら大物狩りにも使えそうでしょ?」

 マギーさんが言った。

 威力にリミッターが掛けられている状況ではいいアイデアだと思うけど。

「いくら?」

「いくらぐらいがいいと思います?」

「どこまで効くかによるんじゃないですか? 運に任せる程度なら銀貨一枚でも高いですよ。でもB級クラス以上の魔物を黙らせられるのなら、金貨を払っても惜しくはないですね」

「リオナは銀貨十枚まで出すのです。獣人には嬉しいサプライズなのです」

「特殊弾頭を使い分けるなら、複数の銃を携帯するか、複数の銃身のある銃が必要です。そう考えると、使いどころに困ります」

 いろいろ言いながらリオナとロザリアはマギーさんから百発ずつ譲り受けることになった。どの程度の敵にまで通用するかとりあえず検証するらしい。

 少なくともワイバーンには何分の一かの確率で効くことが分かったので、船に常備してもいいだろう。

 マギーさんは粛々とメモを取った。

 そういえば状態異常系の魔法覚えてなかったな。僕の場合、そっちが先か……

「それより明日が心配ですわね」

 ロザリアが言った。

「明日?」

「明日の迷宮の相手、さっきのあれですわよ」

「あれ? ワイバーン?」

「じゃない方」

「嘘…… あんなでかいのやるのか? っていうか、あれが飛び回るスペースがあるのか?」

「弟君、ロック鳥狩るんですか?」

 マギーさんが聞いてくる。

「エルーダ迷宮の次の相手らしいです」

「それは大変ですね」

「大変なんですか?」

「ロック鳥のフロアーの敵はロック鳥一羽だけだって聞きましたけど?」

 ロザリアも首を捻る。

「あのフロアーの出口には扉があってね。専用の鍵がないと開かないんですよ」

「『鍵開け』とか、スキルじゃ駄目なんですか?」

「『迷宮の鍵』でも開かないって噂ですよ」

 試すしかないな。

「それでその鍵は?」

「ロック鳥が持ってるんです」

「それって、やり過ごせないってことですか?」

「そういうことになりますね。しかも一羽しかいませんから、探すの大変ですよ。先客が先に退治しているケースもありますから、数日立ち往生することもありえますね」


 ロック鳥に警戒しながら渓谷を抜け、定番の狩り場で昼食を取って、僕たちは帰路に就いた。


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