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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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エルーダ迷宮狂想曲(ゼンキチ接触編)11

「わしは、今まで何をしておったんじゃ」

 ほんと何してたんでしょうね。

 立ち尽くす姿はまさにスケルトン先生。剣は折れているというのに、自重が腰骨にかかる姿が板に付いている。

「砦の鬼たちを切り刻み、剣の腕を磨き、気配を操り、いつの日にか日の当たる場所に帰らんと欲するも、未熟ゆえズルズルと今日まで……」

「なぜ、こちらを襲った?」

「腕試しじゃ、殺す気はなかった」

「十分強いと思うが?」

「ここに来る冒険者には太刀打ちできぬ。現に、そなたらにさえ勝てぬ始末。まだまだ未熟じゃ」

 未熟と言っても集団を相手にしてのことだろう? 比べ方がそもそも間違ってる。一対一なら十分勝っているだろうに。

「食事はどうしておった?」

「食人鬼の飯も不味くはないぞ。通りすがりの者から失敬することもあったしの」

「地上に戻ろうとは思わなんだか?」

「何度も思った。じゃが、日に日に見窄らしくなっていく己の姿がいつしか恥ずかしゅうなってしもうての。せめて修行の成果を上げてからと」

 そんな理由で三十年かよ。自分で言ってておかしいと思わないのか?

「じゃがとうとう剣が折れてしもうた。血を拭い、浄化するだけでは手入れもままならぬ」

「で、どうする? このまま、ここに留まるのか? 我らは一緒に来て貰っても構わんぞ。頂上に用があるから、少し付き合ってもらうことになるがな」

「頂上? そういえばわしも何か頂上にやり残したことがあったような……」

 信用のおけない爺さんだ。

 確かに身に付けている物すべてが年代物のぼろ切れだ。でも三十年も迷宮に籠っているなどと誰が信じる?

 アイシャさんはなぜ何も言わない?

「では、行こうか」

 爺さんを引き連れ、先を急ぐことになった。


「前回宝箱が開けられたのはいつかじゃと?」

 アイシャさんが爺さんに尋ねた。

「そなたもここの宝箱のことは知っていよう?」

 砦を過ぎるとしばらく山道が続く。

「確か…… 恐ろしい目に合ったような……」

 景色は最高だった。振り向いて崩壊した砦の姿を見なければだが。

「そうじゃ! えらく凶暴な魔女がおったの。砦を丸ごと焼き払うような奴じゃった。わしはなす術なく逃げ回ったんじゃ。なんせ警告から魔法発動までわずか数秒じゃぞ。どう逃げろと言うんじゃ」

 なんか思い当たる節があるんですけど……

「それっていつ頃のことですか?」

「五年…… いやもっと前じゃな、十年ぐらい前じゃ」

「え? それ以来、宝箱開いてないの?」

 ほんとに? 確か一日金貨十枚ずつ増えるんだよね。ってことは、三千六百日は経ってるんだから、金貨三万六千枚!

「二、三度、箱まで辿り着いた者はおったの。皆、罠の前に撃沈したがの」

「てことは僕たちが開けられたら金貨十年分ですか?」

「いや、最大で一年分じゃったはずじゃ。今なら三千六百枚じゃ。宝箱の大きさは決まっておるからの。無限には入らん」

 それもそうだな。

「なんだ、残念」

 ロメオ君も毒されてきてるな。金貨三千六百枚だよ。五人で分けても七百二十枚だよ。

「それで、罠にかかった人たちって?」

「一組は全滅したの。確か毒を食らって。猛毒だったようで手持ちの薬では回復しきれんかったようじゃ。二組目はそやつらの救出部隊じゃった。大所帯での。だが、そいつらのなかにも開けられる者はおらなんだの。三組目は三年ほど前じゃったな。やはり開けられずに戻っていったよ」

 まるでこのフロアーの生き字引だな。


 山を半周すると隣の峰までまた橋が架けられている。

「誰もいないのです!」

 リオナが嬉しそうに僕を見る。

「時間が惜しいわね。やっちゃってくれるかしら?」

 アイシャさんもノリノリだ。

 最高額が眠っている宝箱が待っているのだ。乗らないでどうする。

 ロザリアとロメオ君は装備を買い換える話を早々と始めている。

「お主ら、宝箱の罠はそう簡単に解除できるものじゃないぞ」

 老人は釘を刺すが、結果は分かっている。

『迷宮の鍵』がなければ、そもそもここへ来ようとは思わない。元々スキルがないのだから鍵が駄目なら、あっさり諦められる。迷いはない。だから気負いもない。

「突き進むのみ!」

『魔弾』! 発射ッ!

