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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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エルーダ迷宮狂想曲(一番艇ロールアウト)13

 呪いなら、万能薬でも解除できたんじゃないか?

 湯船に浸かりながら今更そんなことを考えている。

 さすがに今回は難しかったか? 

 仮に回復したとしても、ロザリアがいい顔しなかっただろう。教会が高度な回復薬を目の敵にする気持ちも分からんでもない。

 実際、今日のロザリアは凄かった。人の生死に向き合う姿勢がまるで違った。恐らく、幼い頃から叩き込まれてきたんだろう。

 それにしても、気に掛かることがある。

 姉さんたちは一体どうやってあの宝箱を開けたのか、という疑問だ。爺さん以上のスキル持ちを用意したのか? どうも違う気がしてならない。

 風呂を上がったらアンジェラさんに聞いてみよう。


 爺さんとアイシャさんはガラスの棟の食堂で、宴会を始める準備をしていた。酒とコップと氷を持ち込むだけだが。

 アンジェラさんは台所でそのつまみ作りをしていた。

「ああ、それなら姫さんの無双なんたらっていう必殺技があったろ? あれでバッサリだよ。それも遠距離からいきなり、宿営地ごと真っ二つだ。おかげで罠が発動しちまって、宿営地に詰めていたボスクラスの食人鬼たちが悶え苦しんでたわね。レジーナがレジーナなら姫さんも姫さんだよ。おかげでコインまで真っ二つになっちまって、その後の選別、大変だったんだから」

 姉さんじゃなくて、ヴァレンティーナ様だったのか…… まさか『次元断絶・無双撃』を宝箱に使うなんて…… そりゃなんでも切れるでしょうけどね……

 あの人たちには永遠に勝てる気がしないよ、いろんな意味で……

 僕はロメオ君と子供たちの帰宅を見送り、明日に備えて早々眠りに就いた。



「朝なのです!」

 リオナに起こされて目が覚めた。

「おはよう。何時?」

「みんなもう来てるのです」

 僕は慌てて衣装を着替えて、洗面所で顔を拭った。

 今朝はエミリーが朝食を用意してくれたようだ。

 子供たちは、いつもよりいい服を着てめかし込んでいる。

 でも口の周りはいつもと変わらずベトベトだ。

「アンジェラさんたちは?」

 僕はエミリーに尋ねた。

「明け方まで飲んでましたよ」

「病み上がりの爺さんに徹夜させんなよ」

「万能薬がありますから」

「酔い覚ましじゃないぞ」

 僕たちは笑った。

 オクタヴィアも朝食だ。猫がテーブルに着いている異様な景色にも最近ようやく慣れた。

「ご主人寝てる。酒臭い」

 そう言ってこっちを見る。

「一緒に行くか?」

 尻尾が二本ピンと張る。そして大きく頷く。

 リオナも行くとごねるので、結局、全員で行くことにする。定員的に船には乗れないだろうが、見送りはできる。

 工房に行くと、既に簡単な式典が行なわれていた、というより酒盛りの準備だ。

 なんだ? 工場出荷する度に宴会する気か?