 今度も対魔結界が張られていたが、軽々貫通させた。

 そして関所入り口を中心に、一帯が吹き飛んだ。

「なっ!」

 老人は目を丸くしている。

 関所の門は城壁もろとも消し飛んだ。

 第二、第三射で城壁を完全に破壊した。

「か、か……」

 言葉にならないようだ。どこぞの魔法使いよりやり口が乱暴だとは思うけど。

 僕たちは瓦礫のなかを凱旋する。

 もはや、食人鬼の残すアイテムなどどうでもいい。

 散発的な攻撃を凌ぎながら、先を行く。

 そして、最後の関所が現れた。

「なんじゃあれは!」

 異常な事態になっていた。


『闇の信徒(ダークイスト)破壊者(デストロイヤー)、レベル五十五、オス』


 まさかこんなところにまで。

 それは巨大な食人鬼だった。その巨体はもはやサイクロプスや、コアゴーレムのようだった。

 頭が一つも二つも突出しているそれが、食人鬼をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、無差別に葬っていた。怒声が大気を振るわせる。

「婿殿の攻撃が常識を越えたかの?」

 それって迷宮に悪影響を与えたと?

「またミスリルが手に入るかしらね?」

 ちょっとアイシャさん! 止めてよね、そういう冗談。

 でも…… 手に入ったら、自分の分は飛空艇の外壁に使おうかな。

「あれは、なんじゃ?」

 サルヴァトーリ・ゼンキチは驚愕する。折れた剣の柄を握る。

「あのような敵はここにはおらなんだ」

 そりゃそうだろ。迷宮の安全装置なんだから。滅多なことでは出てこない。

 でも、そうなると僕のパワーアップ版『魔弾』は当分、迷宮内では使えないことになる。て言うか僕のせい?

 そうそう使う機会はないだろうけど……

 深度が深くなれば、迷宮も出てくる魔物に合わせて強固になるだろう。そのときまでのお預けだ。


 蹴散らす食人鬼がいなくなったせいで大人しくなった破壊者が上手から道伝いに降りてくる。

 リオナが動いた。

 必中を使うことなく、でかぶつの顔に集中して銃弾を浴びせる。

 破壊者にはびくともしなかった。

「硬いな……」

 敵が誘いに乗ってリオナに向かって一直線にやって来る。

 途中大木を引き抜き、投げつけてくる。

 落雷が落ちる。大木が明後日の方に飛んで行く。

 ナイス! ロメオ君!

 よろけて踏ん張った足元の地面に穴を掘った。

 破壊者は穴にはまって見事に横転した。

 リオナもアイシャさんも既に消えていた。

 リオナが至近距離から眉間を狙う。

 岩のような頭が揺れた。

 リオナの赤柄の一撃が襲いかかった。

 巨大な手のひらがリオナを押しつぶそうと振り下ろされる。

「まだ意識がある!」

「やらせん!」

 アイシャさんの一撃が巨木のような腕を一刀両断する。

「ほおッ」

 爺さんが感心する。

 その間にリオナは二発、三発と顔面に食らわせ、最後は剣を眉間に突き立てた。

「硬かったのです」

「見事じゃ!」

 老人は我がことのように喜んだ。

 今回の戦利品は、当然装備一式なのだが……

「使えねー」

 全身がらくたで構成されていた。材質も粗悪なもので皮と鉄が使われていただけだった。

「金目の物はなしか……」

「残念な奴なのです」

 結局、魔石になるのを待って魔石を回収した。風の魔石(大)だ。

 食人鬼たちの最後の宿営地は壊滅していた。

「おおっ!」

 大量の装備品と魔石が転がっていた。

「捨てる神あれば拾う神ありですね」

 僕たちは、使えそうな装備品を回収して回った。

 さすが食人鬼の最後の砦。食人鬼のボスクラスの落とすアイテムは掘り出し物が多かった。

 僕は宝飾類を始め、貴重な物を袋にまとめて転送した。

 そして、破壊された王座の後ろにある補給物資のなかから宝箱を見つけた。

「フーッ」

 僕は大きく息を吐き出した。

 いよいよである。


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