「おー、来たか」

「待たせましたか?」

「いや、まだ早い」

 棟梁が出迎えた。

 ドックに出航準備を整えた一番艇と、商会用の二番艇が並んでいる。更にその奥に三隻建造が始まっていた。

「注文あったんですね」

「ああ、近場の領主たちだ。一隻はアルガスの坊やのものじゃな」

 フェデリコ君も買ったのか。アルガスなら北部以外なら乗れるか。旋回竜程度なら襲っては来ないだろう。

「お、来たぞ」

 振り返ると、美女軍団が工房に入ってきた。エンリエッタさんもサリーさんもいる。当然マギーさんも。なんだか懐かしい。

 エンリエッタさんは偉くなってしまったから、会える機会が少なくなってしまった。久しぶりだ。

 僕たちは道を空けて棟梁の横に並んだ。

「早いわね。今日はよろしく頼むわね」

 棟梁と握手を交わす。

 子供たちも顔なじみの一番艇のクルーたちと挨拶を交わす。飛行船や僕の船を使っての訓練で顔を合わせる機会が多いらしい。

「出航準備!」

 棟梁が叫ぶ。クルーが乗り込み、スタッフと最終確認をする。

「よし行こう」

 棟梁が僕の背中を叩く。

 今回は棟梁も乗り込むらしい。

 リオナは姉と乗船の交渉をしている。ロザリアはヴァレンティーナ様と親交がなかったので緊張していた。

「許可出た」

 オクタヴィアが僕の肩に乗る。

 子供たちも乗船を始める。


 五人組の子供たちは定位置に付いた。行きの操縦は子供たちが行なうらしい。

「出航準備完了!」

 操縦席からピオトが顔を出して言った。

 僕は地図が広げられたメインキャビンのテーブルの前で、ヴァレンティーナ様と目配せした。

「出航だ」

 

 今回のフライトは、高台経由でエルフの隠里へ向かうルートの往復だ。

 僕たちの定番ルートを経由するので、道案内を兼ねて子供たちが操縦を引き受けたらしい。

 せっかくの処女飛行、専属クルーたちが誰より先に操縦したかろうと思いきや、練習であれこれ乗り回しているので、特にこだわりはないらしい。


 姉さんからの報告は上がっていたようで、地図には既にエルフの隠れ里の印があった。

 狩り場から先、里までのルートを実際、知っているのは姉さん以外、僕しかいなかった。

 今回の処女飛行、街道建設のためのルートの下見も兼ねていた。

 エルフたちは未だに開放か閉鎖かを決めかねていたが、あの日以来、町でエルフの姿を見かけることも増えてきている。開放を待つ者は確実にいる。森の外れまででも道ができていれば、自ずと交流も生まれようというのが、こちら側の思惑である。


 船は領主館の真上、町の結界ラインに辿り着いた。

 さすがにテトもなれたものだ。

「結界の開放を」

 ヴァレンティーナ様がクルーに指示を出した。

 鐘楼の鐘が鳴った。

 飛空艇はゆっくりと城壁の上を越えて行く。

 全員が見下ろしている。

「事前に決めたルートでお願いね」

 僕はピオトにルートが右手に見えるように飛べと指示を出した。

 それを聞いたヴァレンティーナ様は右手の席に建設の担当技師と防衛担当のエンリエッタさんを座らせた。

「ピノ、周囲警戒」

「了解」

「チッタとチコもな。いつも通り頼む」

「はい、若様」

「任せてー」

 船は町を北に抜けて東の断崖に沿って進む。

「見渡す限り緑一色ですね」

「ですが、崖に沿って渓流も流れておりますから、水に困ることはありますまい」

 馬車での移動を考えると水源確保は重要だ。

「冒険者だ!」

 ピノが見つけた。

 視界で捕らえられないほど遠いところを、馬車を走らせている一団を見つける。

「既に馬車道があるのか?」

 建設担当者が感心する。

「彼らはどこへ?」

「この先に青の洞窟があります」

 チッタが発言する。

「地底湖があるとても美しい洞窟です。観光スポットにすべく、住み着いている魔物の追い出しにかかっております」

 獣人のクルーが捕捉する。

「魔物も気の毒に」

 ヴァレンティーナ様が同情する。

「ドラゴンフライですよ?」

 エンリエッタさんが突っ込んだ。

「なるべく町から離れて貰いましょう」

 ヴァレンティーナ様がすげなく答える。

 クルーが笑った。すると子供たちも緊張が解けたのか、いつもの笑顔を取り戻した。


「もうすぐ上り坂が見えてきます」

 僕たちが発見した高台へ向かうルートだ。

 担当者は望遠鏡を取り出し、窓にへばり付く。

 何も言わなくてもテトは船の速度を落とし、船を崖に近づけた。

「断層ですね。地層の堅さは調べねばなりませんが…… 恐らく行けるでしょう。道幅もあるし、傾斜も緩い…… 馬車でも十分通れますね。予算も掛からなくて済みそうです」

 船は回頭しながら高度を上げていく。

 そして最大加速、進路を南へ一直線。僕たちの狩り場を越えて、エルフの隠れ里へ。

 でもその前に、ワイバーンの渓谷が待っている。

「周囲警戒! ワイバーンの巣が近いぞ、みんな」



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